17.親友

「はぁ?抱き締められた?」

「朝希!声が大きいよ!」

「ごめん、ごめん。予想はしてたけど、こんなに早くとは!まぁ、私も煽ったけどね」

 部活終わり、暗くなり始めた道をとぼとぼ歩きながらやっと文化祭での出来事を切り出した。

「何か言いたそうだったけどこれか~」

「ごめん」

「で、何でそんなに落ち込んでるわけ?無理やりされたの?」

「違うの。私、奏多の事忘れてないのに、なんか嬉しかったっていうか…」

「いいじゃんそんなの」

「え?いいの?」

「だって忘れるなんてできる?記憶をなくしでもしない限り無理じゃん」

「そーだけどさ」

 もっと深刻な話で、もしかしたら軽蔑されるんじゃないかとも思っていたのに、あまりにあっけらかんと答えるから拍子抜けしてしまう。

「天ってさ、今どき純粋すぎてびっくりだわ。抱き締められたくらいでガタガタ言わないの。キスしたら付き合わなきゃいけないわけ?エッチしたら責任とって結婚?」

「そーいうわけじゃ…でも半端な気持ちじゃ海吏にも悪いし…許されないよね」

「誰に許されなきゃいけないの?」

「いや、わからないけど」

「好きになるならないも、忘れる忘れないも自分で決める事だし、誰かに指示されるものでもないでしょ?」

「朝希」

 思いがけない名言に、私は足を止めた。

 もしかしたら私はとんでもない大バカ者かもしれない。

「天、大丈夫?」

 遠くの空はまだオレンジを少し残しているけれど、ゆっくりと迫った闇と混ざり合い上品な紺青色を映し出す。

 数秒毎に移り変わる空は、朝希の言葉と共に染みてきて心を掻き乱す。

“許すとか許されないとか”

“忘れる忘れないとか”

“間違ってるとか間違ってないとか”

 私は奏多や新奈さん、美緒さんに偉そうな事を言っておいて、何もわかってなかった。

 決めるのは私じゃないのに…私の言葉でみんなを傷つけた。

「天?」

 確かめるように覗き込む朝希の顔が、すぐ脇の道路を走っていく車のヘッドライトで一瞬明るくなり、すぐにまたぼんやりとして夕闇と同化する。

「私って最低な女だ」

「うん」

「どうしてすぐ思った事口にしちゃうんだろ」

「確かに」

「普通少しは否定しない?」

「否定してほしくて言ったの?」

「違うけど」

「でしょ?でも私はそんな天が好きだよ。私たちまだまたま若いんだからたくさん迷って悩んでいいんじゃない?」

 またまた胸に突き刺さる言葉だった。嬉しくて思わず彼女に抱きつく。

「あーでも私はダーリンが一番だから!」

 と茶化す朝希。けれど彼女は、私が「ありがとう」とちゃんと言葉にして伝えようと顔をあげるまで、嫌がらずにそのままでいてくれた。

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