8.時間も無限ではありませんし
和希は、窓を閉めて玄関に視線を戻した。
「同席許可は取ってあるよ」
和希の
そしてここでの宣言は、抜き差しならない状況に
まるで
祖母と
迎えを
最後の切り札に取っておくことも考えられるが、果たして和希は、そこまで重視されているのだろうか。
男は、軽く肩をすくめた。
「それでは、時間も無限ではありませんし、本題に入りましょうか。
どこが本題なんだか。
そう、声に出さずに呟く。ここまできたら茶々を入れるつもりはないが、表皮だけの
とにかく、これで目的地までは連れて行ってくれるはずだ。勿論、その先には、
「…
「そうですね。多少は、違ったと思います」
「行く」
「幸!」
「文句は言わせない」
「わかった。それなら、ボクも一緒に行かせてもらう」
「駄目だ」
敵意であるはずはないのだが、強い意思を込めて、睨み付けられる。さすがにこれでは、軽口の出ようもない。
ぴんと張った空気を伴い、見つめあう二人を、黒スーツが面白そうに見やっていた。
「ここまで来て、それはないだろう。ボクも行くということで、話はついていたと思ったけど?」
「勝手に思い込んだんだろ」
「幸。もう一度、そんなことでボクと言い争うつもりか」
「…頼む」
静かに、言っただけだ。静かに、たった一言。
深々と、和希は溜息をついた。
「わかった、好きにすればいい。それが君の望みと言うならね。学校には、ちゃんと戻るのか?」
「さあ、どうだろうな」
「お話は済みましたか」
嫌味な冷笑を浮かべて、黒スーツが口を挟む。
それを睨み付けて、どうぞと、和希は幸の肩を突いて送り出した。幸は、和希と向かい合っているというのに、見ようともしない。無理に、視線を外して顔を
扉が開き、閉まる。
そうして、二人が出て行くと、和希は、部屋の受話器を取った。無断借用だが、このくらいで怒りはしないだろう。
「――はい。和希です。――ええ。そちらはどうです? ――それなら良かった。――いえ、ただの確認ですよ。――ええ。そうですね。車を一台、回してもらえると助かります。――はい。では、また後ほど」
祖母との長くはない通話を終えると、和希は、ぐちゃぐちゃの部屋を最後に
さあて、長い一日になるか短い一生になるか。
声には出さずに呟いて、和希は、アパートの前で大人しく、迎えの車を待った。
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