第5話 男の娘の友達は女の子だけど。

「ど、どうしたの?和ちゃん」


 普段、親友面であたしに接してくる小夜子が戸惑いながら聞いてくる。小夜子の後ろには美香、佳奈の二人がいる。なんだか三人とも頬が紅い。


「おれのこと?」


 キャーっと小夜子の後ろから声が上がる。美香と佳奈だ。

 三人の顔を見つめてみる。


 なんて頬の紅潮の仕方だ。キモチワルイ。親友面するならば、そんな食べるような目つきであたしを見るな。


 そんな心の底の嫌悪感を振り払うようにあたしは言った。


「そろそろ、じょそ子ちゃんから卒業しようと思ってね」

「うそっ、ホントに?」


 小夜子の目がランランと光る。

 なんだその目は。

 なんだその息遣いは。


「なんで、なんで?今まであんなに女になりたがってたじゃん」


 美香が体を乗り出す。


 。ああ、なんと言う響き。わかっていたけれど、突きつけられるとさすがに引く。彼女たちはいつも言っていた。


 ――和ちゃんは女の子だよ、和ちゃんはこのクラスで一番女の子じゃん。だからいいよ。あたしたちはいつまでたっても和ちゃんを女だと思っているし、女の子同士の仲間だと思っているよ。


 わかってた。

 当然彼女たちがあたしに対してそういう気持ちを抱いていることを。

 決して「女として」見てなんかないってことを。


 キャンプでもあたしのいないところでガールズトークをしていたと言うことも知っている。


 でも、それでも、あたしは仲間だと思い込んでいた。

 思い込もうとしていた。

 仲間だといいなと思ってた。


 でも、それはやっぱりまやかしで。

 あたしの勝手な思い込みで。

 すこし手を加えてやれば簡単に壊れるもので。

 

 もういいんだ。

 気兼ねなく行こう。

 壊すんだ。

 そうさっくり壊すんだ。

 

 ホントのあたしを受け入れてくれないこんな腐った人間関係は。


「似合うだろ?男のカッコも悪くないと思えるくらい」


 小夜子も美香も佳奈も。


 いや、あたしの周りに集まってきた女子が、みんなすごい勢いで頷いている。


 他のクラスの女子だって、下の学年の女子だって、みんながあたしを見に来てる。


「おれさ、これから男でいっから。よろしくねん」

「きゃぁああぁぁぁぁ」


 無理にかっこつける。でもそれだけの甲斐はあった。


 自称元友達の女子たちが、あたしを物色するような目を向ける。はじき出される答えは明確だ。


 まぁ、男たちを襲いまくるのは確定だけど、あたしの苦しみを少し共有させてやりたい。ふざけんな、と彼女たちの顔につばを吐きかけてやりたい。


 あたしはこの日から彼女たちの恋愛練習台をやめてやろうと思った。

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