第4話 あたしはあたしを愛してる

「あの、それで、おれ、これでいいですか?」


 体育倉庫で呆然とするブルーンを残し、外に出かけたあたしに比賀がおずおずとあたしに聞いてくる。


「なにが?」

「これ以上、手伝うのはちょっと」

「ああ、いいわよ。それならそれで」


 比賀は安堵の顔を浮かべる。

 この糞豚はブルーンをあたしに差し出すことで自分の罪をあがなった。

 そう、比賀がブルーンを選んだのは結局のところ、日本人でないから。弱みがあるから。いずれ、日本を去るであろうから。


 汚い豚め。


 本当に反吐が出る。


「ただ次から事が終わった後に、みんなにいってやるからさ」

「な、なにを?」

「お前を売ったのは比賀だ、ってね」


 あたしはにこっと笑っていった。


「自分の罪から逃げるために、比賀はあんたを差し出したんだって言ってやるさ。その後であたしは言ってやる。『あんた、比賀にあたしの奴隷として売られたんだよ』って」

「そ、そんな……」


 泣きそうな顔をこちらに向ける。


「鬱陶しいデブ。あんたはこのままあたしの腐った豚でいろっつーの」


 突き放すように言ってあたしは彼に背を向けた。

 あ、と思う。そうか、それでいくか。


「ひでぇよぉ……」

「わかったわよ、じゃ、つぎの条件で終わりにしてあげる」

「え、いいの!」


 突然の前言撤回に、瞬間的に比賀の顔が笑顔になる。


「もちろん条件があるんだけれど」

「な、なに?あの、おれ、なんとかするから」

「それはね」


 あたしの提案にブタの顔が引きつった。


★★


 次の日の朝。


 驚き。


 そう驚きだ。


 クラスがざわついていた。あたしの姿に。


 みつあみをやめた。髪の長さは同じだけれど後ろで無造作に一つ結びでまとめられて、前髪から全体的に後ろに流している。


 スカートもやめた。恥ずかしかったけれど、黒のスラックスにピシッとしたカッターシャツ。吊りバンドをスラックスと同系色で統一している。


 わかる。この姿は少し異様だ。


 女の格好を崩したことのないあたしだ。普段は体操服ですらうっすら女の子のような着こなしになるようにしており、第二次成長期を迎えればスポブラにパッドをつめることも厭わない、いや欠かしたことのないあたしだ。


 そのあたしがいきなりの男装。クラスのみんなの反応は想像に難くない。


★★


 朝、自分の部屋で着替えていて恥ずかしかった。


 だけど、出来上がったのは自分で言うのはなんだけれど超絶美少年。


 全身鏡に映った自分を見ながらオナニーをしてしまいそうな勢いの美しい少年がそこにはいた。


 やばいです。


 あたし超ナルシストかもしんない。

 なんかこう、違う趣味に目覚めた。


 胸の辺りをまさぐる、自分の手で自分を犯す気分。自分の手が他人にも感じ、そして自分のもののようにも感じる倒錯した瞬間。


 何も考えられず唇に指を差し込んでみた。


 その指をゆっくりとなめあげてみた。


 やばい。

 超気持ちいい。

 倒錯すぎる。


 あたしはあたしの下半身をズボンから引っ張り出した。いや引っ張り出すまでもない。ギンギンだ。チャックを空けた瞬間ブルンっと飛び出してきた。


 ゆっくりと擦り始めると鏡の自分もオナニーを始める。


 なんてカッコイイ男の子。ステキすぎる。それが目の前でオナニーをしている、あたしを見ながらオナニーしている。


 6回だった。


 6回擦っただけで出た。


 全身鏡に大量の精液が放出される。


 すごい快感と倒錯間の中で腰がガクガクと震えた。


 このオナニーはヤバい。

 マジでヤバい。


 あたしの中である種の警戒音がなっていた。


 だがそれを無視するかのように、あたしは鏡の中の自分にゆっくりと口づけをしたのだった。

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