第3話 童貞は捨てても処女は捨てぬ

 あははは


 ありえない。ありえない。なにこの感じ。信じられない。なんていうか、あたしの心にいろんな感情が盛り上がってくるのを感じる。


 あたし、今、充実している。

 あたし、今、燃え上がっている。

 あたし、今、信じられない感触を味わっている。


 ゆっくりと腰を動かしながら、相手の叫び声を聞く。がっちりと後ろ手にフォールドしたブルーンの両腕から徐々に力が抜けていくのが伝わってくる。


 比賀があたしを見ながら恐怖の表情を浮かべていた。


「カンバル…サン…、ヤメテ……、ヤメテクダサイ……デス……」


 あたしの腰が早まるに連れて、悲壮感を増していくブルーンの悲痛な呟き。あたしは彼のふとももを思いっきり叩いた。


「やめない」


 ブルーンはブラジル人。体は大きくはないが筋肉質で、褐色の肌をしている。基本的に郷に入りては郷に従うタイプでサッカー好きのヒカワと馬が合っているらしい。


 どうでもよかった。


 あたしは、昨日の比賀に続いてブルーンも体育館倉庫に呼び出し、あたしの奴隷となった比賀に押さえつけさせた。


 あとは同じ。

 反抗、恐怖、謝罪、哀願、そして脱力。

 ブルーンが起こした反応をすべて無視し、あたしは続けた。


「な、なんで、こんな、ここまですることない。なんかひどすぎる」


 すべてを終え、体育館倉庫にただブルーンのすすり泣く声だけが聞こえる中、比賀はあたしと目を合わせずに言った。


「比賀、ここまですることあるよ」


 あたしははだけた服を直しながら、振り返らずに続けた。


「あのさ、君達にはわかんないかもしれないけれど、あたしを支えているのはプライド。女であろうとするあたしのプライド」


「けど、ぼくらはそんなに酷いことしたかな」

「あ?なにいってんの?」


 にらむあたしに比賀がびくりと体をちぢ込ませる。


「あのね、あたしに友達はいないの。あたしを助けられる人もいない。だからあたしを攻撃してくる人間には、『次』が無いほど激烈な一撃を加えないといけない」

「で、でも、女友達たくさんいる。和臣くんには友達たくさんいる」


 私はため息を吐いた。


「あんたに理解してもらおうとは思わんけどね」


 あたしは質問をさえぎった。これ以上言葉はいらない。


「酷いデェス……」

「うっさいわ」


 言いながらあたしはブルーンを踏みつけた。いつまで汚い尻を出している気だ。


 ――汚くしたのはあたしだけど。


「あんたはコレで終わり。許したるわ。ああ、べつに誰に言ってもいいけれど、誰かに言った時点であんた、この町に居られなくすっから」

「エ?」

「不法就労している外国人がいます、でいいかしら?」


 瞬時にしてブルーンの顔が青ざめる。


「あのね、あたし、いくらでも情報集める。あたしの手でできることはすべてやることに決めてるの。だってあたし」


 ――弱者、だから


 という言葉は飲み込んだ。


 自分のことを弱者だと言う人間ほど情けないものはない。

 あたしは弱者を主張するつもりはないけれど、弱者のままでいるほどお人よしでもないのだ。


 マイノリティーの自覚はあるけれど、それで終わるつもりもない。マイノリティであることを理由に虐げられるなら、虐げた者には鉄槌を。


 あたしの復讐はまだ始まったばかりで、終わりは見えていない。


 ……ただ、同じくらいの快楽があたしを支配していることも事実。


 復讐する気持ちはホント。

 自己防衛もホント。

 仲間が居ないこともホント。


 ――でも、えっちが気持ちいいのも、ホント。


 比賀があたしの童貞ブレイカーだけど、あたしはもちろんエッチなことに興味があった。アナルセックスの仕方なんて本でもネットでもDVDでも、穴が開くんじゃないかと思うほど調べて何が必要かといったものまで調べた。


 なんていうか、あたしは純粋に見たらどうなんだろ。


 心は女の子なのは間違いない。だけど、その心は肉体に支配されている。


 あたしの男の子は女として男を――わかりにくいな――あたしの肉体のソレは、女として男を欲してる。その欲し方は男のそれだ。


 調べたところのトランスジェンダーとやらとは少し違う。あたしはチンコをつけているけれど、これを恨めしいとはあまり思わない。むしろこれがないとエッチできないじゃん、と思う。


 こんなんだから、当然入れられる方向性も考えたし、男に入れられるということにも興味はある。


 でも。


 ちょっとそれ、こわいじゃん、みたいな。

 自分は入れといてなんだけど、入れられることには抵抗感があるんだ。

 なんていうか、えと、乙女だから。


 しょ、処女って、だ、大事じゃん?

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