罪と罰

苦しい。

息ができない。

なにかに首を絞められているような感覚が襲ってきた。


いつものように夢か、と思って目を覚ましたけれど、依然として苦しさは消えない。目を開けると、なにかに首を絞められていた。陰口を言っていたあの人だった。

「朝起きたら、あんたの妹が死んでたのよ・・・。ほんと兄妹そろって迷惑でしかないわ。あんたも死ねば良かったのよ・・・、そうすれば楽になったのに。なんであんたが生きてるのよ・・・」

さらに首を強く絞める。あぁ、殺されるんだなって思った。

弟もこうやって殺されたんだな。

すると、絞めていた手を緩められた。

「・・・殺さないの」

ボクが聞くと、彼女は顔を真っ赤にした。

「生意気な!!!あんたはさっさと死ねばいいのよ!!あたしが手を下したら、悪いのはあたしになるもの。殺せないわ。そのかわり・・・こういうことはできる」

そう言って、ボクの腕を捻った。

「うっ・・・」

小さく声を上げる。

容赦なく彼女はボクの腕を捻る。

やがてボキッという音が鳴り、腕に激痛が走った。それでも手を緩めず、今度はボクの背中やお腹を殴り始めた。

腕の痛みに加え、全身に走る痛みも加わり、意識を失いそうになった。


妹の命を見殺しにした罰なのかな。


そして、ボクの意識は落ちた。



目が覚めると、医務室にいた。

傍らにいたのは、また別の大人だった。

「あぁ、よかった・・・。腕を骨折してて、さらに手首まで・・・。悩み事があったら何でも言って。言うことで軽くなることもあるのよ・・・。自分の身体を傷つけたって何も解決しないもの。生きていなければ意味はないのよ。人は誰しも幸せになる権利があるんだもの」

そう言って、ボクの手首の包帯を巻き直して、どこかに消えていった。

痛みの残る身体を引きずり、鏡の前に立った。

背中を見ると、殴られた跡が紫色の痣となって残っていた。

「幸せって何」

呟いたって誰も答えてくれないのは分かってる。

でも幸せがどういうことなのか分からなかった。

生きていれば幸せなのか。

家があれば幸せなのか。

親がいれば幸せなのか。

暴力されなければ幸せなのか。

病んでいなければ幸せなのか。

身内が死ななければ幸せなのか。


ボクは幸せ者じゃない。

そんなことは分かってる。

幸せになる方法もいらない。

ただ、家族に会いたかった。

今はただそれだけを望んでいる。

妹に謝りたい。

弟にちゃんとあいさつしたい。

母さんと話したい。


そんな願いが叶えばどれだけいいだろう。

飲んでおくように言われた痛み止めの薬を飲み、医務室を抜け出した。


逃げるとしたら今しかない、そう思った。

こんな檻のような世界にいたって、ボクの精神が死んでくだけだ。

どうせ死ぬなら、何も言われずに自由に死にたい。


その思いひとつで、ボクは孤児院を抜け出した。

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