第23話 羊の皮を被った何とやら
盗賊達を一箇所に集め、誓約の儀。
契約の紋章紙に、二度とエルフの村を襲わない事、奴隷狩りをしない事、罪を償う事、賠償金を払う事・・・抜けなく羅列してあるが・・・これが履行される事はないらしい。
本来ならあり得ないのだが・・・契約の文様魔法、そのものを乱すのだろう、とリーンは説明してくれた。
殺してしまえば、流石に次は攻めて来られないが・・・王国に目を付けられると、王国精鋭軍が動くとの事で・・・紋章機や紋章獣を動員できている事自体、後ろに王国軍が居るのは明らかなのだけど。
「王女様」
「はい?」
俺が呼びかけると、リーンがきょとん、として首を傾げる。
「ブラフをかけておこうと思う。俺が羊を出し、その羊が体に潜り込み、誓約を反故にするとその体を食い尽くす、と」
「・・・そんな魔法があるの?」
リーンが驚いて尋ねる。
「ない。ただ羊を出して、宣言しておけば・・・抑止力の補助の補助くらいにはなるかな、と」
我ながら情けない。
レベルドレインでも出来れば良いのだろうけど。
そのイメージは湧かない。
「ん・・・やらないよりはマシだと思う」
リーンも頷く。
ぽふ。
ごく普通の、あまり怖くない羊が来てしまった。
「・・・ねえ・・・その羊なんだけど」
「なんや姉ちゃん、どないしはりました?」
羊が小首を傾げる。
「いや、待って、喋ったんだけど」
「そりゃ、羊だって喋りますがな」
羊が困ったように言う。
喋らないんじゃないか?
「というか、キミ、羊じゃないよね」
「姉ちゃん・・・喋ったからって羊じゃないなんて言わはるの、酷いわ」
羊が悲しそうに言う。
「・・・いや・・・その・・・背中のチャックと、その二本のツノ、何?」
「何って・・・羊やがな」
「えっと・・・」
そっとリーンの後ろに回り、どさまぎで前に手をまわしつつ、
「リーン落ち着いて。話が先に進まない」
「せやで、契約守らせたいんやろ?せやったら、わいら羊に任したってや。そういうの得意やねん」
言いつつ、何か勝手に文言を書き足していく羊。
なになに・・・
この誓約に違反した場合は、同士、命令した者等も含め、******のもとで一生隷属します。
うん、確かに破りたくなくなるね。
一定の効果はあるんじゃないかな。
・・・勝手に付け足して、元の誓約の効果がなくならないか心配だけど。
あと、悪筆過ぎて一部読めないって言う。
「・・・これで効果があると良いけど・・・」
羊は、にぃっと笑うと、
「じゃあ姉ちゃん、さっさと誓約の儀終わらせたってや。わいがしっかりこの契約預からせて貰うさかい」
「う・・・うん」
効果あるといいなあ・・・
盗賊達は、舐めた態度で、流れ作業で署名する。
その後は、規定に従い、王国へと帰っていった。
効果なさそうだなあ・・・
すぐ破るんだろうな。
「どうにかしたいんだけどね・・・でも、今回はみんなを助けられたから良かった!」
リーンが微笑む。
「大丈夫やで、姉ちゃん。実はわい、羊ちゃうねん」
えっ。
「・・・キミが羊じゃないのは気付いてたけど、大丈夫な要素はないかな」
「・・・実はな・・・わい・・・山羊やねん」
・・・山羊だと大丈夫なんだろうか?
「・・・あ、うん、角あるしね」
リーンが頷く。
「せやろ、せやろ。羊の皮を被った何とやら、って奴ですわ。奴等はもう来れへんよ。安心し」
山羊がニコニコ笑う。
「契約、ゆうたら山羊や。わいら、そういうの得意やねん」
何でやねん。
さっきは羊が得意だとか言ってたと思うが・・・
「あ、兄ちゃん。また契約する時は呼んだってや?書き込んどいたさかいな」
そういうと、山羊が溶けるように消えていく。
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