第40話 蒼天の民

「リョータ、力を貸して欲しい。無茶な願いではあるのだけど・・・」


家に訪ねて来たラックルが言う。


「御礼は・・・その、金品では難しいが・・・そうだな・・・僕が・・・いや、妹でも良い、君の望む事をして良い、その条件でどうだろう?」


さらりと妹売りやがったよ。


「それは別に良いよ?ラックルにはお世話になっているし、親友じゃないか。話を聞くよ」


ラックルは男性、正直微妙な気分だし。

不意に王女様巻き込む訳にもいかないし。


お金にも困ってないし。


それに今は賢者モードだしね。

チャージ的にも、別の意味でも。


「・・・しかしそれでは・・・いや、お言葉に甘えよ──」


ガチャり


お風呂場から、バスローブ姿のイファナが出てくる。


「リーン、こんばんはにゃ」


しゅたっ、と、イファナが元気に挨拶する。


ぴしり


空気が凍る音がする。


「・・・どういう状況、かな?」


低く、感情の無い声で尋ねるラックル。

キミ、何でそんな声出すの、というより、何でそんな声出せるの?


「にゃあ?お風呂借りてただけにゃあ?此処のお風呂気持ち良いにゃあ」


イファナがきょとん、として言う。


「ラックルも良く使ってるだろ?」


何が引っかかったのだろう?


「・・・だ、だいたい、何でイファナ、そんな格好で出てくるんだ!」


「いや、暑いからって、昨日ラックルも同じ格好で出てきたよね?」


俺が突っ込む。


「うー・・・」


ラックルが唸る。


イファナがちょこんと、俺の横に座る。

真面目な顔になり、ラックルを促す。


「それで、何があったにゃ?大体想像はつくにゃ」


「その格好で横に座るなああ!」


ラックルが叫ぶ。


「落ち着け、ラックル。大切な話なんだろう?」


俺の言葉に、ラックルは目をつぶり、深呼吸すると、


「うん・・・リョータ、手を貸してほしい。蒼天の民・・・奴等のアジトが割り出せたんだ」


誰だろう。


「にゃあ。蒼天の民、大神殿の破壊を目指す者達にゃ。人間や、類人族をさらい、儀式に捧げて溶かしてしまうのにゃあ・・・」


イファナが俺に抱きついて来る。

そっと抱きしめてやる。

ラックルも怒りが抑えられないらしく、背後に蒼い炎が幻視される。


ラックルが怒りを抑えた様な口調で続ける。


「それでね、蒼天の民のアジトが割り出せたから、襲撃をかけ、囚われた人々を開放したい。儀式は3日後の満月。それまでに何とか・・・」


なるほど。


「分かったよ。力を貸そう」


ふと気になって尋ねる。


「ところで、儀式の目的って何だ?」


ラックルが忌々しげに言う。


「紋様呪核宝晶の破壊だね。紋様魔法を世界に対し定義づけるもので、これが失われれば、対応する紋様魔法は消失する」


イファナが続ける。


「特に大きな紋様魔法、契約や・・・隷属等は、消費マナが凄まじく多いにゃ。この為、各地にマナを集める紋章碑が設置されていて・・・これに過剰な力を流し込む事で、紋様呪核宝晶を破壊できると考えているにゃあ」


なるほど。

ラックルが続ける。


「隷属の紋様魔法が暴走すれば、現在奴隷にされている人達が、どんな影響が有るか分からない。だから、暴走させるのではなく、近付いて、手順を踏んで停止させないといけない・・・無論、生贄を出すのも駄目だ。絶対に阻止しないと」


なるほど。

俺が尋ねる。


「先に紋様呪核宝晶とやらを停止はできないのか?」


「・・・無理だね。恐らく、紋様呪核宝晶は大神殿に設置されている。この前会った悪魔クラスの守備を覚悟しないといけない。キミでも無理だ」


あの悪魔かあ・・・


「確かに厳しいね」


イファナと一晩楽しんでも無理だ。

1月程有れば・・・?


「そういう訳なんだ。リョータ、力を貸して欲しい」


ラックルの言葉に、微笑んで言葉を返す。


「勿論。仰せのままに、お姫様」


王子様だけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る