短編 都市構造体に寄せて

@syakamaki

都市構造体に寄せて

 奥多摩の旧道を原付で六十キロほどで走行していた。まあああと小さなエンジンはうなりを上げながら、積載量ギリギリの荷物と私の体重を斜め上へと誘おうと必死だ。タイヤの溝が減ってきている。悪い道だからそろそろ替えないとひどい目に合うような気もしたのだが、23区外西部地区への入場料で財布が非常に軽くなっていたため見送りとなった。ひび割れたアスファルトの隙間、走ったその破壊の線は緑が埋め黒と緑が混在する。だから打ち捨てられた割には困難なくスピードを出すことが出来る。警察がいないぶんどちらかと言うと都心よりも走りやすいと言えるかもしれなかった。時々車体は大きく揺れ、申し訳程度に付いている荷物置き場に無理やり結び付けたキャンプ用品たちがドコンと鳴った。

 時刻は午前の真っ最中といった所か、日差しは徐々に高くなってきていた。時々道端に崩れている都市構造体を見ることが出来る。23区外の、特に山間の「東京」が人の手を離れ、「公園」となって50年ほど、自然のおもちゃとなった人造物をいくつも見ることが出来るようになった。元より「東京」を名乗ることが少し括弧つきだった地域だが、人口が消失してからそれは特に顕著だ。民家、古民家、飲食店、より取り見取りで飽きることはない。

 エンジンが焼き付いたらどうしようと考えながら、まあそうしたらどうしようもないのだが、たまにぱあっと視界の開ける上下のおおきな道のりを行く。どの坂を越えても、遠くまで夏の空だった。ぽつりぽつりと、都市構造体が点在。


 都道45号線をまっすぐ、411、205をなぞってゆく。昼過ぎには着くだろうなという調子で、Bluetoothのイヤホンが聞き飽きてしまった曲を流していた。エンジン音と混ざってほとんど意味を成していない。左右に切るハンドルに合わせて、曲の調子だけが身体に通っていく気がして、余計に目に映る青だとか、緑だとか、雲の白が鮮やかだった。物言わぬものは強いと思った。

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