2.出会い

 奏多に出会ったのは、私が中学3年の時。

 陸上大会をたまたま観に行った時のこと。短距離選手として活躍していた彼の走りに、強く惹かれた。いわゆる、一目惚れってやつ。けれどそれは愛ではなくて、憧れ。

 奏多佑李かなたゆうりは、2年連続全国2位の実力の持ち主だった。

 私は、なんとなく小学校で陸上部に入り、なんとなく中学でも陸上を続けていたけれど、いちよう短距離を得意としていた人間として、彼を尊敬し、その日から同じ高校に入学することが私の目標となった。

 僅かに足りていなかった偏差値をクリアし、ようやく夢を叶えたのに、奏多は既に陸上部の幽霊部員だった。

 ケガを理由に休部して以来、ずっとそのままらしい。グラウンドでよく顔を見ることはあっても、彼が走っている姿を見ることは一度もなかった。

  彼が笑うだけでどんなに落ち込んでいてもパッと心が晴れ上がる。遠くから見ていることができるだけで幸せだし、彼に会える部活の時間だけが楽しみで、苦手な授業も頑張れた。

 奏多の元カノ?(噂によると)である新奈にいな先輩は、憧れの大人の女性だった。

 すらりとした長身で、スカートから覗く美脚は女の私でもつい目を奪われてしまうほど。

 背中まで流れる茶髪は、常に艶やかでストレート。色白で清楚なお嬢様のようだが、運動神経も良く、成績も上位。目が合うだけで優しく微笑み返してくれるような、清潔感溢れる完璧美人。 陸上部のマネージャーで、奏多とは誰が見てもお似合いで、絵になる。

 他にも何人か噂のある子はいるようだけれど、それでもいいから、傍にいたいと思ってしまった。


 そんな想いからすべてが始まった――。




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