5.良くないけど良しとしよう
道中、荷台から降りようとする
その上に、雨は、随分と景気よく降り
「とりあえずタオルとお風呂。話はその後だね」
「俺はいい」
「はーい、帰らない。事情説明したくないならそれはそれで、良くないけど良しとしよう。だけど、そのままってのはなしでしょう。そりゃ、家に送らないで勝手に連れてきたのは悪いけど」
いくらなんでも動転していたのだ。
しかし幸は、反論もせずに背を向ける。和希は
自転車に乗ったまま体を
ぐらりと、その身体が
「ごめん…!」
体を起こそうともがき、焦ったことで、余計に幸の身体を踏みつけてしまう。
どうにか起き上がったときには、二人とも、草で身体が
「…ごめん」
「気をつけろ」
「うん。本当に、ごめん。だけど、この間は支えられたよね?」
雨の中だからといって、負荷が強かったとはいえ、あそこまで無様に倒れるのは、普段から考えると珍しい。一昨日は、平気だった。
「何が起きてるのかは知らないけど、疲れてるのは確実だ。雨が止むまでだけでも、休んだ方がいい」
「構うな!」
怒鳴り声に、思わず身を
しかしそれは、赤ん坊の
「俺に構うな! 俺は…ッ」
「こんな状態の友人を放っておけというのか。ボクは、ボクを見
逆に静かな声で、睨みつける。
行動の基準は、結局のところは自分だ。誰かのために事を起こして、何かあったときにその誰かを恨むのだけは
それくらいなら、ただのわがままを通したい。
和希を睨み付けた幸の顔は、泣きそうに
「
昨日、夕飯を一緒にと誘われた人。もしかしたら、それは今日実現していたかもしれない。話をしてみたいと、思った。
「俺がここにいることを、あいつらは許しはしない。いままでずっと、宝が
嘘だろうと、問い
人が死ぬ事自体は、珍しくない。突然の事故や、老衰、病死。どこにでも、転がっているものだ。
それでも、殺されたということは、同じようにあるはずなのに、妙に遠い。
「宝まで手にかけたんだ。他の奴に、容赦するわけがない」
「きっと、もう遅い」
こぼれ落ちた声が、思った以上に冷静だと、どこか痺れた頭の奥で思う。
雨に濡れきって、身体は芯から冷えていた。蒸し暑さよりも、冷たさが
「姿を見られてる。制服だし、自転車の
「このまま残るよりは、ましなはずだ」
「どうだろうね。キミがいなくなったら、ボクは探すよ。そうしたら、口封じでもされるかな」
泣き顔に、歪む。
和希は、そっとその頭を撫でた。濡れた髪は、安物の皮のような感触がする。
二人とも、言葉もなく、どのくらいかそうしていた。
足音と人の来る気配に、身を固くした。
「和希さん…何してるんですか、そんなになって!」
「
見慣れた顔に、つい、安堵の息が漏れる。幸は警戒したまま、押し黙る。
「声がすると思ったら…風邪を引きますよ、ほら。あなたも。何か着替えを用意します」
きっぱりとした強い言葉に
自転車を置いてきますから、すみませんけど和希さん、タオルを自分で出してください。
そう言われて、幸を
雨は、一向に
玄関の引き戸を開けて、早くタオルを出そうと靴を脱ぎかけた和希の腕をつかみ、幸は、感情を押し殺したような
「あの人も、全て、失うかも知れないんだ」
「
足を踏み出すと、靴下から水がにじみ出る感覚がして、床の木材が水を吸うのが判った。
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