After the rain
さっきまで強く降っていた雨が突然上がり、雲が消えていった。
そして姿を現したのは薄紅を
その丘を覆い尽くすように咲く向日葵と、今にも消えてしまいそうな紅の空にボクは息をするのを忘れるくらい魅入ってしまった。
「兄ちゃんさすが!」
脳裏に蘇る幼い頃の弟の声。
「次は父さんが鬼だ!」
次いでボクの幼い頃の声。
その後に父さんと母さんの楽しそうな笑い声が聞こえた。
丘に咲くあの向日葵も、薄紅点したようなあの空も、何もかもが、思い出の地に酷く似ていた。
「・・・なんだよ。この日に死んでよかったって思わせるための舞台作りかよ。そんなもの・・・」
その途端に足がすくんだ。
死ぬのが急に怖くなった。
「まってよ」
幼い時のボクの声が脳裏にこだまする。
「まてよ、兄ちゃん」
「お兄ちゃん、まってよ」
次いで妹と弟もボクの脳裏に蘇る。
まるで本当に後ろに2人がいるようだった。でも、振り向いたら遠くに行ってしまいそうで、振り向けなかった。
「兄ちゃん」
「お兄ちゃん」
2人の声が重なる。
「死ぬな、生きろ」
2人の声は聞こえなくなった。
ボクは耐えられずその場に膝をついた。
涙が抑えられなくて、空を見上げる。
そこには皮肉にも、強く、色濃く空を彩る虹がかかっていた。
永遠に時を止めてしまいたくなるような風景。
一生忘れないような風景。
その途端、どうして死にたかったのか分からなくなった。
今までボクのことをいらないって思う人に会ってきた。
でも、弟や妹みたいに、必要としてくれた人、居場所をくれた人も少なからずいた。
その人との時間まで捨てるのは惜しい気がした。
ここにいていいよ、って言ってくれる人がいる限り、きっとボクは生きていける。
こんなセカイを見ることが出来るよ、ってそっと導いてくれる人がいる限り、ボクは生きる意味を見いだせそうな気がする。
ここにいていいよ、こんなセカイを見ることが出来るよ、って言ってくれる人がいなくなったら、その時に死ねばいい。
死ぬのは今じゃなくたっていい。
一瞬でも生きたいって思った。
誰に何を言われても、
これはボクの身体。
ボクの命。
好きにしたっていいはず。
だから、わがままだけど少しだけ生きてみようと思う。
「もう少し・・・生きてても、いいよね」
沈みゆく太陽がボクの頬を照らす。
その時、水溜まりに一瞬だけ反射して見えたボクの顔は、涙に濡れながらも笑顔を浮かべていた。
Euphoriaー理想と現実のDystopiaー 大祝 音羽 @senasyugetsu
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