第8話 恋の勝者に乾杯を!
先生があたしを好きって言った。
「俺はお前が好きなんだ」
何度でも反芻しちゃう、とっても素敵な響き――。
あの後、先生は少し動揺した顔をしていた。そりゃ、大好きな子とキスできたのだから動揺もするだろう。
でも、さすが大人。
ちゃんと母さんに挨拶して帰っていった。
あたしの気持ちを理解してくれてよかった、と心のそこから思う。
好きという感情はこういうものか、とあたしは少し理解した気がする。
なんで告白とかされて、好きになって付き合うのか、ということがあたしのこれまでの疑問だった。
告白はした方が好きなのは当たり前として、された方はその時点では好きでもなんでもないんじゃないかな、って思っていた。
「好きです」「俺も好きだ」はファンタジーの中でしか成立しないだろう、と。
それよりもなによりもそこまでにそういう雰囲気を作っておくことのほうが大切だと思っていたのだ。
「映画のチケット、姉貴からもらったんだけどどう?」とか「バスケットの試合のチケット小学生向けの優待が当たったんだけど、バスケ好きだろ?見に行かない?」とか。
そんな地道な接触を重ねていくことが大切だと。
自称元親友だった女の子たちはそこを理解していないと感じた。今日告白され、振った子は二人。予定通りだったけれど、こればっかりは驚いた。
「あたし、和ちゃんのこと、ううん、和くんのこと前から好きだったの」
二人とも判で押したように同じ台詞で。
なに言ってんだか、とか思ってた。
バーカバーカ、告白するのはもっと用意してからにしろボケー、とか思ってた。そもそもキモイんじゃーとか。
しかし、こればっかりはあたしの間違いだったと思わざるを得まい。
はい、認めます。間違いでした。
その証拠がこのあたし。
告白された瞬間に、恋は発生する。
好きといわれた瞬間に好きは結実する。
そう、あたしは理解していなかったのだ。
人からの好意を向けられることの嬉しさを。
人は社会的な生き物である。
人は人に承認されたい生き物である。
好き、という感情はその中でももっとも高位にある承認事項。最上級といってもいい。
それを人から向けられる。その喜びは筆舌に尽くしがたい。
そう、その一点でもって、その人を好きになってしまうくらいに。
ああ。なるほど。
ならば告白は一種の賭けとして成立する。
恋はギャンブル。
先生はそれに見事勝利したのだ。
先生の勝利に、乾杯。
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