1.参加するなら頂点だ
「逃げるな、衣装合わせにならないだろ!」
「聞いてないぞこんなの!」
「衣装を決めるときに任せるって言ったよね? 原案も見せたよね? 仮
ぐ、と、言葉に詰まって動きを止めた隙に、裾から移って、しっかりと腕をつかむ。
それがすがりつくようにも見え、見ようによっては仲のいいカップルなのだが、周囲は確実に距離を置いている。
もっとも、それどころではないというのもある。
学校を上げての梅雨祭は、すぐそこに迫っているのだ。
梅雨祭の片付けの
個人参加でも団体参加でも、手を抜く者はいないのが常識だ。――基本としては。
「…女物なんて」
「違いなんてあんまりないじゃない。それにちゃんと、設定図に書いてます。こっちがキミでこっちがボク。この絵、見せたね? 見て、納得したからこれでいいって言ったんだと思ったけど?」
もしかすると唯一の、梅雨祭に乗り気でない友人に、無背の神童と呼ばれる
何故か、一度は視線を向けたクラスメイトたちが、そっと目を
あと、ほんとりと和希ではなく
和希自身、詳しい注釈をしなかったのはアンフェアだったかとも思うが、任せ切りにしていたのだから自業自得だ。
そのことは、幸にも自覚があるらしく、反論の言葉は出なかった。そもそも、言う通りに、少し見たくらいでは判らないくらいの差異でしかない。
小柄な和希に追いつめられて、同年代の中でも身長のある幸は、
確かめるように右手首のリストバンドを見るのは、癖だろう。しかし、妙案は出なかったらしい。
「わかった。俺が悪かった」
「いやだなあ、まるでボクがいじめたみたいだ」
そんなことを言いながらも、既に衣装を着せかけている。羽織っていくもののため、脱ぐ必要がないのは楽でいい。
しかしこれでは着せ替え人形のようで、覚悟を決めたらしい幸は、和希の手から衣装を奪い取り、渋々と身に
和希も、腹を
布をたっぷりと使った服は、下手をすると裾を踏みつけそうだった。
和希は、いっそ異常なほどの記憶力で神童とまで
しかし、それは
「…ひらひら」
「素っ気ない感想ありがとう。当日は、ガクランは脱いでね。着るなら、Vネックのシャツやランニングで。
「外せない」
そして、幸が常にリストバンドを外さず、しかも、教師にも渋々と認められているのは周知のところだ。
「わかった。じゃあ、袖に隠すように気をつけて」
「ああ。…男女逆転する意味、あるのか?」
「あんまりない」
素直に
「意表を突けるかな、と思ってさ。奇策の外道だけど、どうせなら優勝狙いたいし。参加するなら頂点だ」
「参加するならって、これ、全校強制参加だろ」
そうでなければ参加していない、と言外に言う幸に、和希は、わかってないなあと肩をすくめた。
「強制だろうが自由だろうが、参加は参加。やる以上は全力を尽くさないと、企画者にも他の参加者にも失礼ってものだろう? ま、現時点でキミが一番礼を
「お前が勝手に仕切ったんだろう」
「
「それは――ご」
「楽しんでやったんだけどね。梅雨祭、キミがさぼらず参加してくれるなら、苦労も
そう言って笑って、和希は、確認は済んだから脱いでいいよと、明るく告げた。
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