9.距離
あれから奏多とは会っていない。避けられているかのように、部活にも顔を出さないし、もちろん連絡もない。
やっぱり怒らせてしまったのかもしれない。
悶々とそんなことばかりが頭の中を行ったり来たり…何も手に付かなかった。
朝練を終えてトボトボトと階段を上っていると、
「おはよー」
何人かのクラスメイトに追い抜かれた。
考え事でいっぱいいっぱいのせいか、妙に足取りが重く、一段一段が遠く感じる。
1年生は3階。学年が上がるにつれて下の階に下がれるという仕組み。
手すりに捕まって一息ついたところで、また後ろからの足音。
「おはよう、天」
と、肩を軽く叩かれた。
「なんか、ずいぶん疲れてるな」
「げ、海吏!」
きっと一段飛ばしなんかで階段を軽々とかけ上がってきたんだろうけれど、微塵も感じさせない爽やかな声だった。
「げ、ってなんだよ!」
「あ、ごめん。おはよう。今日はいつもより遅いね」
思わず出てしまった声は本音だが、ばったり会いたくなかったというのがモロに出てしまっていた。
「寝坊した」
「そ、そっか」
海吏は私のペースに合わせて階段をゆっくり上ってくれた。
「そんな気まずくなるなよー。あれは、ちゃんと考えてからでいいから」
あれとは、数日前の突然の告白。答えはとっくに出ているけれどなかなかタイミングがつかめずそのままになっていた。
「うん」
ようやく3階までたどり着いたところで、屋上からの階段をガラの悪い男子が数人降りてきた。制服を着崩しているこなれた感じですぐに3年生だとわかる。
そしてその中に見知った顔を見つけた。
「奏多センパーイ!」
と海吏の方が先に彼に近寄る。
私も声を掛けたかったのに。
「おー海吏~」
「先輩いい加減図書当番やってくださいよ」
「おーそのうちなー」
と適当に返す奏多。
彼は私に気づいているはずなのに、一度もこちらを見ない。
「またなー」
言って仲間たちと軽やかに階段を降りていった彼。
声を掛けられるような雰囲気ではとてもなかった。
「あれ?天、先輩とケンカでもした?」
「まぁ、ね」
と答えるだけで精一杯。
新奈さんを好きな彼に、現実を突きつけ傷つけた。
「元気だせよ」
「ありがと。でも十分元気だよ!朝練疲れただけ」
「そう?なら、いいけど」
空元気にすらならなかったけれど、海吏はすべてわかっているかのように優しく微笑んでくれる。
海吏を好きになれたなら、きっと幸せなんだろうな、とふと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます