第75話 彰人、サワキと対峙する

 こんな奴、野蛮3人の中にいたっけ?


 金ピカ鎧の勇者の横顔は、高校生にしては随分老けて見える―― どう見ても20代後半~30代くらいに見えるが、俺は野蛮共の顔も名前も殆ど記憶に留めていない。

 きっと老け顔の奴もいたに違いない…… うん! きっといた!


 俺は、ソイツの5m手前まで近付くと、隠していた気配を解放した。


「だ、誰だ!? キサマ、何者だ!?」


 漸く俺のことに気付いたようだ。


「お前、俺が誰だか分かるな?」


 俺はそう聞いた。野蛮3人の内の1人なら当然俺のことは覚えていると思っていたが


「ああ…… キサマは俺の敵だ!」


 って答えやがった…… コイツは記憶操作でもされたのか、俺の事を忘れているようだ…… まあ、俺も覚えてないからお互い様だが。


 しかも、コイツの目には明らかに殺気が宿っている。俺を攻撃する気満々なのが分かる。


 俺がこれだけフレンドリーな態度を取っているというのに、その不躾な態度…… これでは、話し合いをするのは難しいか? やはり、軽く凹ってから話し合うのが良さそうだ。


「何者か知らんが、俺の前に現れたからには死んでもらうぞ!」


 野蛮?号はそう言うと、いきなり腰の剣を抜いて斬り掛かってきた!


 勇者とか言われてる割には、その動きは素人同然―― 力任せに剣を振るだけで、速さはソコソコでも剣筋に鋭さはなく、当然だが俺に当たるわけはない。


「何!? グハッ!?」


 俺は剣を躱すと同時に野蛮の腕を掴むと、一瞬で投げを打った。


 完全なド素人だな。受身も取れず、まともに床に叩きつけられやがった…… 鎧の力で身体能力は上がってるらしいが、戦闘技術までは身に着けていないようで、所詮は力が強いだけの雑魚でしかない。


 鎧から与えられた力を自分の力と勘違いして、粋がって『ヒャッハー』してやがったのかと思うと、呆れを通り越して可哀想になってくる。

 まさにピエロだな…… とか考えていると――


 ピカッ!!


 鎧が輝きだした。


 ベトラクーテの外道勇者共の時と同じだ。

 また、鎧のパワーアップってやつか!? 鎧に流れ込むエネルギーの上昇を感じる。


「やってくれたな…… だが、これで俺はレベルアップした! 次はキサマが地を這う番だ!」


 野蛮は立ち上がると同時に、再び俺に斬り掛かってくる。

 スピードはさっきよりも更に上がっている―― が、スピードが上がっただけじゃ結果は同じだ。


 俺はさっきと全く同じ力加減で、同じように投げを打って野蛮を床に叩きつけた。


 今度はダメージがなかったのか、野蛮はすぐさま起き上がる。


 俺は起き上がった野蛮をすぐに投げる。


 野蛮は再び起き上がる。


 投げる―― 起き上がる―― 投げる―― 起き上がる……


 それを10回ばかり繰り返したところで、


「おげぇ!?」


 汚ねえな…… 野蛮は、フラフラになりながらゲロを吐きやがった。


「ば、バカな…… 俺の攻撃が全く当たらないなんて……」


 俺としては、寧ろその攻撃が当たると考えた根拠を知りたいくらいだ。


「どうやら俺の剣の軌道が読まれているようだな。ならば―― 魔法で仕留めるまで!」


 野蛮は、俺から距離を取るように後ろにジャンプ。そしてすぐさま――


「サンダーアロー!!」


 無数の雷の矢が、俺目掛けて飛んでくる。


 しかし、俺は棍を取り出すと、高速回転させて雷の矢を全て払いのけた。


「ば、バカな…… 俺の魔法まで防がれただと…… そんな筈がない…… 俺は勇者だ。最強なんだ……」


 野蛮は俺に攻撃を防がれて、混乱しているようだ。


「そうか! キサマ―― 魔族だな!? 人間の姿で俺を騙したんだな!?」


 騙す? 俺、何か騙すようなことをしたか? そもそも、俺がお前を騙す必要があるか?

