9.俺の叔父だ
「実を言うと、俺も良くはわからないんだけど。
「誰に?」
「…少なくとも一人は、俺の叔父だ」
今度は、驚かないんだなとは、言わなかった。
「叔父は、去年の夏、
去年の夏と言えば、
もっとも、夏と言っても幅広い。そう告げると、
「そう思って、俺も、長良が引っ越して来た時期を調べたんだ。叔父が移ってきたのは、その一週間前。偶然かもしれないけど、それでも、たまたま、引っ越してくる一週間前に引っ越してきて、たまたま、その当人たちを知ってて、その付近で姿が見え隠れするってのは、ちょっと偶然が過ぎないか? ないとは言わないけど、だけどそれなら、長良のことを知らないなんて言わなくてもいいはずだろ?」
思い込みと取れないこともないが、力也の中では、確信があるようだった。
「叔父さんって、会長と同じ名字なんですか?」
「いや。母方だから、違う」
「なんて名前なんです?」
じっと、目を覗き込まれた。
真っ直ぐで、羨ましいほどに力強い視線。
真っ直ぐに、力強く。和希には、手に入れることのできないものだ。和希は、竹の子の時に、歪んで伸びてしまっている。
そのことで誰を
「
和希は逆に覗き込んで、にっこりと
「何をですか?」
少しの間見つめあったが、やがて、溜息と共に、力也の方が目を
幸ではないが、和希も、これ以上人を巻き込むつもりはない。覚悟を決めての人でなければ、尚更だ。
力也は、深々と息を吐くと、苦笑を浮かべて肩をすくめた。
「悪い、色々とわけのわからないことを言ったな。そろそろ帰るよ」
「そうですか? ああ、会長。はっきり言っておきますけど、幸とは付き合ってませんよ。少なくとも、今は。そもそも、今までに恋愛対象で見られた人っていないんですよね」
「え?」
「折角来てくれたから白状しますけど、祖父に男の子として育てられたものだからか、なかなか、そういった風に思えなくて。女の子が好きってわけでもないですけど」
力也の、驚くというよりは、理解できていない顔を眺めて、ここで笑ったら失礼だよなあと、
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