6.手を貸してくれないか

「確認くらい、するべきだろう。接触する気があるのなら、家に戻ったときを狙うかもしれない。おっと、今すぐに戻る、というのは無しだ」

竜見タツミ

「キミの生活くらい、さぐるなり報告を受けているなりしているだろう。ボクの存在なんて、すぐに露見ろけんする。あの時、追ってこなかったのが不思議なくらいだ。それとも逆に、知っていたから見逃したのかな。そしてそれだけ、彼らの側に、事を有利に運べるという自信があったのではないかな。荒事に持ち込まずともキミを抑えられると。杉岡さんを人質に立てられるなら、そう判断してもおかしくない、と考えるけど、キミの意見は?」

「そうだとしても、すぐに行くべきだろう」

長良ナガラサチ。キミは、疲れている。休息が必要だよ。ボク程度の重みを支えられなかったことを、忘れたわけじゃないだろう? 人質として捕らえているのなら、数時間を焦る必要はないだろう。冷静に物事も考えられない状態で行って、わざわざ相手に分を持たせるのは愚かしいことだと思うけど、違うかな」


 全ては、杉岡スギオカが無事で相手側に捕らえられていることが前提にある。

 そうして実のところ、推測ばかりで、今にもこの場に踏み入られることがないとは限らないのだが、休息が必要なのは判りきった事だ。

 幸は、しかめっつら和希カズキを睨み付けた。そこには、いぶかしげな様子も、いくらか含まれている。

 何、と、首をかしげてうながした。


「…怖くは、ないのか」

「怖くない、とは言えないね」


 困惑する風の幸に、苦笑を返す。


「どの程度の危険なのかしらないけど、ボクは、死を願うほどせいいてはいないよ」

「違う。…俺を。恐れないのか」

「何? 恐れおののいて平伏した方が良かった?」

「茶化すな」

「はいはい」


 肩をすくめ、唇の端に浮かんでいた笑みを消す。表情のない幸を、真っ直ぐに見つめた。


「声を上げないよう努力するとは言ったけど、もし、あの状態で顔でもでられていたら、叫んでいたかもしれないと思うよ。はじめにあの姿を見せられていたら、逃げ出して、キミに関わろうともしなかったかもしれない」


 和希の口調は、一貫して落ち着いている。


「でも、ボクは『長良幸』を知っているからね。キミ自体を怖いとは思わない。そのことで、縁を切りたいとは思わない」

「何故――」

「さあ。そう訊かれても困る。いて言うなら、キミは、ボクにとってはじめての気兼きがねせずに済む友人だから、ということにでもなるだろうね。さて、そろそろ寝ようか。全ては明日だ」

 

 にこりと微笑み、そうして、和希は、当然のように手を伸ばした。幸は、それをぼんやりと眺めやった。


「部屋に案内したいんだけど、腰が抜けたらしいんだ。手を貸してくれないか」

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