第7話

出向して、2週間経った頃。

Dに資料のコピーを頼まれ、コピー機の前で作業していた時、

こんな光景を目の当たりにした。


「これ、コピーお願いしてもいいですか?」

ADに敬語を使う男性D。

「はい、リョーカイ」

受け取ったADは、なぜかタメ口。

他のDにもそうなのかと思いきや、

話す様子を見ていると、どうやら、そうではないらしい。


「ともちゃん!どうしたの?手が止まってるよ」

「あ、すみません!」

「何かあった?」

「いや、ADに敬語を使うDさんっているんだなと驚いてしまって」

「あ〜、藤川さんね。最近、Dになったばっかりだからね」

「そうなんですか!?」

「もともと藤川さんと木野さんって、ADの先輩後輩だったんだけど、

 仕事の評価が良かったみたいで、後輩の藤川さんの方が先に

 出世しちゃったんだよね〜」

「評価?」

「企画書を出したり、自分でカメラを回して編集したり。

 ADとしての仕事をしつつ、時間を見つけて、

自分なりに少しづつやってたみたい。

それが上司の評価に繋がったんじゃないかって、先輩たちは言ってたな〜」

「普段と同じ仕事をしながらプラスα…、すごいですね」

「私も、ともちゃんにす〜ぐ追い抜かれちゃうかもな〜」

「そんな、私は…恐れ多いです…」

「ふふふ。ま、それは、上の人たちが決めることだからね。

 まあしかし、木野さんも31歳で年齢も年齢だからね〜

 『そろそろDにあげるか』って話もあるみたいだけど、

 なかなかCPからのゴーサインが出ないらしい」

「そうなんですか…」

「私も、人のこと言ってられないんだけどね」


 たった2年でDになれる人もいれば、

7年以上、Dの下で働き続ける人もいるらしい。

後輩として指導していた子が、自分よりも先にDになり、立場が逆転。

『俺の方がアイツより、絶対仕事ができるのに…なんで、アイツが先に…』

人当たり、人望、上司からの評価…

下克上ありの、シビアな世界。

それが嫌でこの仕事に見切りをつけ、業界を去る人も少なくないと

加古川さんは教えてくれた。

「中には、評価ばかりを気にして、おべっか使う人もいるけどね…」

Dへの昇格に勤続年数は関係ない。

他のADよりいかに優れているか、どれだけDになるにふさわしいか、

仕事をする中で実績を残さなければ、上にあがることはできない。

「まずは1つずつ、確実にやっていこう!」

「はい!」

「じゃあ、それ、ディレクターさんに早く渡してあげようね」

「はい!!」

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