11.すぐにわかります
「
そう言うと、途端に不機嫌そうに顔をしかめる。
協力するどころか勝手に連れ出した男では、十分な手駒にできないのだろう。故意に聞かされた会話と巽のつての情報によれば、彼はまだ生きているはずだが、切り札が何であれ、失効したら、生死は問わず未来を与えるつもりはないだろう。
探索ついでに杉岡を連れ出すよう頼んだのだが、まだ、時間を稼ぐ必要があるようだ。
「それで具体的に、研究者って何をするんです?」
「君には、すぐにしてもらいたいことがある。上田、このお嬢さんをもう一度おつれしなさい」
話は全て聞こえていたのか、先ほどの黒眼鏡の男が、戸を開けて和希を
和希に続き、当然のように立ち上がった巽を
ああそうだ、と、和希は弁舌を振るった男を見た。
「ご高説は拝聴したけど、とりあえず一つだけ、訂正を求めよう」
「何かね?」
「ボクを気遣ったのは、長良幸であって化け物なんて名前のないものじゃない。まあ彼も、あなたなんかに名を呼ばれたくはないだろうけど」
鼻で笑われた。理解を求めたかったわけでもない和希は、そんなものだろうと肩をすくめた。
案内の、どうやら上田というらしい男は、何も言わずに、先ほど和希をつれてきたのとそっくり逆の道をたどって先導する。
「お前の友達は、そんなに大層な
「らしいね」
ふうんと、どこか気抜けする反応を聞きながら、和希は再び、エレベーターに乗り込んだ。
「ボクは、お涙頂戴の寸劇でもさせられるんですか」
「立ち会っていただくだけのことです」
「何に?」
「すぐにわかります」
感情の読めない短い会話の間に、目的の地下二階に到着してしまった。ところが、開かれたそこは、先ほど和希が見た状態とは変わっていた。
がらんとしていた広い空間の真ん中に、手術台が移動されている。
そこに、四肢を金属で固定されて、幸が寝かされている。体中に、モニタ観測のための、測量器具が取り付けられていた。
少人数の、器具を設定し、観察する白衣の者らに混じって、黒服に黒眼鏡の者も、白衣よりはやや少ないが立っていた。
唇を噛み締め、足早に近付く和希のわき腹に、硬い物が押し当てられた。予想はしていたが、目で見て確認する。
「結局、信用はされてないってことか」
「今回ばかりは、ご容赦ください。以後は、あなたの働き次第です」
「以後があればな」
いつの間にか寄り添う別の黒服に同様に拳銃を押し当てられた巽が、和希に並んで気楽に言った。はっとして、しかしそんな変化は気取られないよう、落ち着いて青年を見ると、口の端を持ち上げる笑みが返された。
電波の届かない地下だが、巽は、報告を受け取ったようだった。
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