第15話 痛みのない暴力
俺はアレンを追って走っていた。早く帰って両腕についたスライムの粘液を洗い流したい少し時間が経ったせいで冷えて固まって取りづらくなっていてとても気持ち悪いだがアレンの姿はどこにもない。
「おい、アレン!どこにいる!」
俺は走りながら叫ぶが返事は返ってこない。
あいつ昨晩襲われた件といい、今回の件といい逃げるの速すぎるだろ!ちょっと目を離しただけで姿が見えないなんてやっぱり俺とあいつにはステータスの差を感じる次、会ったら説教してやる!こんなに心配かけやがって!。
俺は立ち止まって辺りを見渡して見た。
すると、何十本もの木が生えている森というには木が少ない森みたいな場所があった。辺りは見晴らしの良い草原だけでそこ以外に身を隠せるような場所はない。
「きっとあそこに居るな、なんだか俺の直感がそう言ってるな」
俺はその森みたいな場所に向かって走った。
その中に入ると思っていた以上に木々が生い茂っていて、遠くまで見えないしかも今は夕方近くで薄暗く一層視界が悪くなっていた。
「アレン!居るなら返事しろよ!」
俺は飛び出ている木の根っこで転ばないように慎重に歩きながらまた叫ぶが返事はやっぱり返ってこない。居ないのだろうか?もっと遠くに行ったのか?まさかもう街に居るとかないよな?だがその方が安心できて良い
そう考えていると女性のすすり泣く声が聞こえた。
アレンか?と思いながら俺はそのすすり泣く声の元へと向かっていく。辺りは薄暗く、こんな人気のない森で一人でいるととても不安だまるでホラー映画の主人公のようだ。頼むこの声が幽霊とかじゃなくてアレンであるようにと願った。
やがて、そのすすり泣く声の主が見えた。
その声の主は地面に着くぐらいの長い赤髪をしていて、地面にしゃがみ込んで顔を手で覆っていた。
「クロ…ごめんなさい…ごめんなさい…私は……私は……」
弱々しくて、悲しげなアレンのすすり泣く声が聞こえた。その後ろ姿は今にも消えてしまいそうなくらいに儚く見えた。なぜだろう?会ったら心配かけるなと少し叱ってやろうと思っていたのにその気は失せてしまった。
俺はしゃがみ込むアレンにそっと近付き静かな声で、
「どうした?もう終わりだみたいな面してよぉ顔を上げろよアレン」
まるでアレンに初めて話しかけられた時みたいに優しく言った。
すると、アレンは顔を上げて俺の顔を見て目を大きくさせて驚いたでも俺もアレンの泣き顔を見て驚いた。
いつも明るいアレンがボロボロと涙を溢して俺を見ていた。こいつも女なんだな俺が死んだと思って大泣きしてたんだな俺もアレンに心配かけたんだし叱るのはよそうと思っているとアレンは急に俺に飛び付いて、俺を抱き締めてきた。
俺は急な展開にとても焦っていた。
今までこんなに強く抱き締められる事なんて一度もなかったししかもその相手が俺とあまり年の変わらない少女なのだから俺の心臓はバクバクと音を立てながら鳴っていた。
「お、おいアレン?離してくれないか?ちょっと苦しいんだけど」
俺はアレンに抱き締めらたまま離すように言ったがアレンは止めずに俺の胸に顔を押し当ててまだ泣いていた。こんな状況で無理矢理引き離す程、俺は酷い奴ではないあと嫌な気分でもないのでアレンの気が済むまでこうしていることにした。
アレンの荒い息と温もりが伝わって俺のドキドキは止まらないありがとう神様!俺、今幸せです!
そんな事を考えているとアレンは俺を抱き締めるのを止めて、俺から離れるように少し後ろに下がった。
「今の忘れてくれる?」
「多分、無理だな永遠に俺の頭にセーブしたから忘れられないな」
我に返ったようにアレンはさっきまでの行為を後悔したようだった。アレンは忘れるようにと言ったが無理な話だ忘れられる訳がない
その言葉を聞いたアレンは右手を伸ばして、全力でビンタをしてきた。
「いってぇぇぇぇぇぇ!おい!何すんだよ!」
「心配かけたんだからこれぐらいさせてよ」
アレンの全力ビンタはバシッ!と良い音を立てて、森に響いた。酷い!俺悪くないのに抱きついてきたのはアレンなのに!さっきまでの良い雰囲気はどこに行ったのやら俺は叩かれた頬を手で押さえていた。
だが不思議と痛みは感じられない音だけ派手で全然痛くないななんだただの見掛け倒しだったのかと思って俺は笑っていた。
「えっ?もしかして僕にビンタされて喜んでるの?」
俺の笑顔を見て、アレンは軽蔑した表情を浮かべて俺をドン引きした。
「べ、別に違うからそんな顔するなよ!本当に違うから!」
俺はアレンの誤解を必死に解こうとするがアレンの表情は変わらない。違う!俺はマゾじゃない!違うんだ!
アレンは俺を置いて、黙って森を抜けようと歩いていった。
俺はアレンの後を追って着いていって、
「おい、待てよ!こっちだよ」
と言って逆方向に向かうアレンの肩を掴み、俺が来た道を指差した。相変わらずの方向音痴に呆れるを超えて尊敬すらしてしまう
「本当にお前はブレないよな」
「うるさい!」
俺はアレンに怒鳴られた。
アレンは顔を赤くして恥ずかしがっていた。
そして、俺とアレンは街に帰るため薄暗い夜道を歩く事になった。
俺はこの時すっかり忘れていた夜にはあいつが現れる事を……。
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