第31話 巧みな話術

「かっかっ。しょうもない奴等やで。まあ、任したってや」


山羊さんが羊皮紙の束を取り出す。


########################


誓約書


私は、今後、奴隷狩り等、他者の利益を不当に侵害する行為を一切致しません。

また、今回の罪を心より反省し、謝罪致します。


########################


「これに署名して貰えばええ。羊だけに羊皮紙ってな」


山羊さんがかっかと笑う。

紙が本格的呪術の品なんだろうね。

違反したら多分、山羊さんに隷属。


「うん、有難う!」


意気揚々、と捕えた邪教徒に駆け寄り、誓約を迫る。


「や・・・あんた何処でこれを?何だか異常な呪力を感じて・・・いや、一周回ってただの紙に感じられて凄く不気味なんだが。これ署名するくらいなら死を選ぶよ」


邪教徒が拒否する。

勘の良い奴等だ。


「まあまあ、兄ちゃん。ちょっと署名するくらい、かまへんやろ?なんややましい事でも有りはりますのん?」


山羊さんが尋ねる。


「我々は、次同じ事が有れば、同じ事をする。あの御方に従う事こそが我等の生きる意味。故に、このやり取りに意味はない。我等を殺せば良い」


自害しないのは時間稼ぎだろうか。

うーむ。


山羊さんが続ける。


「何も、そう自棄にならんでええやろ。ちょっとサインすれば解放されるねんで。な、兄ちゃんあれやろ?」


「・・・何だ?」


「兄ちゃん、娘さんがなくなって、おらんやろ?」


「・・・確かに、私には娘がいるが・・・」


「せやろ。その娘さんが・・・ああ、嫌やな。襲われて怖い目にあって・・・そのまま・・・悲しいなあ?」


「な・・・貴様・・・まさか?!」


「な、ちょいとサインするだけや。内容も普通の内容やろ?」


「・・・分かった。娘には手を出すな」


男がサインする。


「・・・何か脅してるみたい」


ぽそ、とラックルが呻く。

みたいじゃなく、脅してるよ。

まあ、許されない事した訳だし、誓約の内容もまともだからなあ。

破棄出来ないだろう事と、違反した場合の罰則が恐ろしいだけで。


そんな調子でみんな署名。

邪教徒が解放された。

案外品行方正に生きるんじゃないだろうか?


「山羊さん、良く邪教徒の秘密が分かったね?」


ラックルが感心して言うと、


「ちゃいますねん。あれは話術でな。どっちとも取れる言い方をする事で、相手に情報出させるんや」


嘘だ。

絶対分かって言ってた。


「なるほど・・・そう言えば」


ラックルが頷く。

いや、それだけじゃ説明つかないこと多かったからね?


「急ごう」


ラックルが促す。


「兄ちゃん、急ぎいやあ。儀式、30分前に完了してしもうたで」


何・・・だと・・・

邪教徒の処理、後回しにした方が良かったか・・・やむを得まい。


色欲増魔デウスブーストの3回掛け・・・からの、羊の召喚。


青い毛の羊が召喚される。


どやあ


「羊・・・この羊、さっきの羊だ!やだ、乗りたくない!」


ラックルが後ずさる。

君、急いでるんだろ。

後、明らかに青いから、別個体でしょ。

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