第74話 勇者サワキ
俺が何故『ジャメリオ』に来ることになったのか?
それは昨日のこと――
冬華達5人の転移先の手掛かりがないまま、俺は1人実家のじいちゃんの部屋で寛いでいると、不意に俺のスマホがブルブルと震え出した。
LINEの通知が届いていた……
「5人の消えた部屋で、魔力反応が見つかった。解析には4~5日かかりそうだ」
と書かれていた。俺は当然『既読スルー』したわけだが、その時俺は『ベトラクーテでのキュウちんとの会話』を思い出した!
ベトラクーテはメル友からのメールを見て、救世主の要請を行うことを決めた、という話だった。そして、そのメールには、『勇者信仰を掲げる教団の存在』が書かれていたらしい。
その話を思い出した瞬間、勘のいい俺は『ピン』ときたのだ!
そのベトラクーテのメル友の世界で、その勇者教団が『冬華達5人を召喚したに違いない』と!
そこからの俺の行動は早かった。
救世主特権を使ってベトラクーテに向かい、そしてキュウちんに頼んで、ベトラクーテのメル友の世界の文様を教えてもらった。
勿論ラミオンも一緒にいたから、今度はラミオンの特権を使って、そのメル友の世界である『ジャメリオ』にやって来たのだ!
そして、俺は既に確信している。
冬華達5人が外道行為を行って、この世界でいきがっていることを!
早く奴らに会って、懲らしめなければならない。とはいえ、できることなら『元の世界へ連れ帰る』つもりでいるのだが……
ベトラクーテの外道共みたいに、もう引き返せない程、精神が崩壊していないことを願うばかりだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お二方、そろそろガイゼロンが見える頃です」
やることもないので、俺が昼寝していたら、女魔族Aがちょっと緊張気味に声を掛けてきた。
今のガイゼロンは勇者共の攻撃で陥落し、人族の拠点となっている。そんなところに飛竜が近付けば―― 言うまでもなく、攻撃されるだけだよな。
そして案の定、雲1つ無かった空から、いきなり雷鳴が響き渡った。
ガガガゴーン!!
無数の雷が、俺達の乗った飛竜に降り注いだ!
だが、俺達は
「マスター、ラミオンの新しい技【ラミオンバリア】だ。格闘ゲームからパクった」
うん、凄いね。格闘ゲームの再現が簡単にできるなんて。でも
「あの程度の攻撃なら、くらっても大したことなかっただろ?」
見た目と音は派手だが、威力は―― 正直、あの【
「マスターは分かっていない。あの程度の攻撃でも飛竜は死にかける筈だ」
あの程度の雷で? と一瞬思ったが、そういえば、飛行タイプは雷に弱かったな。
「今のを食らったら危なかったですね」
女魔族Aも雷に弱いのか? ということは、コイツも飛行タイプ?
否、コイツは顔色が青いし水タイプだな。
《そういえば、他の飛竜が見当たらないな》
「他の連中は、魔王様に報告に戻りました」
魔王! やっぱりこの世界にも魔王がいるのか!
ガガガゴーン!!
《魔王って女性か?》
俺の実家に居候している『
「いいえ。魔王様は男性です」
男だと!? ちっ、期待させやがって…… 会う必要はなさそうだな。
ガガガゴーン!!
それにしても、さっきから雷がうるさい。
「ラミオン。この鬱陶しい雷を出してる奴が、どこにいるかわからないか?」
「マスター、町の中央に塔が見えるだろ」
ここから800mくらい離れた所に、塔が立っている。高さは50mくらい有りそうだ。
「その塔の最上階に、金色の鎧を着た男がいる」
金色の鎧! つまり、この雷は勇者の仕業ということか! って、勇者の攻撃―― こんなに貧弱なのか?
「あの雷魔法のせいで、我等は未だガイゼロンに近づくことさえできずにいるのです」
そうか。この世界の魔族は水タイプばかりで、雷と相性が悪いんだな…… って、おかしいぞ?
