24.変化

 コンコン、と伺いをたてても返答はなく、仕方がないので「おじゃましまーす」と、いちよう一言かけてから、ドアを開ける。

 すると一気に中の冷気が押し寄せてきて、汗ばんだ体に、すっと染み渡る。

「さむっ」

 遮光カーテンを締め切って暗く散らかった部屋。見てまわすとベッドで丸まった固まりがひとつ。

 ガンガンフル稼働の冷房を切り、カーテンを開けて光が入ると固まりがもぞもぞ動き始め、解読不能な低い唸り声が聞こえた。

 海吏の実家。母親とはもう顔見知りですぐに家に上がらせてくれるけれど、まだ少し緊張する。

「まだ寝てるの?」

 ここ数日は、雲ひとつない晴天が続いていた。

 窓を開けると冷気が一斉に逃げていき、代わりに入ってきた熱せられた外気とが相殺しあって心地良い。

「今日は一緒に勉強しようって約束してたでしょ、海吏」

 奏多が卒業してから1年と少し、私たちは3年生になり、最後の夏休みを有意義に過ごしていた。

「あ~え~」

「えーじゃない!」

 まだ寝ぼけている彼がくるまっていたタオルケットを剥ぎ取ってやると、

「ぎゃっ」

 パンツ一丁の海吏に驚き、変な声が出た。

「天か…おはよ」

「ご、ごめん」

 奪ったタオルケットを返そうと近づくと、手を掴まれそのまま彼の上に倒れ込む。

「大胆だなー天は」

「違うよ!」

 慌てて離れようとしたけれど、

「奏多先輩の…」

「え?」

 思わずドキッとして、彼を見る。じんわりと胸が熱くなるのを感じた。

「奏多が、どうか、した?」

「夢見てた」

「そう」

 こんなに至近距離で隠そうとしても無理かもしれないけれど、顔にでないように平静を装う。

「また図書当番サボってたよ」

 そういえばよくサボって海吏が怒ってたな、と懐かしさが甦る。

「まだ、好きなの?」

「え?何、急に」

 何を言っているのか真意を確かめたくて急いで体を起こそうとしたけれど、いつの間にか体勢が反転し組み敷かれる形になっていた。名前を呼ぶつもりが、口を塞がれ声にならない。

「ちょ、やめ…て」

「何で?」

 強めに胸を掴まれたと思ったら、スカートの中に手が入ってくる。いつもより強引に。

「いや、海吏!」

「今更嫌がる必要ある?」

「え…ごめん」

「何でだよっ!」

 怒鳴り声と同時に彼はベッドから降り、

「先輩なら良いの?」

「え?どうして奏多がでてくるの」

 本人を目の前にしたわけじゃないのに…鼓動が早くてうるさい。

「何で、そんな顔…」

「海吏?」

 私はどんな顔をしていたんだろう?確かめようがないけれど、彼を不快にさせてしまったのなら申し訳ない。

「ごめんね」

「いや、俺こそ」

 海吏も謝って、タオルケットをかけてくれた。

 こういう関係には何度かなっていたけれど、いつもと雰囲気が違い、怖かった。

 最近彼は、物思いにふけってボーっとしていたり、普通の会話の中で突然スイッチが入って突っかかってくることが増えたような気がする。

「…大丈夫?」

 私の声が届いていないのか、彼は何も言わずに今度は優しく抱き締めてくれた。



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