 俺の方が、野蛮の意味不明の言動に混乱しそうになる。


「人間の姿に惑わされて、俺は無意識に攻撃に手心を加えてしまった……

 そうだ! そうでなければ、俺の攻撃が当たらない理由が思い付かない!」


 どうやら野蛮は、よくわからん理屈を捏ねて、自分を正当化しようとする奴―― 人として、最も嫌われるタイプのようだ。


「魔族め、正体を現せ!」


 思い込みの激しい態度にムカついてきたが、コイツは勇者教団の洗脳のせいで、記憶をなくし、こんな風になったのかもしれない。


 ここは我慢して、野蛮の記憶を取り戻させる試みをすることにした。


「俺は魔族じゃないぞ。その証拠に、俺はお前がニホン人であることも分かっている」


 俺がそう言うと、野蛮は心底驚いた顔をする。


「キサマ、何故俺がニホン人だと知っている!?」


 自分がニホン人であることは覚えてるようだな。もっといろいろ話をすれば、俺の事も思い出すかもしれない。


「もしや!? キサマ、相手の心を読む能力を持っているな!? そうか! それが俺の攻撃が躱された理由か!」


 うーん…… コイツの思い込みの激しさは一筋縄ではいかないようだ。


「俺を見れば分かるだろ? 俺もお前と同じニホン人だ」


「騙されるか! そんなことを言って、俺を油断させようとしても無駄だ!」


 これでも、まだ俺のことを思い出さないとは…… 相当、強力な記憶操作をされているようだな。


「お前と一緒にここへ来た4人はどうしている?」


「フッ。俺から仲間の情報を聞き出そうとしても無駄だ。敵に話すわけがないだろ!」


 お前の設定では、俺は人の心が読めるんだろ? だったら、隠すだけ無駄だから、さっさと話せよ!

 自分で考えた設定さえ忘れるとは…… コイツが俺を覚えてないのは、単純に記憶力が無いせいか?


「魔族は勇者を舐めているようだな。まさか、1人でココを取り戻しに来るとは思わなかったぞ。勇者に1対1で戦いを挑むその勇気だけは褒めてやろう。だが、それが如何に無謀で愚かな行いであるか……」


 ウザい! 思いっきりウザすぎる!

 俺は途中から、野蛮の会話を聞き流したが、俺のイライラはどんどん溜まってきて、怒りが湧いてくる。


 本気でブチ殺したくなってきたぞ……


「さっきは、俺の心を読んで攻撃を躱したようだが、次の攻撃はどう足掻いても防ぐことは不可能―― 俺の最強魔法で、この周辺一帯を吹き飛ばしてやる!」


 おいおい。今度は広範囲攻撃をするつもりか? それって、周りが迷惑を被ることになるということがわからないのか!?


 ふう…… ここまで自分勝手な考えしかできないとは……

 ベトラクーテの外道共も、召喚された時から人格がおかしかったらしいし、あの『転移魔法陣』自体に洗脳効果があるのかもな。

 そうなると、もうコイツの洗脳を解くのは不可能な気がしてきた。あの強力な転移魔法陣を造った『規格外の魔術師』の洗脳では、俺には解ける気がしない。


 とはいえ、コイツに良心の欠片でも残っていれば、俺の完璧な説得によって改心するかもしれない―― 俺はその僅かな可能性に賭けることにした。


「これまで、魔族と人族の間に大きな争いはなかったと聞いている。つまり人族が仕掛けなければ、魔族と戦争になることはなかった筈だ。態々戦争を引き起こした、勇者教団の行いは間違っていると思わないのか!?」


 どう考えても、魔族を無差別攻撃した勇者教団が間違っている―― という結論になる筈だ。


「くだらんな。キサマら魔族が、人族にとってどれ程危険だかわかるか!? 魔族共は戦闘好きの低能で、しかも人族を見下している―― そんな奴らなら、いつ人族の町を襲うか分かったものではない! 人族は、常に魔族に恐怖を感じながら生活していたのだ。ならば、先にこちらから仕掛けるのは正しい判断だ!」


 何て奴だ!? 自分達の過ちを完全に正当化しやがるとは……


 これ以上の話し合いは無駄か……

 やはり魔族と人族の戦争を止めるには、勇者教団を潰すしかなさそうだ。


 だが、その前に―― 元クラスメートのよしみだ。これ以上の悪行を繰り返す前に、お前を止める。

 それがお前の為なんだからな!

