第132話 運命の邂逅
昔々、もう何年も昔の話。
とある四人組のパーティがあった。
そのパーティは魔法使い、戦士、僧侶、そして勇者の四人で構成されていた。
どのメンバーも相当な実力者で、そのパーティの全員が、国の有する国力、一個師団と対等以上に渡り合えるほどの実力者だった。
さらに勇者の実力に至っては、その中でも群を抜いて突出しており、『天下無敵、万邦無比の大勇者』と呼ばれるほどで、他の三人を統率するほどのカリスマ性も持ち合わせていたという。
『そんな勇者が率いるパーティなら、必ずや魔王を退治してくれる』人々はそんな希望を抱き、勇者たちに惜しみない援助と激励を送った。
そしてその結果は……現在もそこかしこで魔物が溢れかえっているのが現状である。
つまり、魔王討伐に失敗したのだろう。
事実、終焉の都を最後に、勇者のパーティを見たものは誰一人としていないのだ。その詳細については誰も知らない。
閑話休題。
そんな暗い話は置いといて、ここからが本題だ。
そのパーティにはカップルがいた。魔法使いと僧侶という後衛担当コンビ。
べつにパーティになる前から付き合っていたわけではなく、一緒に冒険しているうちに、なんとなく気が合って、なんとなく付き合いだしたのだ。
勇者や戦士からときおり冷やかされながらも、二人は着実に互いの愛を育んでいった。
そして、ある日魔法使いが僧侶の子どもを身籠ったのだ。
勇者や戦士といったパーティのメンバーはもちろん、その新しい命の誕生に世界中が歓喜の渦に包まれた。
パーティは一時冒険を中断すると、その子どもが生まれるまでの間、勇者の生まれ故郷であるジマハリの村に留まった。
やがて子どもが生まれると、魔法使いと僧侶はジマハリの村で一番信用できる女性に子どもを預け、パーティは村を後にした。
話は逸れるが、その女性こそが俺の
これを契機に二人の愛は確固たるものとなり、互いにある決意が芽生え始めた。
結婚である。
当然の帰結というか自然な成り行きというか、そうなってしまうのは仕方ないというか……何がダメだったのかと問われると、タイミングが良くなかった。
『この戦いが終わったら、結婚しよう』
僧侶はそんな言葉を口にしたのである。
いや、言い換えよう。
俺の父親は
とにかく、ここまでくればもう分かると思うが、というか既に言っているが、その預けられた子どもこそが──
「おにいちゃんなの」
以上がユウの口から語られた真実である。
比較的体力がないのも、生まれつき魔力が異様に高いのも、
ちなみに、村内でなぜか、俺だけにはこの事実が伏せられていたらしい。
たしかに少々……いや、かなり複雑な話ではあったものの、俺だけのけ者扱いってなんか酷くないか。というか、色々と酷くないか。本当の両親がすでにいなくなっていたというよりも、そこに傷ついた。
たしかにわかる。
真実を知れば傷つくし、落ち込むし、何よりすこしみんなと余所余所しくもなるだろう。この歳になれば、世の中には知らなくていい事のひとつやふたつ……なんならそれが、数えきれないほどあるという事も知っている。
だけど、こんな大事なことを隠されてたら、そりゃまた別の感情が生まれたって仕方がないよ。
俺がそう言うと──
「ごめんねおにいちゃん」
と、いつもの低血圧ボイスで謝られた。ほんとにこいつ悪いと思ってんのか?
いやまあ、ユウや母さんに謝ってほしいなんて思っているわけじゃないけど、なんというかこう……いまから俺たちは魔王倒せるのか?
こんな状態で魔王と対峙できるのか?
「……ユウト、さっきから顔がどどめ色だけど、大丈夫か?」
ヴィクトーリアが俺と並んで歩きながら、心配そうな顔で見上げてきている。
俺たちはいま終焉の都を抜け、なんと無傷で魔王城内まで侵入していた。
それというのも、道中に敵の姿がまったくいないためだ。魔王の拠点だというのに、幹部どころか魔物すらいない。俺たちはただ寂れた虚城の中を散策していた。
最初は罠か何かだと思ったが、俺たちが城へ入ってからすでにかなりの時間が経っている。それなのに、ここまで仕掛けてこないという事は……なんだ?
