第2話 バカにするなら覚悟してね?

 あたしをはめた男を許すまじ。

 あたしはそう意気込んでいた。


 あれからあたしに対するクラスの男子の風当たりがひどくなった。あれ以来、男子たちは二言目にはオカマのくせに、という。


 ――情けないと思ってほしいんだけど……


 男子たちの叫びは、ただのやっかみだ。


 あたしはオカマのくせにと言われることが多い。

 なにせ体はでかい。

 運動能力は学年でトップ。

 学力は九十八点以下のテストは取ったことがなく、その二点だって教師の自作テストで、百点満点のつもりだったが、ミスで合計が九十八点だったというだけだ。


 ついでに明らかな女顔(つまりはかわいいのさ)で服装も女。


 自然と自称親友たちは皆、女。


 クラスのかわいい子達はみんなあたしの親友であるらしく、彼女たちはクラスのどの男子にもなびかない。浮き足立ちもしない。


 あたりまえだった。


 あたしは彼女たちからしてみれば、超がつくくらいの美男子であったし、運動も学力も優秀、そのくせトランスジェンダーとやらにかかってて(その考えは認識不足だけれども)影がある。


 女の子の会話にもすんなり溶け込むし、ハスキーボイスがフェミニンな容姿にぴったりとおさまってる。


 ま、つまり、ていのいい日常のスケープゴート。

 恋愛練習台。


 ――うっさいわ。女にモテてなにがうれしい。


 結局のところ、男子たちがあたしをおとしめる手段は「オカマのくせに」しかない。そして罰ゲーム告白で「オカマが告白を受けた」みたいなのりになり、調子に乗っているってことだ。


 ――ああ、むかつく。


 彼らが残念なところは、あたしにはどうあがいても勝てないというところ。


 強気なのは「上原は俺たちに手を出してこないだろう、オカマだから」という希望的観測に基づいているだけだ。


 ああ、くだらない。

 ほんと、くだらない。

 いいだろう、そのくだらない人間のくだらない話にのってやる。

 あんたたち、残らず狩ってやる。


 リーダの氷川、タイコ持ちの堀田、ブラジル人のブルーン、そしてこのあたしのプライドを傷つけたデブの比賀。

 まずは比賀。デブの比賀。


 あんたの尻は何色だ?



「比賀ー、まってー」


 あたしは体育の終わりを待って比賀に声をかけた。ちょうど体育館のバスケットゴールをしまう関係で比賀が一人残っていたからだ。


「な、なんだよ、お、おまえ、お、おれになんかする気か?」


 明らかにキョドってる。

 あたしはそれを否定するように笑顔を作って手を振った。


「ちがうよ、ちょっと手伝ってほしいだけだって」

「お、おう」


 そう、なんだかんだいってあたしは美少女なのだ。


 あたしが本気で笑顔になれば、普通に女の子から好意を向けられたことのない男子なら、まず嬉しいはず。


 ――それが、男であっても。


 いや、まだ理解できないか。男と女の体の違いなんて。


「あのさ、ちょっとバスケットのボールが体育倉庫に入らないんだけど、あたしじゃ入らなくって」


 あたしは体育倉庫を指差した。


「な、なんだ、やっぱり力ねえな」

「あはは、ごめんねー、こういうとき比賀ならすぐでしょ?」

「まあな、よっしみてろ!」


 比賀は嬉しそうに体育倉庫に向かっていく。


 もう少し、彼の頭がよければ。

 もう少し、彼が状況を理解できていれば。

 もう少し、彼が子どもでなければ。

 すぐにわかっただろう。


 クラス一の運動神経を持ち、クラス一の背たけをもつ"あたし”が、比賀よりも遥かに力があり、あたしができないことが彼にできるわけがないことを。


 あたしの次の行動は早かった。

 いくら次が給食だからといって時間は限られている。


 ッ。


 3挙動で比賀を体育倉庫に押し込める。

 

 後ろから殴る。

 振り向いたところを思いっきりマットにけり倒す。

 後ろ手でドアを閉める。だ。  


「な、なにするんだよ」

 

 比賀が情けない顔を上げた。


「あほう。あたしを怒らせといて謝罪もないお前を調教してやるんだよ」

「え、ちょ、もbがあblぐぐぐ……」


 なにを言っても決して許しはしない。この計画を立てたときに考えていたことだ。

 許しはしないと決めたなら話させないことも重要だ。

 まず、彼のお腹を思いっきり踏みつけた。


「ぐはぅっ」


 うずくまったところで、彼の手を後ろに回し、結束用プラスチックで両手の親指を縛り上げる。口をあけるのを拒んだので咽頭を殴り口を開かせ、そこらへんの雑巾を彼の口の中に詰めて、布テープで二重巻き。


「あのさ。あたしのことをわかっててあんなことしたんだよね?」


 あたしのあまりの手際よさに比賀が呆然とした顔であたしを見上げている。いや、呆然ではない。この顔は恐怖だ。


「あたしさ、トランスジェンダーって奴で、自分のことを女としか考えられない男の子なんだよ」


 比賀の顔は汗と鼻水でぐちょぐちょだ。涙も混じり始める。

 それを見下ろしていたら、なんていうのかな。


 キた。


 あたしの下半身が、キた。

 ぐっぐっとあたしの体を押し出してくる。普段、サポーターで膨らまないようにしているけれど、あたしの体は男の子のそれだから当然勃起する。


 だって、男の子、好きだもの。


「あのね。よくわからないみたいだから教えてあげる。トランスジェンダーっていろんなタイプがあって、あたしみたいなのは特殊だと思うんだけど」


 あたしはほほを紅潮させていた。いやさせていたと思う。


 あまりの暑さ。

 そしてあたしの心の熱さ。

 なにもかも燃え盛るようだった。


「あたしの。すごいのよ。ん、んーわかんないよねー。あれがきていない子にわかれって言っても難しいよねー」


 ん、ふっふふー、とあたしは鼻息を漏らした。


「あれ? あれって4年生の保健で習うでしょう?男の子の初潮。精通! あのねー。んー、んー、乙女なので恥ずかしいんだけどー」


 あたしはわざと媚を作って、体をくねらせながらズボンを脱いだ。


「女の子にまったく反応しないんだけど、男の子にはほらこの通り」


 うつぶせに倒れて見上げている比賀の顔先にあたしの物をぶるんと出した。


 完全に勃起している。


 比賀の目の前に。

 比賀の目に何か違うものをみた、と言わんばかりに慄きの色が走る。


 ちなみに、あたしのソレはお子様のそれではなく、大人のそれだ。


 興奮する。

 見られるのって興奮する。

 恐怖で見られるのってめっちゃ、そうめっちゃ興奮する。


 脳髄の奥底でうごめくあたしの欲望はとまらなかった。体の芯から燃え上がるように興奮していた。


「あはは、すごいの!もうね!なんていうの!あたし、頭ん中、女だけど、肉体、男!超男!本能がうずくの!これ!超本能!あたしまだ受けないの!そっちは本能じゃないもん!わかる?!この状況!女だけどアレの果たし方が男!超男!」


 けたたましい笑い声を上げながら、あたしは彼の耳元に口を近づけた。


「だからあたし」


 一転口調を変える。


「今からあなたをおかしちゃうけど、いいかなぁ」


 右手で彼のズボンをひん剥きながら、あたしは続けた。


「答えは聞いてないよ」

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