出会い

神無月には全国の神様が出雲大社に集まって大会議が行われる。

日本中の神様が集まって何を決めるかと言えば国の方針とか外交問題とかいう大きなことを決めるのではない。

「誰と誰をカップルにするか」ということを決めるのである。

まあ神様もお神酒をたっぷり飲んで決めるのだから時々「不釣り合い」なカップルが生まれてしまうのも仕方のないことである。

まあ不釣り合いとは他人が思うことであって人間的には素晴らしい人ってことも多々あるからそれを見抜いてカップルになったのだから先見の明があったってことだろう。所詮人の幸せなどというものは他人にはわからないものである。

話を戻そう。


田代翔太は都内の大学を卒業して関西に本社を置くインターネット関連会社に就職した。そう今の会社である。

この時は翔太はまだ東京にいる。しかもこの時高校時代から付き合っていた彼女に振られていたのだ。

今でこそ「働き方改革」などといって労働時間を減らす運動が始まっているが当時はまだまだ働いてなんぼの時代である。

インターネット業界もまだまだ黎明期であり仕事は山ほどあった。

翔太もまだ働き始めて長くはなく今ほどはスキルがなかった。

したがって夜遅くなるのは毎日のようだった。

当然彼女と会う時間がなくなり彼女は彼女で仕事が楽しくなりすれ違っていった。


「田代君最近疲れてない?」佐々木課長(現常務)はこの時から翔太の上司である。ちなみに毛もこのころにはまだある。

「あー。死にたい」と翔太は返した

「死んじゃだめだよ。田代君はこれからの人間なんだから」

「だって振られたんだもん」

「僕だって10万回は振られてるんだから大丈夫だよ」

「課長と同じにしないでください」

「ひ、ひどいね、君」

「死にませんよ。あ、でも今死んだら過労死ってことで労災でるかな?」

「怖いよ最近君」

「死ぬほど眠いってことですよ」

もう上司との関係が出来上がっているようである。


それからキーボードを2時間たたいて何とか今日のノルマをクリアした。

「おつかれさまです」といってフラフラで退社する。

そこに同期の山形が通りかかった。

「あ、営業の山形君ちょっといい?」

「なんですか?」

「君田代君と同期だよね?田代君ってどんな子なの?」

「唐突ですね。。。」

「今彼の扱いで悩んでるんだよ」

「うーん」と山形は渋い顔をする。

「やればできる子ですね」

「なにその小学生みたいな表現」

「なんでも大学の時はインターンで訪れたマイクロソフトのビルゲイツを知らないで邪魔者扱いしてビルから一目置かれたやつですよ」

「び、ビルゲイツ???」

「ええ、ビルっす」

「ビルって呼んでるの?」

「たまに「びるっち」とか、、、まあ内輪での話ですけど。。」

「どんな内輪???」

「でもあいつ振られちゃったからなぁ」

「ああ、高校から付き合ってた子に」

「それ聞いたけど、、、」

「なんでも芸能界に入るために別れたとか。。。」

「君達なんでこんな会社にいるの???ハイソサエティーじゃないの?」

「違いますよ。ハイソな人間がこんなしょうもない会社にいませんよ」

「こんな会社でごめんね」

「あーすいません」山形も佐々木課長には図々しい態度をとるようだ。

「わかった、要するに恋人を見つければいいわけだ。田代君もいい年だしお見合いでもさせればまた復活するんだ」

「ありがとう山形君」

「はーい」と山形は帰宅した。

佐々木課長は携帯を手にするとどこかに電話した。

「あ、千里さん?なんで今朝は「愛してる」って言ってくれなかったの?愛してるよ」相手は奥さんの千里である。どうやらここにも愛妻家がいたようだ。

「あ、そうじゃなくてうちの田代くんがさ、大失恋しちゃってさ、そうそうあの子。千里さんの知り合いの娘さんでいい子いないかな?

え?肉屋の薫ちゃん?駄目だよあの子、だって今離婚協議中でしょ?え?旦那さんが詫び入れて元のさやに納まった?ますますだめでしょ?」


こうして佐々木課長夫婦がお見合い話をしているとき翔太は行きつけの弁当屋にいた。

「いらっしゃいませ」みずみずしい女性の声が翔太を迎えた。

「あ。あの唐揚げ弁当を一つ。。」と翔太は緊張している。

「なんだ翔ちゃんじゃねぇか?」奥からこの店の店主の声がする。

「大将だれ?この子」翔太の目がきょとんとしてる。

「ああ、今日から一週間働いてもらうんだよ。うちのかあちゃんが孫の面倒見に北海道まで行っててさ」

「おばさんの話はいいよ。この子の名前は?」

「鈴木桜子です、よろしくお願いします」彼女はそういって頭を下げた。

「あ、は、はい」

「まだ高校生なんだから手を出すんじゃねぇぞ」といって大将は弁当を作り始めた。

そう彼女こそ田代翔太の伴侶となる鈴木桜子なのである。



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