また道を間違えたか?
それとも──
ドォォオン! ドジャァァァァアアアン!!
遠くのほうから、雷の落ちたような音が断続的に聴こえてくる。
それとも、ユウキが最前線で敵を抑えてくれているからか。
「ユウト?」
「……いや、俺はもう……ダメかもしれん」
「ならせめて、魔王を倒すまではもってくれないか」
「え? 俺が死ぬ前提で話進めてるの?」
「いやいや! 倒れるのは、という意味だぞ! 誰もユウトが死んでほしいなんて思ってないからな!」
「やめてくれ、こんなところで告白なんて、フラグ以外のなにものでもない」
「……ユウ、なんかユウトが壊れたんだが……」
「おにいちゃん、しっかり」
「うるせえよ!」
「ユウト、正気を取り戻してくれ」
「うるせえよ!」
「ユウトさん、落ち着いて」
「はい」
「なんなんだ、このノリは……」
「とにかくだ。みんな、この状況をどう見る?」
「……敵の本拠地ど真ん中で作戦会議するのか?」
「そこは歩いてるから許してくれ」
「『そこは』の意味が解らん。散歩じゃないんだから……」
「じゃあヴィクトーリアは、この状況を危険だと思っている……てことでいいんだな」
「そう言われると……まあ、そういう事だな。なんたってここは敵の本拠地だ。魔王の根城だ。ユウキが後衛で気張ってくれているのだとしても、城内に誰もいないのはおかしい」
「なるほどな。一理ある。……アーニャちゃんはどう思う?」
「まったく敵が現れないという状況ですか? こちらにとって好都合な気がしますが……」
「アーニャ、よく考えてみろ。例えば私たちが、もしこの状況下で、とある場所に誘導されているのだとしたら、そのまま全滅する事だってあり得るんだぞ」
「でもヴィッキー、魔物の気配どころか……人の気配も、このお城からは感じないんだよ?」
「え!? でも、禍々しくないか?」
「禍々しい? 俺にはユウのほうが禍々しく見えるけど」
俺が皮肉を言うと、ユウは照れくさそうに目を伏せた。
なんだこいつ。
「なんというか、城全体の雰囲気とか、雰囲気とか……あと、雰囲気とか」
「雰囲気しか言ってねえじゃねえか。……たしかに、
「……おまえはこの薄気味悪い物をインテリアか何かだと言いたいのか?」
「インテリアって……まあ、魔王とかの趣味なんじゃないのか? 他にもそれっぽいのがあるし」
「絶対友達になりたくないな、その魔王とは」
「俺も嫌だわ。てか、誰だって嫌だわ。なんなら今から倒しに行くわ」
「おにいちゃん、おにいちゃん」
「……なんだよ今度は」
「これじゃないかな」
「あ? なにが──」
ユウが指し示すその先──そこには、見上げるほどの大きな扉があった。それはあまりにも大きく、暗く、黒く、冷たく……壁だと思い込んでしまっていたほどの、巨大な
そしてひと際目を引くのが、その扉の中央。
そこにはポップな文字で『歓迎! 勇者御一行様』と書かれていた。
「はあ……?」
俺たちがその、あまりにも場違いな雰囲気に絶句していた時、ギィィという音を立てながら扉が開いていった。
俺たちは当然、瞬時に身構えた……つもりだったが、あまりにも遅すぎた。
寸前で
しかし、そんな隙だらけの俺たちに対して飛んできたものは、壊滅的な攻撃でも心身の自由を奪う呪詛の類でもなく、ただの言葉だった。
それも、とても懐かしく、聞き馴染みのある声。
『いらっしゃい。よく来たね。中に入ってくれ、茶でも出そう』
「……おいおい」
聞き馴染みのある声なんてもんじゃない。
その声と共に、俺たちの目の前に現れたのは──
「親父……なのか……?」
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