第33話 駄目だよ

「ラックル」


ラックルに呼びかけると、


「ん」


頷き、ぴとっと俺に抱きつくラックル。


色欲増魔デウスブースト


羊達の航海シープシップ!」


無数の羊達が現れ、騎士に飛びかかって兜を剥いだり、神官飛びかかって仮面を剥いだり・・・蝋燭を倒したり、魔法陣の一部を削ったり・・・


「いや、倒せよ!」


思わず俺は叫ぶ。

羊達がはっとすると、捕らわれたイファナに向かって・・・


「イファナは倒しちゃ駄目だよ?!助けて!」


羊達がびくっと止まる。


「邪魔をするな!」


神官の呪法が発動、闇の剣が無数に飛び出て、羊を襲う。


ふっ


羊の吐き出した息に散らされ、


カランカラン


剣が地に落ちる。


「馬鹿な?!」


神官が悲鳴を上げる。


ラックルが姫さんを助け出してきた。


「ふえ・・・リーン・・・有難う・・・」


ラックルに抱きつき、泣きじゃくるイファナ。

それリーンじゃなくてラックルですよ。

あ、服着せやがった。


「生贄を返せ!」


騎士が突っ込んでくるが、


ゴッ


俺が放った羊に頭突きされ、吹っ飛ぶ。


どやあ


「隙有り!」


騎士が羊に斬りかかり、


パシッ


真剣白刃取り!


ぎゅんっ


からの背負い投げ!


どやあ


いちいちドヤ顔してるけど、一応活躍はしている。


無駄に時間はかかった気はするけど、何とか敵を拘束した。


「リーン・・・そして・・・噂の人間さんでしょうか?助けて頂き有難う御座いました」


イファナがぴょこり、と頭を下げる。

明るい、聞くだけで元気になる声だ。


「俺はリョータ。ここにいるラックルの友人だ。イファナさん・・・俺のハーレムに入って自堕落な生活を送る気はないか?」


「ちょ」


ラックルが俺の頭をがっしりホールドする。


「にゃ!是非お願いしますにゃ!」


イファナが手を叩いて頷く。

ぴょんぴょん飛び跳ねて可愛い。

えっ。

良いの?


「駄目だよ?!」


ラックルが叫ぶ。


「駄目なの?!」


俺が呻く。

何故。


「えっと・・・その、妹はどうする気だい?」


ラックルが尋ねる。


「リーンに妹?ラックル?」


イファナが可愛らしく、小首を傾げる。


「こいつは、リーン王女様じゃない。こいつはラックル。リーン王女様の兄らしい。男だから王位継承権が無いとか」


俺の説明を、


「あ、いや、それはその、イファナ、あとで説明するから」


ラックルが遮る。


「にゃ?リーン、にゃ?男だから王位継承権って何の事にゃ?ラックルって、確か偽名だったにゃあ?そもそも、今男装してないにゃ?」


イファナが軽く混乱しているようだ。

イファナの周囲にハテナマークが幻視されみえる。


「とにかく──」


ラックルが仕切り直そうとして・・・そのまま固まる。

表情が凍りついている。


イファナが青ざめ・・・その場に崩れ落ちる。


俺も、全力で全身が警鐘を鳴らしている。


俺はラックルを引き寄せると、その唇を奪い・・・備える。


それが、出てきた。


「人の子よ、何の故があって、我の邪魔をするのか?」


イントネーションが微妙な言葉、甲高い不快な声・・・だが、心に絶望を振り撒くには十分だ。


ぼろぼろの服を着た老人。

悪魔。

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