 悪いのはお前だから、もし死んでも恨むなよ!


 ん? その考え方―― 野蛮と同じ?

 否、そんなことはない。俺は洗脳されてないし、そもそも俺は話し合いもしたしな。

 うん! 間違いなく俺は正しい!


「魔族は悪だ! 勇者の名において、キサマを滅ぼす!」


 おっ!? 鎧のエネルギーが凝縮されていくぞ!?

 そのエネルギーを一気に放出して、広範囲を吹き飛ばすつもりか!?


 サンダーブラスト!


 野蛮の叫び声と同時に、野蛮を中心に爆発的なエネルギーが全方位へと広がっていく!


 俺達がいた塔は、エネルギーの塊に押し潰されて消滅―― 町の一部も吹き飛ばされ、結構な被害が出たようだ。


 俺は、足元が消滅したせいで落下―― 朦々と立ち込める煙の中で、佇む羽目になった。

 俺が煙にのまれて埃まみれになったというのに、野蛮は空中に浮いていやがる……

 許せん! 絶対に凹る! 記憶をなくすほど凹る!


 野蛮がゆっくりと降下してきた。

 俺を仕留めたと思っているのか、ニタニタ気色悪い笑みを浮かべている。


 そして、やっと俺の射程内に入ってきた!

 俺は煙の中から大ジャンプ!


 油断していた野蛮の無防備な頭に――


 ゴン!!

 気持ちいい程、キレイに棍の一撃が入ったぜ!


 ドーン!


 よーし!

 地面に墜落した野蛮を見下ろしながら、俺は上空でガッツポーズを決める。


 でも、ちょっと力を入れ過ぎたか? 本当に殺してしまったかも……


 ところが―― そのとき、またしても野蛮の鎧が輝いた!?


「まさか、あの魔法を受けて死ななかったとはな……」


 倒したと思った野蛮が、起き上がっている。


 おいおい…… また『パワーアップ』とか言うつもりか? 鎧に流れるエネルギーが、また増えているぞ!?


 野蛮が何かブツブツしゃべっているようだ。目が完全に逝ってるぞ…… 嫌な予感が……


「キサマは見掛けに依らず、かなりの大物だったようだが、勇者の力を甘く見たな。今度こそ―― 死ね!」


 ヤバい!? 野蛮が、俺目掛けて魔法を撃ってきた!

 しかも―― さっきより、威力が格段に上がっている!?


 このヤロー! お前こそ―― 俺を甘く見るな!


 バシッ!


 俺は棍を横に薙ぎ払って、何とか魔法を弾き飛ばした!


 ドーン!


 今のは、かなりヤバかった…… ラミオンのビームの50%近い威力があった。


「驚いたな…… まさか、今の魔法すら防ぐとは…… だが、それでもキサマには勝ち目はない」


 確かに、最初と比べて信じられないほどパワーアップしているが、それでも俺の方がまだ上だと思う。

 それなのに、嫌な予感が止まらないのは何故だ?


「どうやらキサマは、魔族の将軍級のようだな。キサマの強さは認めてやる。だが、この鎧がある限り、俺達は無敵だ!」


 勝ち誇った野蛮の顔が憎たらしい。


「無敵だと? どういうことだ?」


「教えてやる。そして絶望しろ! この鎧には、受けた攻撃以上に勇者をレベルアップする効果があるのだ!」


 受けた攻撃以上にレベルアップ?

 つまり、俺が強力なダメージを与えたら、コイツはそれ以上に強くなる―― ってことか!?

 おいおい…… それって『反則』じゃないか?


「フフフ、絶望しただろ。諦めて大人しく殺された方が、苦しまなくて済むぞ」


 それにしても、自分の秘密をあっさり教えるなんて、俺を舐めてるのか、コイツが大バカなのか…… 兎に角、こんなヤツに負けるのだけはごめんだ!


 そのとき――


 ラミオンキーック!!


 えっ?


 その声が聞こえたと思ったら、目の前にいた野蛮が、遥か彼方へ吹っ飛んでいった……

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