ミラクルリカコちゃん

絹 さや子

第1話リカコの夢

また今日も納豆ごはんだ。

納豆は体にいいらしいが私は、健康とかまだそういうことにこだわる年齢ではない。

もっと、美味しいものが食べたい。

納豆を好きな人には悪いが、匂いが嫌だし。

見た目も、地味すぎる。

私は、もっとキラキラしたものが基本好きなのだ。

例えば、フワフワのオムライス。

あれは、素敵だ。

黄色いとろとろの卵がなだれれのように落ちていく。

あれは芸術。

そして深い色のデミグラスと混ざり合う。

とても素敵だ。

卵のまろやかさ、デミの奥深さ。

想像だけで、うっとりする。

なのに、私のテーブルの上には、納豆と白いご飯と味噌汁だけ。

朝食はいつもこれ。

だからって、夕食が豪華なわけではない。

ママは言う。

マグロのどんぶりだと思って食べなさいと。

想像力は、身を助けると。

全く持って、いろいろなこと棚にあげる。

そして、へんてこなことを言う。

全部、ママのせいだと思う。

いや、パパも同罪だ。

私は、犠牲者。

そんなことを思いながら、納豆を箸でぐるぐるまぜる。

なんだか知らないが、20回以上ぐるぐるすると、美味しいらしい。

本当に、らしいだけだと思う。

納豆は納豆。

パスタにもどんぶりにもならない。

私だってお年頃。

たまには、おしゃれな食事をしたい。

フリルのついた白いワンピース。

知ってる。

今時流行らないの。

でも、私は、あれが好き。

いかにもお姫様ぽくって。

メイクは、清楚に見えるように色味は抑える。

でも、まつえく?だったかな?睫毛を植えるやつ。

なんかあるでしょ、そんな感じの。

あれはどうしてもやってみたい。

だってあれをやると、お人形みたいな睫毛になるもの。

髪型は、断然、セミロング。

肩について、ゆるいカールで、動きが出る感じ。

そして隣には、素敵な男性。

そう、婚約者。

婚約者の顔を想像してみる。

ぜんぜん、顔が決まらない。

醤油顔もいいし、いや、濃いめの顔も素敵。

テレビに出てる俳優さんを思い浮かべたりして、ニンマリしたり。

やっぱり、私、醤油顔が好きだ。

朝ドラに出てる俳優さんの顔に決まる。


「リカコちゃ~ん」

隣のお家のえっちゃんが呼びにきた。

今から一緒にご飯を食べに行くのだ。

何でかえっちゃんはいつもおごってくれる。

えっちゃんがどうしてお金をそんなに持ってるのかわからない。

だって、えっちゃんの家はお金持ちではないもの。

もちろん、毎朝納豆しか出てこない私の家も貧乏よ。

でも私、必ず将来お金持ちになるの。

玉の輿に乗るの。

そして仕事もバリバリして、綺麗で可愛くて、カッコいい女性になるの。

あれ~??何か、変。

お金持ちになったら、バリバリ働かなくていいよね。

でも働いてみたいな。

そして玉の輿。

とにかく、何でも手に入れたい。

欲しいものは、いっぱいあるの。

大きなお城みたいなお家に住みたい。

お部屋がたくさんあって、パパにママにおじいちゃんおばあちゃん、それから、玉の輿いや、旦那様のパパにママ、おじいちゃんにおばあちゃん、後はたくさんの友達。

私の大切な人全部、一緒に暮らすの。

みんなで幸せになるの。

もちろん、えっちゃんもよ。

お城みたいなお家の外観の色はやっぱり白。

白はいい。

可愛いし、清潔で、上品で、強すぎないけど、主張がある。

唯一特別な主張。

優しいのに意志が強いの。

だから、私は白色が大好き。

大好きな白色のお城のようなお家で、大好きな人達と一緒に暮らすの。

考えただけでうっとりしてくる。

想像だけで、なんて幸せな気持ちになるんだろう。

「リカコちゃ~ん、まだ~?」

あっ、大変、えっちゃんが呼びに来てるんだった。

いつもの妄想で、うっかりしたわ。

今からえっちゃんの奢りで、天ぷらを食べに行くの。

そうそう、私達の年齢は18歳、天ぷらなんて、しゃれてるでしょ?

えっちゃんはお金ないけど美食家なのよ。

前にも一緒に行ったんだけどね、エビの天ぷらとキスの天ぷらとかき揚げの天ぷらがすご~く美味しいの。

だから今日も楽しみだわ。

えっちゃんは塩で食べるのよ。

私は、天つゆの方がすき。

あ~、天丼も美味しいな~。天丼のあま~いたれ、あれも私は大好きなの。

たとえ隣のえっちゃんとのお出かけでも、私はおしゃれに手を抜かない。

だってどこに素敵な出会いがあるかわからないもの。

昨日ネイルサロンで私の指先は、キラキラして輝いてる。

初めてのネイルデビューなの。

自分の指先を見てはうっとりする。

ちょっとだけ悪いことしたの。

お腹がすいて、台所でホットケーキを真似しようと、小麦粉を探していたの。

そこでママのへそくりを見つけちゃった。

それでほんの少しだけ、お金を頂いたの。

だって、お小遣い、ママくれないんだもん。

人間界の事、ママわかってない。

それで私は、ホットケーキのことなんて、すっかり忘れ、前から行きたかったネイルサロンに直行したの。

ママの顔を見るとチクンとするけど、キラキラの指先を見て忘れるの。


「お待たせ」

「もう、お腹ペコペコ」

「ごめんね」

「いいよ」

えっちゃんは優しい。

「えっちゃん、このエビの天ぷら最高だよ」

「うん、この白身魚の天ぷらも美味しい」

「やっぱり、天つゆだよ」

「そうかな~私は塩」

天ぷらなのにあっさりしていて、サクサクで、少し甘めの天つゆで私は食べる。

今日も最高に美味しい天ぷらだった。

大好きなえっちゃんだけど、ちょっと疑問。

美食家のえっちゃん、どうしておしゃれをしないんだろう?

おしゃれは女の子に生まれた特権だと思うのに。

最高に楽しいイベントにも日常にもなるのにな。

天ぷらは塩で食べてカッコつけるのに自分の外見にはカッコつけない。

もったいないなあ。

今日もえっちゃんの奢りで美味しいものを食べ、幸せでした。

私は、天ぷらを食べるのにカッコはつけません。

美味しい方が幸せだもの。


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ミラクルリカコちゃん 絹 さや子 @hana888

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