青空に白い月

来条 恵夢

序 むかしの話

 とろりと、濃い闇にいだかれて、なかば眠るようだった。


 あれのいなくなった世界では、起きていようと眠っていようと、死んでいるのと変わりがない。

 では、厭なものを見なくていいだけ、眠っていたほうがましだ。

 いっそ、死ぬことを許して欲しいと、そう、思ったこともあった。


「どうか――生きてください」


 貴方に死なれては困るのですと、その声はげた。

 感情を出さないよう努力していそうな声音が、妙に可笑おかしく、馬鹿馬鹿しかった。


「生きて。いつかは――貴方にも、救いがくるかもしれない」


 耐え切れずゆがんだ声は、そう告げた。

 ただとろりとした闇の中で、確かにその声を聞いた。

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