第6話

 窓の外が、うっすらと白み始め…気がつけば、朝の4時。

深夜から未明にかけて、沢山のことを一気に体験したからか、

時間が経つのがとても早く感じる。

「ともちゃん、朝刊が届いたから、みやのんとチェックお願い〜」

「は〜い!」

情報番組で大切なことは、情報の鮮度。VTRに最新の情報を盛り込めるよう、

担当ADは届いたばかりの朝刊記事に目を通し、

取り扱うネタの関連記事を編集室にいるDの元へ届ける。

「今とった新聞記事をみやのんと一緒に、編集室のDに届けてくれるかな?」

「わかりました!」

 

 編集室に行くと、時間を気にしながらせわしく作業を行うDたちがいた。

編集マンと大きな画面を見ながら編集作業を行う人、

テロップをパソコンに入力する人、ナレーターさんにVTR内容を説明する人…

話しかけるのにも躊躇してしまうほどだ。

「浅川さん、これ、火災関連の朝刊です」

「お〜、宮野。サンキュー」

浅川さんは新聞記事を受け取ると、すぐに読み出した。

「…あ〜、死者が増えてるな…今VTRに入れたテロップ差し替えないとな」

頭をかきながら、編集マンに指示を出し差し替える。

画面には、いつもテレビで見ていた映像が流れていた。

「こうやって、作られていくんですね…」

「そうだね。よし、僕らもラストスパート。フロアに戻ろう!」



OA、2時間前−。

円卓周りが、綺麗に片付けられ、何やら準備が始まる。

「これから何が始まるんですか?」

「OA打ちって言って、番組の流れとスタジオ展開の打ち合わせだよ」

「へ〜」

Pのチェックが終わったネタごとに台本を集め、

その日の放送台本を組み上げていく。

「よし!それじゃあ、これをコピーするから早く配ろう!」

「はい!」

スタジオの展開を書いた『スタジオ台本』と、

ナレーション原稿をまとめた『ナレーション台本』の原本を

コピー機をフル稼働させて、印刷。

まだ誰の目に触れていない、

刷りあがったばかりの台本が続々と刷りあがっていく。

「ホカホカだ〜・・・」

両腕に抱えた台本は、とても温かい。

「出来たものからでいいから、急いで円卓に配ろうか」

「はい!!」


OA打ちには、CP、Pをはじめ、

サブと呼ばれる副調整室で番組全体の進行を管理するピッチャー、

それをフォローするサブピッチャー、

番組の時間を司るTK、ネタごとのDが集まり、

番組の進行順に、フリップを出すタイミングや

VTR内容の解説の順番など、スタジオでの展開を打ち合わせていく。


打ち合わせが終わると、

今度は、スタジオで使用するフリップや新聞の準備が始まる。

「さあ、ここからはフル回転でいきますよ〜!」

「うっしゃ〜!」

グラフィックデザイナーさんから、出来上がったばかりのフリップを受け取り、

展開順に並べてスタジオへ。それと並行して、スタジオで使用する新聞を

スプレーのりを使ってボードに綺麗に貼り合わせる…

多くの作業を情報部フロアとスタジオを往復しながら、こなしていく。

「あと10分で始まるよ〜!」

「宮野!!時枝っちと先にスタジオに行って」

「わかりました〜」


そして迎えた、初のOA。

『おはようございます!』

複数のカメラの前で話すアナウンサー。

テンポの良いコメンテーターとのやりとり。

テレビ画面で見ていた世界が、自分の目の前に広がっている。

さっき受け取ったフリップが、ボードに貼った新聞が使われている。

ふと、スタジオにあるテレビ画面に目を向ける。

自分がいる、このスタジオの映像が、今まさに、LIVEで全国に流れている…

そう思うと、なんだか不思議な気持ちになった。

…と、同時に、やっぱりテレビが好きなんだと改めて思った。


「お疲れ様でした〜!」

無事に放送が終わり、片付けが始まる。

アドレナリンが出ているのか…まったく眠くならなかった。

「ともちゃん、お疲れ様〜」

加古川さんが、手を振りながら私の方へやってきた。

「お疲れ様でした」

「どうだった〜?初OAは?」

「学ぶことが沢山あって、でも、楽しかったです」

「そっか、そっか」

「時枝っち、おつ」

「港さん、お疲れ様でした」

「宮野もおつかれ」

「お疲れ様でした」

「さ〜て、ささっとバラして、フロアに帰ろうね」

「…バラす?」

「業界用語で、片付けのことだよ」

「そうなんですね…勉強になります」

「ふふふ。徐々に覚えていけばいいよ〜」


もっと知りたい。

初のOAを終え、その気持ちは一層強くなった。

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