第29話 推理に穴はないよ

「此処が猫人族の集落。エルフ族と猫人族は、王家として交流があってね。今回、救援依頼があったんだ」


ラックルが、凛とした声で言う。

俺の背中で。


「なるほど・・・で、降りて歩ける?」


俺の背中は女性専用なんだけど。

と言うか、柔らかいから変な気分になるというか。

当たってるし。

どんどんチャージされていくし。

女性背負いながら戦うって、ひょっとしたら強いのでは。


「ごめん、まだ無理。膝が笑ってる」


ラックルが首を振る。

ちょこん、と顔を埋めてくる。


「・・・これで女性ならなあ・・・」


「僕は女だよ?!」


え。


「ラックルは男性だよね?」


「あ・・・いや・・・その・・・僕も女性だよ!」


驚愕の告白。


「君の妹が唯一の王位継承者だよね?」


「えっと・・・それは・・・」


ラックルがもぞもぞ動く。

色々当たるせいで、ミトルスとの想い出が押しのけられた。


「そう、王位継承で泥沼な争いを回避する為、スキルで男性に見せてたんだ!」


「・・・みんなほのぼのしている様に見えたけど・・・裏ではそんな事が・・・やっぱり王女様は諦めたほうが」


エルフ怖い。

王族怖い。


「・・・ではなく、ほら、僕は前世の記憶あっただろう?それで自由な身分を確保する為、性別を偽ったんだ。エルフはみんな優しいし裏とかないよ」


何故嘘ついた。

格好つけ?


多分、本当はラックルは男性だと思う。

理由はある。

ラックルは攻撃魔法が使えるからだ。

この世界では、攻撃魔法が使えるのは男性だけだ。

つまり、ラックルは男性である。


「ううう・・・穴だらけの推理で僕が男性だと信じ込んでる気がするよ・・・」


ラックルが嘆く。

推理に穴はないよ。


ただまあ・・・心が女性、身体も(スキルで)女性、となると、もはやそれは女性な気がする。

難しい問題だ。


ラックルはようやく落ち着いたようだ。

俺の背中から地面に降りる。


つんつん


未送還の羊が、ラックルに乗るように促す。


「乗らないからね?!キミもう帰って!」


「ちょ、ラックル、静かに」


俺が焦ってラックルを止める。

敵に見つかるだろ。


「あ・・・ごめん」


慌ててラックルが声を小さくする。


「それより、状況を知りたい」


ラックルに説明を促す。

元々の予定では、道中で打ち合わせ予定だったのだけど。

ラックルが寝てたから。


「ああ・・・ごめん。それで、猫人の集落はまだ邪教集団に占領されたまま・・・愛玩用の・・・その・・・する奴隷として、男女共に人気有るのだけど」


何をするのか詳しく聞きたい。


「他にも、呪術の生贄や魔導の素体としても人気があるらしい。人間の王国の勢いが陰ったので、最近は邪教集団が活発でね・・・今回、大規模な襲撃が有り、此処が襲われたらしい」


流された。


「邪教徒の殲滅と、猫人の救出。今回は敵の生死は問わない」


生かしてリリースし、巣に持ち帰って貰って、巣ごと退治した方が早いんですよ?


「猫人・・・助けたら御礼とかして貰えたりするかな」


可愛いんだろうなあ。


「エルフの王女様から御礼が有る筈だから、猫人の御礼は断ってね。猫人はこれから復興で忙しい筈なので」


えー。


「とにかく・・・行こう!」


***************


2018/06/20:

私→僕

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