23.再会?

 あれから、1年が過ぎた。


 傘に落ちる雨粒の、軽快な音が心地よい。

 今朝からの雨で暑さも和らぎ、公園の草木も喜んでいるように感じる。

 母に頼まれイヤイヤお使いに出てきたけれど、たまにはのんびりと歩いてみるのも悪くない。

 トマト缶をふたつ、エコバッグに入れぶらぶら揺らしながらゆっくり歩いていると、公園の向こうに見えたビニール傘をさした男性。見覚えのある背格好。

「奏多?」

 でも、そんなわけない。

 ここからでは距離があってはっきりとわからない。彼と別れてからずいぶん経っているけれど、あれだけ見慣れた彼の姿を見間違えるはずない。

 ビニール傘の彼は一瞬私を見たように感じたけれど、立ち止まることなく路地を曲がって行ってしまった。

 どうしても気になって後を追いかけてみても、もう彼の姿はどこにもなかった。走ったせいで靴はもちろんずぶ濡れで傘はあまり意味をなしていない。

「何やってんだろ私」

 長めの前髪、切れ長で鋭い色の瞳や薄く優しげな口元、細い顎、笑った時にちらっと見える白い歯。

 しゅ、として背が高く細いくせに意外と広い背中に私を抱き締めるときの力強さ。

 忘れられるはず…ない。


 新奈さんと悠生さんは共に近くの私立大学に進学したため、町でたまにすれ違うこともあった。

 美緒さんは今年の春に結婚し、この間霊園で偶然会った時は赤ちゃんができた、と話してくれた。

 奏多のことは県外の大学ということしか聞いてないし、あえて誰かに聞くこともなかった。

 知らなければ、考えることもしなくて良いから。

 それなのに――。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る