第10話 キミがあたしを受け入れるの?

 教室についてしばらくボーっとしていた。


 なんていうか、昨日のことがあってあたしの認識世界は少し変わった。


 愛ってすてきやん?


 ま、それでも。

 やることは変わらないのだけれど。


 マイノリティである自分が妥協したら、あとはすべて崩されるだけ。

 あいつらのプライドなんて跡形も残してやるもんか。


「おはよう、和臣」

「ああ、おはよう、比賀。今日もいい気分だね」


 あたしがにこやかな笑みを浮かべる。比賀の顔は引きつっている。

 比賀はあたしの後ろにゆっくりと座った。


 あたしが比賀に出した提案は簡単だ。


 一ヶ月の間、男装のあたしと友達として付き合うということ。あたしを最優先して友達らしく振舞うということ。


 だからこうして毎日、あたしに挨拶をして、あたしの近くに座る。


 いままでは仕方なくついてくることが多かったのだけれど、昨日からはそうではない。友達の振りをしていなくてはいけないのだ。


 周りの自称親友たちの顔がこわばっている。


「ね、ね、なんで和ちゃんの近くにあんたがすわんの?比賀。キモイんだけど」


 と、身も蓋もない発言をするのは自称親友の第一候補の小夜子。


「お、俺、和臣の友達だからな……こうして座るのは……」

「んでも、あたしたちの近くにすわんなよ、デブ」

「いや、あの、えっと」

「さっさとどけっての、デブは」


 あまりの女子の迫力に押されて比賀の声はだんだん小さくなる。


「おい、俺の友達じゃん、なんで小夜子は、そんなひでえ言い方すんの?」


 あたしは酷く怒った声で小夜子に言った。


「え?」

「そいつは俺の友達なの。いい悪いは俺が判断すっし」

「だって和ちゃん」

「なにいってんの?お前。コイツは俺の親友。俺の親友を馬鹿にしておいて、俺と友達面して話すのやめてくれるか」


 呆然とした顔であたしを見つめる小夜子。


「か、和ちゃん、酷い、友達だと思ってたのに……」


 小夜子が泣き出したので、美香と佳奈がぎゃーぎゃー騒いだ。


「おいおい、なに言ってんだお前?お前の言ったことのほうがひでえよ」


 あたしは手を広げて首を振って見せた。


「だいたいだ。俺の友達をばかにするような奴を、俺が何で友達だと思わなきゃいかんのか、まずその理由を聞かせてもらいたい」


 あたしはせせら笑っていった。まわりの男子に聞こえるように。


「みんなもそう思わないか」

「その通り」


 あたしの声に反応したのは意外にも氷川だった。


「氷川?」

「今の話聞いていたら、酷いのは明らかにお前だろ?小夜子」

「うっさい、あんた何で入ってくんのよ」


 小夜子が涙声で叫んだ。


「当たり前だろ?比賀は僕の友達だ。ついでに比賀を友達だといったそいつも、僕たちの仲間だ」

「な、あんた、今まで和ちゃんに酷いことしてきたじゃん」

「うっさいわ。とにかく和臣は僕たちの友達だわ。お前らが大事に守り育ててきたつもりになってた和ちゃんはもういねえ。そこにいるのは僕の友人の和臣っつー一人前の男だ」


 男たちがいつの間にか氷川の後ろに並んでいる。

 さすがにブルーンはいなかったが。ブルーンはこの二日間無断で休んでいる。


「和臣、そういうことだな?」

「ああ、それでいい。君らが俺を、受け入れてくれるならな」


 男子から歓声が上がる。

 計画通りだった。

 いや、上手く行き過ぎるくらい計画通りだった。

 あたしは軽い興奮すら覚えていた。

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