確か魔族の中に『10万ボルト』を使っていた奴がいた筈だ。雷タイプなら雷と互角に渡り合えそうだが、どういうことだ?
《お前らの中に雷魔法を使える奴がいただろ?》
「はい、私が使えます。しかし、残念ながら私の雷魔法は、敵の勇者程の威力がなく、敵の攻撃を防ぐことができないのです……」
えっ? この女魔族Aは水タイプなのに雷魔法を使うのか?
どうやら魔族の連中は、属性を理解せずに魔法を覚えているようだな。そのせいで、弱い威力の魔法しか使えないということか。
《魔族の中には、土タイプや岩タイプはいないのか?》
「土タイプに岩タイプ? それは何ですか?」
なに!? そんなことも知らないのか?
こんな基本的なことも知らないようでは、絶対にポ⚫モンをクリアできないだろ!
ガガガゴーン!!
これは基本を1から教える必要があるな。
《よく覚えておけよ。魔法にはタイプというものがあって、それぞれタイプ毎に相性があるんだ。戦闘ではタイプ同士の相性を考えなくてはいけないぞ。
因みに、飛行タイプと水タイプは雷魔法とは相性最悪だから、絶対に戦うなよ》
「私には、その『タイプ』というものがよくわからないのですが?
それでは、お二人は何タイプになるのですか?」
折角俺が分かり易く教えてやったと言うのに、女魔族Aは全く理解できていないようだ。ここは、俺達を例に挙げて理解させるしかないな。
ガガガゴーン!!
俺は『格闘タイプ』かな? 否、格闘タイプなら
それじゃあラミオンはどうだ?
『鋼タイプ』になるのか?
否、ラミオンは鋼なんて生易しいものではない。何せオリハルコン製だからな…… 苦手なタイプも無さそうだし、ラミオンも『該当なし』だ。
何てこった! 2人共『該当なし』では、例えにならないじゃないか!?
《タイプなんて気にするな》
「えっ? 今『タイプ同士の相性を考えて戦え』と仰られていましたが……」
《そういう細かいことを気にしても、場合によっては全く役に立たないから、気にしなくて良い》
ガガガゴーン!!
「マスターの言う通りだ。気にすることはない。特にマスターの言葉なんて、行き当たりばったりで適当に言ってるだけだから、真面目に聞くだけ無駄だ」
ラミオンの言葉は俺にグサリときたが、今回に関しては言い返せない。
元を質せば悪いのは全部『塔にいる勇者』だ!
勇者が雷魔法なんか使ったのが悪いんだ!
勇者を凹って鬱憤を晴らすしかない!
《中央の塔に向かって進んでくれ》
塔にいる勇者は男らしいから、きっと『野蛮3人』の内の1人だ。凹っても問題ない。
ガガガゴーン!!
「済みません。飛竜がこの雷を怖れて、これ以上は近付けません……」
使えん飛竜だな…… 仕方ない。
「ラミオン。第2形体に変身して、あの塔まで飛んでくれないか」
「マスター、ラミオンがここから離れると、コイツらは雷であっさりとやられるぞ」
そうだった…… コイツら足手まといだが、殺られるのをわかりながら放置するのも気が引ける。
どうする? 一旦ここを離れるか? 否――
《俺がここで飛竜を降りるから、お前は一旦町から離れておけ》
「えっ!? 1人で勇者と戦うおつもりなのですか?」
《そうだ》
「分かりました。では飛竜を地上に着陸させますので」
《必要ない》
地上まで150mくらいか?
まあ問題ない高さだ。
俺は飛竜から飛び下りることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
飛竜が離れていったか……
それにしても、俺の魔法で倒し損ねるとは、あの飛竜はいったい?
