崇徳院

落語に「崇徳院」という噺がある。大家の若旦那が恋煩いをして寝込んでしまい出入りの職人が相手を探して回るというものだ。

崇徳院さんの歌「瀬を早み 岩にせかるる 滝川の 割れても末に 会わんとぞ思う」の上の句をヒントに探すため崇徳院という題がついた。

恋煩いというのは「時代遅れ」の言葉かと言えばそうでもないらしい。

「は~」と翔太は桜子と出会ってからため息が止まらない。



「ねぇねぇ」と山形が営業部にいる時に佐々木課長に呼ばれた。

「なんすか?いま仕事中なんすよ」

「僕も仕事中だよ。それよりさ。田代君のことなんだけどなんかますます重症になっちゃって、どうしたらいいんだろう?」

「僕はあくまで営業であって田代のマネージャーじゃないんですけど」

「そんなこと言わないでさ、いつも営業のわがままきいてるじゃないの?」

「そりゃあそうですけど、、、」

「ちょっとだけ見に来てよ。見てもらうだけでいいから」

「わかりました、ちょっとだけなら」


そして山形は今様子を見に来ているのだ。

「あれは。。。。」

「な、なんなの?」

「拾ったものでも食べたんじゃないんですか?」

「田代君にそんな癖があるの?」

「あるわけないでしょ?」

「じゃあなんなの?」

「恋煩い」

「ふ、、古い言葉だね。最先端のインターネット事業を行ってる会社なのにそんな古風なの?」

「あいつは昔から恋するとそうなりますよ。前の彼女の時もそうだったらしいです」

「じゃあ、恋してるんだ」

「しかも相手はかなりの美人とみました」

「へぇ~」

「あいつ美人にもてるんですよ、なんでだか」

「ほうほう、それで」


「じゃあこれから先は有償になりますけどいいですか?」

「なんで僕からお金とるの?」

「では私は。。。」

立ち去ろうとする山形を佐々木は引き留める。

「諭吉一枚で手を打ちましょう」

「わかったよ、ほれ」と諭吉は山形の財布に移動した。

「あいつの片思いの相手は弁当屋さんのバイトの高校生ですよ」

「え?」

「今朝おふくろから聞きました」

「うちの界隈は噂は一晩で町中に伝わってますからね」

「すごいね、君の町。ひょっとしてネット不要じゃないのかな?」

「まあ、ネットなんていりませんね。」

「でも高校生って犯罪じゃないの?」

山形は課長に向かって鋭い眼光でみた。

「課長は田代の何にも知らないんですね。田代は前の彼女と手をつなぐのに2年掛ったんですよ。その日は町中で赤飯炊いてたんですから」

「ますますすごいね、君の町は。。」

「いや、それだけ純粋なやつなんですから。」

「で、どうすればいいの?」

「え?」

「対処方法は?」

「それは。。。」

「それは、」課長は息をのむ。

「お医者様でも草津の湯でも恋の病はなおせない。っていいますから。ほっておいたほうがいいです」

「それじゃあ、よくならないよ」

「では、」山形は風のごとく立ち去った。

「あ、一万円」課長は途方に暮れた。


瀬を早み 岩にせかるる 滝川の 割れても末に 会わんとぞ思う



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「愛妻家」になる前に 若狭屋 真夏(九代目) @wakasaya

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