「愛妻家」になる前に

若狭屋 真夏(九代目)

プロローグ アルバム

「ただいま」と田代翔太はそっと玄関を開ける。今日は仕事が立て込んでいて帰りが深夜になってしまった。もちろんタクシーで帰宅して明日は休みだ。

部長とやらになると給料も増えるが仕事量も増える。

音を出さないように忍者のように行動することにも慣れてきた。

リビングには夕飯が用意されていて「今日もお仕事おつかれさまです。おかずは温めてね」と桜子さんの手紙が添えてあった。

なんだかんだで結婚して10年がたった。

冷蔵庫からビールを出して「プシッ」と開ける。

それをなみなみとグラスに注ぎ夕飯と一緒に飲み始める。


「そういえばおふくろがなんか送ってきたみたいだな」と思い出して近くにあった段ボール箱を開ける。

中には孫のひかりのおもちゃがたくさん入っていて手紙も孫あてに書かれている。

下のほうに重そうなものがあったのでおもちゃを除いて手に取ってみると写真が入っていた。

写真はまだ結婚する前に桜子さんといっしょに撮ったものだ。

旅行やデートのたびに写真を撮った。

「若いなーおれ、桜子さんは全然変わらないけど」

「それにしても桜子さんは天使だな。それに今のほうが若々しいな」

「あ、これ横浜の赤レンガ倉庫でデートしたときのだ」

もう見始めるときりがない。

いろんな思い出がよみがえってくる。


さてここで作者が登場する。時計の針を巻き戻してみようと思う。

二人の出会いとやらを、田代翔太が「愛妻家」になる前の姿を。

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