番外編[武器]

 とある日、瑞樹はファルダンに呼ばれ邸宅へと来ていた。何の用だろうかと考えていたが、ここ最近は結構な頻度で来ているので心当たりがありすぎるので余計に考え込む羽目になる。ともかく、その答えはファルダンが持っている。


 瑞樹はいつも通りの見慣れた客間に連れられソファーへと腰を下ろす。一息つき二人の線が合わさるとファルダンは開口一番とんでもなく突拍子で、厄介で面倒な事を瑞樹に持ち掛ける。


「何か新しい技術を盛り込んだ武器を考案してほしいのです」


「はい?」


 思わず瑞樹は素っ頓狂な声を上げる、どんな経緯でその発想に至ったのかまるで分からない、呆然としていた意識を戻し、瑞樹は問いかける。


「あの、ファルダン様?余りにも突拍子過ぎて理解が追い付かないのですが…」


「おっとこれは失礼、では順を追って説明しましょう」


 曰く、まず前提としてファルダンの周りには常に護衛の者がいる。瑞樹にとってはまずそこから初耳だったが、いちいち口を挟んではまるで先に進まないので取り敢えず黙っていようと口を噤む。聞いている感じではまるで忍者とか、特殊部隊のような印象を受ける。で、その人の使っていた武器が壊れてしまったからどうせなら新しくて面白い武器を調達したいと、そんな話しだった。

 色々とツッコミたい所はあるがその分面白い事も聞けたと、瑞樹は今の話しを反芻する。特にファルダンにちゃんと護衛がいたというのはが驚きと同時に、今までのファルダンの単独行動に深く納得する。侯爵という貴き身分でありながら一人で出歩くなど不可解にも程があるが、護衛が周囲を取り囲んでいるとなれば納得するしか無かった。


「お話しは分かりましたけど、私に武器なんて作れませんよ?」


「ほっほ、勿論瑞樹殿に作ってもらおうなどとは微塵も考えておりません。わたくしが望むのは異世界の知識、技術を盛り込んだ物を考案していただきたいのですよ」


「考案っていわれましても…ちなみにどんな武器を所望されていますか?」


「護衛、なおかつ周囲に溶け込む都合がありますのであまり目立たない、ナイフの様な物が望ましいですな」


 瑞樹はミリタリー関連の知識は少しはあるが、ナイフなぞ今も昔もそんなに形が変わっているとは思えない、かといって人間工学に基づいた物なんて自身でも理解不能だった。記憶の引き出しを開けては閉め、瑞樹はう~んと頭を悩ませる。


「どうです?何か良い案は思い付きそうですか?」


「どうにも難しいですね、武器自体が専門的な知識を必要ですし、ただ異世界の知識があるってだけではどうにも…」


「ふぅむ、瑞樹殿でもなかなか難しいですか」


「少し考えを変えてみますか、そのナイフは斬る為に使いますか?それとも刺す為に使いますか?」


「どちらかといえば刺す為ですな、構造上そちらの方が良いでしょうし」


 そう言ってファルダンはこの世界で一般的に使用されているナイフを一つ瑞樹に見せる。それは片刃のタイプではなく、両刃で真ん中を鋭く尖らせた物だ。


「見ての通り刃渡りも短いので、一度間を空けられると手を出し辛くなるのが難点になります、それも致し方無いのですが」


 刃渡りはおよそ十センチ、確かにこれでは密着するくらいに接近しないと難しいだろうと、瑞樹も刃に視線を向けながら心の中で呟く。ナイフで遠距離の相手を刺す、完全に矛盾した問題だが瑞樹の頭にふと、とある珍妙な武器が思い浮かぶ。


「一応ご希望に添えるような物に覚えがあります…けどそれが実際に役立つかはなんとも言えませんよ?」


「えぇ結構です、初めから完全な物などそうそうありません。そういうのは積み重ねが大事ですからな」


「では俺の案を説明しましょう」


 ナイフでその刃渡り以上の距離に攻撃するにはどうするか、遠くにいるならその刃を飛ばしてしまえば良いのではないかと考えた結果、知る人ぞ知る珍武器[スペツナズナイフ]ならどうかという結論に至る。一体どんな物かというと、刀身を柄に内蔵したバネの力で射出するという突飛な構造になっている。


 利点として、まず相手は間合いに入らなければ安全だと思い込んでいる。そこにつけこみ、相手の意表をついた攻撃が出来る。成功すれば当たれば手痛い一撃を与える事が出来るし、もし避けられても動揺を誘う事が出来る筈である。刀身を発射する特性上、どうしても強度に支障が出るが、ナイフはあまり相手とは切り結ぶ事はせず、如何に相手の一撃を避けて懐に飛び込むかを優先する事になるので、問題はそんなに無いと思われる。


 勿論欠点もある、それは刀身を発射すると手元に残るのは柄のみになってしまう。しかもバネを使う都合上、バネが外まで飛び出し再装填に手間がかかってしまうが、これに関しては複数所持するなりして対応してもらうしかない。技術的な難題もある、刀身をある程度遠くまで飛ばせるバネ、それの衝撃に耐えられる柄、柄に仕込むトリガー、それらを高水準で作る事が出来るかは実際に製作してみないと判断出来ない。


「どうでしょう?口で言うのは簡単ですけど、形にするのは結構難しいと思います」


 ファルダンは無言のまま顎に手を当てて考え込む。勿論瑞樹は伊達や酔狂でこの知識を開示した訳では無いが、予想以上に真剣に考えているファルダンを見ると、えも言われぬ緊張感が瑞樹を支配する。暫しの沈黙の後、ファルダンが漸く口を開く。


「確かに面白い発想ですが、作製は難しそうですな。実際に現場で使う者の声も聞いてから今一度考えてみます」


「そうですね、その方が良いと思います。革新的、最新の物であればあるほど最初は敬遠されがちですから…それに命を預けるなら尚更です」


「確かに。命を守って頂いている立場である以上は、なるべく現場の人間の意を汲みたいと思います。ですが一応作製依頼しておきましょう、実際に実物を見てから分かる事もあるでしょうし」


「その辺はお任せします」


 瑞樹は正直武器作製に手を貸すのは嫌だった、万が一世に出回る事になればどこぞのライフルよろしく、世界で一番人を殺した武器の産みの親なんて異名で呼ばれかねない。無論そんな事はあり得ないだろうが、それでも武器の設計計画が出来ると人に思われたくないのだ。面倒で厄介な事はなるべく避けて生きたいが。ファルダンは特別だと、瑞樹は無理矢理自身を納得させる。

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