第50話 怒り

「跪け(挨拶)」


良く通る声。

同時に、メメモムが、ラックルが、ムニスとミトルス・・・羊達まで、跪く。


「・・・?!」


ラックルが声にならない声を出す。


声を発したのは若い青年。

若いが、何処かくたびれて見える。


「我に従わぬとは、招かれざる存在か(推定)」


青年が気怠そうにぼやく。


風が止んだ。

マナの流れすら止まっているようだ。


「我は神。異界の客人よ、疾く塵と化し消えよ(迷惑)」


無茶を言う。


「神よ・・・僕達は、自由が欲しいのです。人間に支配されない自由を!」


ラックルが叫ぶ。


「亜人よ、わきまえよ(呆れ)。我は、我が似姿として人間を作った。それに仕える存在として、混ざり物の亜人を作った。これ以上の理由が必要か?(困惑)」


青年は一同を見渡すと、


「汝等は獣と変わらぬ。そこの客人が消えた後は、野に帰り、人間に仕える宿命を全うせよ(神命)」


告げる。

淡々と。


何とかしたいが・・・跪きこそしないものの、体は動かない。


「僕達は・・・一生懸命生きているんだ!僕達は、ヒトだ!」


ラックルが叫ぶ。


「汝等は獣よ(断定)。分からせてやろう(慈悲)」


神は、再び一同を見渡し・・・


「そこの羊よ」


「ひっ・・・い・・・嫌・・・」


メメモムが泣いて叫ぶ。


「身に付けている物を全て外せ、良く見えるように、その体を見せつけよ」


「いや・・・」


メメモムの頬を、涙が流れる。

・・・流石に喜んでる場合じゃない。

何とか・・・ならないか・・・


騎士槍を持っていた羊が、悔しそうに槍を地面に置く。


ゴトリ


続いて、角を外し、置く。

外れるのかよ。


そのまま、後ろ脚で立ち上がる。

前脚は、角があったあたりを隠している。


尚、メメモムは呆然とそれを見ている。


「そうだ・・・おっと、その手は後ろで組め。隠すな」


羊の目から涙が流れる。

頭を隠していた手を・・・そっと、背中にまわす。


くっ


せめて・・・と顔を背ける羊。


ええ・・・


「どうだ?汝等は所詮獣よ(興奮)」


神様鼻息荒い。

おっちゃんにはちょっとついていけないんだけど。

みんな困惑の表情をしている。


「その場でまわれ(神意)」


羊がたどたどしく、まわる。

神様、鼻息荒い。

自分の似姿気に入ってるから人間に高い立場与えてたんじゃ無かったのか・・・?!


「ああ、そうだ。汝はもう、退場せよ」


神様は、息をする様にこちらを見ると・・・


ひゅ


光が俺に向かって伸びる。

あ、死んだ━━


生きてる・・・?


「・・・ラックル?!」


俺をラックルがかばって、覆いかぶさっていた。

何故・・・?!

そもそも動けなかった筈では?!

・・・俺を庇うために・・・神の呪縛を抜けたと言うのか。


「ラックル!」


みんな駆け寄ってくる。

各々、呪縛を振り切ったのだろうか。


「姉ちゃん!」


山羊さんがラックルの傍にしゃがみ込む。

何で君出てきてるの?


「リーン・・・今回復する!」


イファナが宣言。

イファナの回復魔法・・・凄い威力だ!

光がイファナに無尽蔵に集まる・・・正に女神・・・だが・・・


「無駄や、嬢ちゃん」


山羊さんが残酷に告げる。


「・・・!」


イファナががっくりと膝を落とす。


・・・許せない。

俺自身が・・・そして、あの神が。

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