第4話

 情報部に戻ってからも加古川さんからいろんなことを教えてもらった。

Dとの向き合い方、許諾用紙の書き方…初日だが、手のひらサイズのメモ帳は

3分の1を消費していた。

「時枝っち〜」

Dからの仕事を終えたADの港さんが、ニコニコしながら戻ってきた。

「俺、港公平。よろしく〜。んで、あいつが、宮野。おい、宮野!」

「はいはい。あ、どうも。宮野直幸と言います。よろしく」

「時枝です。ふつつか者ですが、よろしくお願い致します!」

「ぷっぷ〜。”ふつつか者”。面白いね〜、時枝っち」

「港さん、あなたの”〜っち”っていうのも、若干古さを感じますからね」

 CDを含めた10人のDと、4人のADで構成された木曜班は、和やかな印象で、

情報部のフロア自体も”バカヤロー”とか、”ふざけんじゃねーぞ”とか、

特に罵声が聞こえるわけもなく、基本的に静かな雰囲気だ。

今自分がこう感じるのは、テレビ業界を”そういうものだ”と、

どこかで思い込んでいたからなのかもしれない。


 夕方になり、情報部の中心にある円卓に、CPやP、CDが集まりだした。

「加古川さん、あれは何が始まるんでしょうか?」

「あれはね〜、明日の放送内容を詰める会議だよ」

「会議…」

「そう!夜になっちゃうとできない取材も出てくるから、

 夕方までに入った情報量を見て、何のネタをどれぐらいのバリューで

 放送するかを決める大切な会議だよ」

「へ〜…」

「この会議の後から動きだすネタもあるんだよ」

「今から?」

「円卓には番組の上層部しか座ってないけど、

 ロケに出ずに、デスクで作業しているDは、耳をすませて聞いてる感じだね」


「里見〜」

 水曜班のCDが円卓から担当Dを呼ぶ。

「は〜い!」

「すまん、今のネタ止めて、こっちのネタでいくわ!」

「わかりました〜」

 どうやら、予定していたネタが変更になったらしい。

「あんな感じで変更になったら、私たちは関連資料を急いで準備して、

 ロケに出るなら、その準備をしないといけなかったり。

 私たちADも、ちゃんと聞いていないといけない会議だね」


 平日の朝、放送している『オープン・ザ・サン』では、

担当曜日の前日は泊まりで作業を行い、翌朝の放送に備える。

事前に振り分けられた担当ネタごとに、

外で現場の取材を行うDと、社内で情報収集に当たるDとで仕事が分担され、

撮れ高など連絡を密に取りながらネタを形にしていく。


「戻りました〜」

 取材から、Dが帰ってきた。自身のデスクに荷物を置き、

まず取り掛かり始めたのは、取材してきたテープのTC抜き。

所謂、使いどころを抜く作業だ。

「ADさ〜ん、これ編集さんに取り込みお願いしておいてくれる?」

「わかりました!」

ADはTC抜きが終わった取材テープを受け取り、編集室へ持って行く。

ここから各Dたちは、ナレーション原稿を書き始め、

編集マンと一緒に撮ってきた画を繋いで、

テロップをパソコンで打ち、VTRに反映させて、完成に近づけていく。

朝のOAまで、ぶっ通しの作業だ。

「泊まりって言っても、仮眠とらないんですよね?」

「そうだね。そういう時間があればいいんだろうけど、

 ここでの泊まりは徹夜作業ってことだね」

「電波に乗せるって大変なんだな…」

「ね〜…。電源付ければ簡単に見れちゃうテレビだけど、

 徹夜で働く人たちがいなかったら、そもそも成り立たないからね〜」

在って当然のものなんて、どこにもない。現場に入って、改めて感じた。


「ふふ。あ!そうそう。明日、ともちゃんも木曜班のOA隊になります」

「OA隊?」

「私たちと一緒に、泊まりで作業をしてもらいま〜す」

「はい!早く仕事覚えられるように、頑張ります!」」

「まあ、慣れるまでは睡魔との戦いだとは思うけど、

 み〜んな必ず通る道だから頑張ろうね!」

「はい!」

こうして、私のテレビマン人生は始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る