3.告白

「おーい、天?俺の話聞いてた?」

 奏多のことで一杯だった頭を一掃してから、笑顔で声の主を見ると、彼は眉を顰めて明らかにはぁ、っと肩を落とした。

「あ、ごめん海吏かいり

「おいー朝からボーッとして大丈夫?」

「ごめんってば。で、何だっけ?」

 いつもより早く朝練を終えて教室に行くと、バス時間の都合でいつも早く学校に着いてしまう海吏がひとりでいた。

 彼は小中学も一緒だったし、席が近いこともあって、比較的よく話すクラスメイトのひとりだった。

 だから、それ以上でも以下でもない存在だった。それなのに、

「だから、天のことが…」

 海吏はその先の言葉を濁して、私の隣の座席に腰掛けた。

「気になるっていうか」

 海吏の表情は、硬い。

 笑ってごまかしてしまいたかったのに、彼の瞳はどこまでも真摯。

 いつもならここでブッと噴き出すはずの彼が無言のままで、流れる空気を妙にかき乱す。

「好きなんだと思う」

「え?やだなぁ…そんな冗談」

 彼の気持ちは嬉しいけれど、昔からずっと友達だったし、それ以上にはなれない。

 だったらいっそのこと、なかったことにしてしまいたかった。

「こんな時に、冗談なんか言わないよ」

「海吏」

 ウソは吐きたくないけれど、彼の気持ちを拒むことで傷つけたくはない。

「でも私…」

 そんな時、

「おっはよぉ!」

 この空気を一変させるように、ガラリと教室のドアが開き、何人かのクラスメイトが楽しそうに入ってきた。

「おう、海吏いつも早ぇな」

「まぁな~」

 そして海吏は、何事もなかったかのように席を立って仲間の元へ行ってしまった。

 正直私は、ほっとしていたのかもれない。

 このまま忘れて欲しい。今までと何も変わりない関係でいられたなら、と。

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