第35話 当人にしか分からない事
「め・・・滅相もございません。大変申し訳ありませんでした」
老人が地面に額を擦り付ける。
「ラックルとイファナは返して貰うぞ」
俺の言葉に、
「勿論でございます」
老人が顔を下げたまま言う。
「このものが余の
バフォメットの言葉を、老人が、神官が、騎士が、額を地面に摺り付け、受け入れる。
バフォメットが颯爽と、壁に溶け込むように消えていった。
ラックルがこっちに駆け寄り、泣きじゃくる。
「良かった、生きて・・・生きてた!」
イファナも駆け寄り、
「リョータ様!」
泣きながら抱きついてくる。
2人の背中を抱き寄せ、
「大丈夫。もう大丈夫だよ。さあ、帰ろう」
羊を呼び出し、
どやあ
「その羊は嫌だよ・・・」
ラックルがわがままを言った。
--
エルフの集落に戻る。
イファナを猫人の集落に送り届けようとしたのだけど、とりあえずラックルと話が有るらしく、ついてきた。
ラックル、エルフ達から王女様って呼ばれてるんだよなあ。
何故だろう。
「リーンとはまだ会えないな。まだリーンに認められる事してないし」
「この上なく認めてるよ?!」
俺の言葉に、ラックルが泣きそうな声で叫ぶ。
「え、リーンと会わない?どういう事にゃ?」
イファナが疑問符いっぱいの様子だ。
「うう・・・イファナ、夜に説明・・・する・・・」
「にゃあ」
後は・・・
「イファナ、ハーレムの事だけど」
「にゃあ?」
イファナが嬉しそうに俺の目を覗き込む。
「まだ今はハーレムに加えられない」
「にゃあ?!」
イファナが泣きそうな声で叫ぶ。
「この国の王女様・・・リーンを、最初のハーレム要員にすると決めたんだ。だが、リーンには断られた・・・それを中途半端で放り出す訳にはいかない」
「何でにゃああああ」
イファナが何故かラックルをぐらぐら揺らす。
「ちが・・・イファナ、後で、後で話す」
ラックルが苦しそうに言う。
「それで今は、リーンの心を射止める為、色々してるんだ。そしていつか、リーンに・・・俺を受け止めて貰う」
「早くするにゃあ!」
「イファナ・・痛い・・・痛いから噛むな!」
ラックルが悲鳴をあげている。
イファナとラックル、仲が良いなあ。
「と言うか、キミも、リーンと会ってくれ。絶対に受け入れてくれるから!」
あのなあ。
「ラックル・・・世の中には絶対は無いんだ。当人にしか分からない事、って有るんだよ」
「分かるよ、超分かるよ!」
駄目兄貴の典型だ。
「にゃあ・・・だいたい話が見えて来たにゃあ。リーン、何故こんな事してるにゃあ?」
イファナが半眼でラックルに尋ねる。
だからリーンじゃないって。
「好きでやってるんじゃない!」
・・・俺嫌われてる?
「そういう訳だ・・・イファナ、気持ちは凄く嬉しいが、少し時間を欲しい」
「分かったにゃあ・・・待つにゃあ・・・後でリーンしめとくにゃあ」
しめないであげて。
「と言うか、本当にリーンはキミが好きなんだってば!」
「次の偉業・・・考えておかないと。今のままでは・・・自分に自信が持てない」
「持ってよ!」
「また明日、付き合ってくれ・・・またな!」
ラックル、イファナに見送られ、エルフの集落をあとにした。
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