第41話 狼人族の王女様

ぱっからぱっから


羊が空を駆ける。


ききー、ぐりん


羊達は、時々アクロバットな技で魅せてくる。


俺とイファナは素直に曲芸を楽しんでいるのだけど。


ラックルは、怯えるかと思ったが、これからの作戦の為に気がそぞろらしく、気にしていないようだ。

時節、戦闘前の気分の高揚からだろう。

笑みを漏らしている。

というか、ラックルの騎乗している羊、常時アクロバット飛行している。

羊、サービス満点だな。

超どや顔。


「ラックル、あそこで良いんだな?」


羊を寄せて尋ねると、


「うん。情報に間違いがなければ、あそこに居るはず」


そこは、崩れかけた古城だった。

情報が正しければ、地下に巨大な牢獄があるらしい。

しかも、メンバー以外の力を減衰させる結界が張られているとか。


地上に降りると、羊を送還。

探査を行使、階段を発見、隠蔽を解除、見張りを昏睡させ、囚われた人々の場所を把握。


「良し、行こう」


ラックルとイファナに呼びかける。


「うん・・・奴等、戦闘能力が相当高いから気をつけて。奇襲と搦め手が有効だと思う」


ラックルが言う。

全員寝てるけどな。


--


「これは・・・いったい?」


おや、目が覚めた。

魔法を封じる丈夫な縄で縛って、転がしてある。

魔族、エルフ、人間、他にも見た事が無い種族も多いが。

1番多いのは、狼人族らしい。


狼人族の王女様。

ラックルやイファナとも知り合いらしい。


美しい雪のような白髪が、地面に流れ落ち、光っている。

凛々しい顔立ち、黄金色の瞳、可愛らしい尖った耳。

奴隷市場で売ってないかな、狼人族。


狼人族の王女様が、低い声で唸る。


「く・・・これは・・・我々は負けたのか?・・・殺せ。この上は、生き恥は晒せぬ」


ラックルが前に出て、


「ムニス、何でこんな馬鹿な事をしたんだ?!」


王女様・・・ムニスを問い詰める。


「リーン・・・今がチャンスだったのじゃ・・・人間の王国の勢いが弱っている今だけが・・・我ら類人族が自由を・・・蒼天を取り戻せる、最初で最後のチャンス・・・」


ムニスが、うなだれて呟く。

ラックルが叫ぶ。


「その為に、罪も無い人や、隷属させられた同胞を犠牲にするのは間違っている!」


ムニスは頭を振り、


「ラックル、大事の前の小事じゃ。今行動を起こさねば、今後百年、千年、万年・・・もしくは永遠に、我々は人間に弄ばれるのじゃ。それに・・・自由を奪われ隷属させられるなら、死を選んだほうが良い」


ラックルが叫ぶ。


「訂正しろ、ムニス!隷属させられても生き延び、やがて解放された者もいるんだ!」


ぎろり


ムニスがラックルを睨むと、吐き捨てるように言う。


「初心な其方には分かるまいよ。捕らえられ、死すら禁じられ、意志に反して奉仕させられる日々。隷属しても生き続ける、それがどれだけ辛いか」


ラックルがはっと息を呑む。


「ムニス・・・まさか・・・」


ムニスは自虐的に微笑むと、


「これ以上話す事は無い。後悔は無いし、悔い改めはせんよ。拙者と其方等では、平行線じゃ」


この王女様、奴隷だったのか・・・ごくり。


ムニスはふと気づいた様に、


「いや・・・拙者はどうされても良い。この身で良ければ弄んでも良い。代わりに、仲間は解放して欲しい。他の者には、強硬手段に出ないよう説得しよう」


ごくり。


ラックルが、告げる。


「・・・此処で捕らえ続ける人手が惜しいし、そもそも自害されても困る。彼等もまた、同胞だしね。また、キミは僕達の幼馴染だ。キミを信用しよう。キミに変な事もさせない。キミから、過激な手段は取らないように説得して欲しい」


ムニスが頷く。


「了解じゃ。同志は拙者が必ず説得しよう」

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