第28話 どやあ

「入れ替わる物がなければ、チャージされずに消えるの?」


ラックルが平然として尋ねる。


「・・・一応そうだけど、例外が有る。3つのチャージが同一人物の場合は、入れ替わったり消えたりはせず、最弱のチャージと合算される」


今はミトルスのを残してるから駄目だけど。


ラックルは少し考えると、


「やっぱりキミの能力、ハーレムじゃなくて、パートナー1人の方が向いてるんじゃないかな?とりあえずうちの妹貰ってくれないかな。かなり悲しんでたよ」


・・・俺の求愛がそこまで悲しませていたとは・・・もうかなり脈が無さそうだ。


「待って、キミのその顔、また誤解してるよね」


ラックルが俺の肩を掴んでがくがく揺らす。


「だ、大丈夫。正確に理解したよ」


俺が事実を告げるが、


「嘘だ!」


涙目で更に揺らしてくる。

大丈夫なのに。


--


ぱっからぱっから


ラックルと2人で羊に乗って移動中。


「こっちで良いんだよね?」


ラックルに尋ねるが、返事が返って来ない。

聞こえないのかな?


羊が軽快な音を立てながら駆ける。


また別の村の救援。

今度は、王国とは異なるらしい。

邪教集団。

神とは異なる力・・・悪魔の力を借りた存在。


人間、及び魔族が主要な構成員。

特に悪魔神官は特異な力を持つ者が多いらしい。

ち、チート持ちとか反則だ。


ラックルに羊を寄せ、再度話しかける。


「ラックル、こっちで良いのかな?」


「話しかけないで!」


ラックルが切り捨てる様に言う。

やばい・・・怒ってる。


ぱっから、ぱっから


羊が駆ける音が響く。


ラックルは羊の毛に顔を埋め、怒りからか身体を震わせている。


・・・仕方ない、早く着いて、何とかご機嫌取りをしよう。


「速度を上げるよ」


「上げないで?!」


ラックルが顔を上げ、涙目でこっちを見る。


「と言うか、お願いだから地面に降りて!」


ぱっから、ぱっから


移動速度や隠密的理由から、高度500メートルくらいを移動中。


「何で空を飛べるの?!何で地面蹴ってるような音がするの?!」


ラックルが叫ぶ。


「ラックル落ち着いて、敵に気付かれる」


俺の言葉に、ラックルがはっとして黙る。

身体を震わせながら、涙目で見てくる・・・ちくしょう、可愛いな。

ラックルが女性ならなあ。


「落ち着く、って言葉、落ちるって単語入ってるよね」


ふと思い立って呟く。


「やだああああ、やっぱり降りるうううううう!」


俺の言葉に、ラックルが再度叫ぶ。

だから敵に見つかるから大声出しちゃ駄目だって。


「羊さん、降りて、お願い」


羊はこくり、と頷くと、


くりんっ


1回転、見事なアクロバティックを決める。


どやあ


「ひく・・・うぐ・・・」


どや顔の羊に乗ったまま、青くなって涙目で黙ったラックル。


「降りる、は羊語で、お前の技量を俺に見せろって意味らしいね」


知らんけど。


くりんっくりんっ


俺が乗ってる羊がアクロバティック2回転。


どやあ


俺が乗ってる羊が得意気だ。


めらっ


ラックルが乗っている羊の目が光る。


「駄目だよ??!」


ラックルが悲鳴を上げる。


羊がはっと気付いた様な顔をすると、


こくり


ラックルに向かって頷き、


ぎゅんぎゅん!


空中を横向けに螺旋状に駆け上がりつつ・・・上空で3回転半・・・からの自由落下。

地面すれすれで急上昇。

俺の側に来て、


どやあ


「ラックル気絶したから失格な」


羊が呆然とした顔をする。


ラックル、可愛い寝顔だね。

ラックルを俺の前に乗せ、ラックルが乗っていた羊は送還した。

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