呟いたのは、塔の最上階にいた黄金の鎧を着た男だ。
「勇者【サワキ】様! すぐにあの飛竜を追い掛けて、討ち取りましょうか?」
黄金鎧の男に声を掛けたのは、重そうな鎧を着た大柄な男。
「ブラガ将軍、逃げた奴は放っておけ。それよりも、あの飛竜から何か落ちたように見えなかったか? 魔族共の罠かもしれんから、探索に行ってくれ」
「畏まりました。直ちに向かいます」
勇者の名は『
彼はこれまで、真っ当な人生を歩んでこなかった。
ニホンで犯罪を犯し、海外へ逃亡。逃亡生活も5年となり、今はA国のスラム街に身を潜め、そこで知り合った連中と、やはり犯罪行為に手を染めていた。
このまま異国でチンピラのまま朽ち果てるのか……
沢木はそう思いながら日々を過ごしていた。
ところが、ある日――
いつものように、アジトで4人の仲間達と次の犯罪計画を立てていたとき、突然魔法陣が出現したのだ。
そして気付いたときには、4人の仲間と共に黄金の鎧を着せられ、怪しげな連中に囲まれていた。
この訳の分からない連中は、自分達のことを勇者と呼び、衣食住を提供してくれた。
そして、この金ピカ鎧―― どういう理屈か分からないが、これを着ているだけで、魔法のような不思議な力が使え、身体能力が格段にアップするのだ。
何故こんな場所に自分達が来たんだ?
沢木は状況を全く理解できなかったが、これを『人生をやり直す
沢木以外の4人は、勇者としての活動に興味を持っていないが、沢木だけは違った。彼はすぐにこの世界での生活が楽しくなってきたのだ。
今まで人に誉められることがなかった彼が、
「流石勇者様! 素晴らしい活躍でした!」
と何かする度に人々から称賛される―― そのことに、沢木は喜びを感じるようになっていた。
いつしか彼は、本気で『この世界の人々のために魔族を滅ぼそう』と考えるようになっていたのだ。
魔族の町である『ガイゼロン』への遠征には、5人の勇者全員が参加した。
しかし、他の4人はほとんどやる気がなく、ほぼ沢木1人の活躍でガイゼロンを制圧したのだった。
そして現在は、ガイゼロンに滞在している勇者は沢木だけ―― 他の勇者達は、1度教団本部へと戻っていったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
兵隊が近付いてくる。
数は―― 50人程か。
「この辺りに、魔族共が何かを落としていったそうだ。手分けして探すのだ!」
随分大柄な男―― 動き辛そうな鎧を着ている。コイツがこの連中の隊長みたいだな。
それにしても、揃いも揃って全員『モブキャラ』だ。隊長のオッサン以外は、何の特徴もない安っぽい装備に身を包み、すぐに折れてしまいそうな槍を持っている。
ちょっと暴れて気分を高めてから、塔にいる勇者の所に行こう、と思っていたが、見るからに弱そうなモブを痛めつけるのが、可哀想な気がしてきた。
どうせ、教団に騙されているだけの連中だ。無視して町に入ろう。
俺は気配を殺して、町の中に入った。
……
町の中は、随分殺風景だな。
瓦礫の山があちこちに見られる。
本当にここが、人族の『拠点』なのか?
町の中にいる兵士共も、やっぱり安っぽい装備のモブキャラばかり……
よくこんな弱そうな連中ばかりで、魔族にケンカを売ったもんだ。
まあ、それだけ『勇者の力』に自信があるということか……
さっきの雷魔法を見る限り、そこまで期待できる強さとは思えないけどな。
否、あれは様子見程度の攻撃だったのかも知れないな。何せ、魔族共は水タイプばかりのようだし。
それにしても―― ここまで俺の気配が、全く悟られない、というのもどうかと思う。
曲がりなりにも『拠点』だろ? それがこんなにザルでいいのか?
結局、全く苦労なしで塔の入口まで来てしまったぞ。
さて、これからどうしよう。
このまま中に入っても大丈夫なのか?
もしかすると罠が仕掛けてある、とか?
少年漫画的展開で各階に中ボスがいる、とか?
そんなことを考えながら、俺は塔の中に入っていく。
そして――
おい!? 何で、全く盛り上がりもなく、最上階まで来れるんだよ!?
俺の目には、腕を組みながら黄昏た表情で遠くの景色を眺めている『金ピカ鎧の男』の姿が映っていた。
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