第二章

第13話 逃げられた

「やあ、ラックル。久しぶり」


ラックル。

透き通る様な金色の髪をしたエルフの青年だ。

鋭く蒼い瞳は初見では冷たい印象を与えるが、理知的で、優しい。

妙な所にこだわってわたわたするのは見ていて楽しいし、飽きない。

エルフの特徴である尖った可愛い耳・・・触らせてって言ったら怒るだろうなあ。

会うのは数日ぶりだ。


「リョータか。ラフィエルとは仲良くやっているのか?」


ラックルがその美しい声で話しかけてくる。

野太さはなく、中性的な印象だ。


ラフィエルはもう逃げたよ。


ラックルが続ける。


「ラフィエル・・・僕では解放出来なかったからね・・・キミと稼いだお金のおかげで、かなりの同胞を助けられた。改めて礼を言うよ」


「こっちこそ有難う。いい夢を見れたよ」


指一本触れられなかったけどな。


「彼女には昔良くして貰ったからね。また会いたいな」


「会えば良いんじゃないのか?」


また捕まってたら知らないけど、流石にそれはないだろう。


「・・・そうだね。会いに行って良いかな?」


「良いんじゃないか?俺が許可出す内容でもないけど」


良く分からないけど、エルフの里に戻るって言ってたし。


ラックルがくすりと笑う。


「キミは彼女を大切にしてくれているらしいね。良いご主人様やってるようだね」


ご主人様だったのは一瞬だけだけどな。


「今ラフィエルは何処に住んでるんだい?」


「知らない」


ひゅるー


風が吹き抜ける。


「・・・知らない、とは?」


「ラフィエルはもう逃げたからなあ・・・今何処にいるか、正確な情報は知らない。・・・エルフって恩義とかそういうの無いのだろうか」


ラックルがガバっと俺の肩を掴むと、


「ちょ・・・ど、どういう事かな!有り得な・・・いや、キミが嘘をついているとも・・・しかし・・・というか、隷属呪法はどうしたんだ?」


超顔を近づけてくる。

やっぱり美形だなあ。


「んーっと・・・こういうのって、まず奴隷契約破棄しようとして向こうから止められるか、破棄しても私は貴方に仕えますってなるじゃん?」


「ならないよ」


俺の問を、ラックルがバッサリ斬る。


「しかも、彼女は既婚者でね」


「・・・話していなかったか。すまない。でも、人間の一生に付き合うくらい、彼女も、夫も、待てるはずだが・・・」


「此処を出て、親や子、夫と暮らし、貴族として務めを果たすのか、それとも俺に隷従し、昼も夜も無く身体を差し出し、爛れた一生を終えるか、どちらか選ぶよう迫ったのだが」


「うん、びっくりするくらい選択の余地ないよね。それで後者選ぶ訳ないよね」


ラックルが否定する。

エルフと人間では価値観が違うんだなあ。

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