第65話 彰人、魂の救済を誓う

 登場した16人のザコ戦闘員。

 安っぽい鎧兜を身に付けて、如何にも大量生産のなまくらと思われる槍や剣を手に持った連中が、俺の周りを取り囲む。あまりに特徴がなさ過ぎて、見分けも付かないほどのモブキャラ達だ。


 だが『特徴がない』という点では、アフロ以外の3人の外道共も同レベルだ。

 3人共金髪で見た目の特徴も薄くキャラが弱い。


 せめて髭を伸ばすとか三つ編みにするとか眉を剃るとか、2号を見習って個性を出せよ! 何で3人ともオールバックなんだよ!

 敢えて特徴を探したら、1号は顎が四角く角ばっている。3号はへのじ口。4号はややイケメン…… 地味すぎる。その金ピカ鎧がなければ、モブとの差別化も難しい程だ。


 それに、モブ連中が弱そうなのは当然だが、外道共も俺にはそれほど強そうには見えない。


 あの金ピカ鎧が曲者らしいが……

 あの鎧が照明器具として高性能なことは、深夜にもかかわらずこれだけ辺りを明るく照らしていることで分かるが、それ以外の特性は全くの謎だ。


 ラミオンが言うには、外道共は鎧に付いているアンテナから受け取るエネルギーによって強化されているらしいが、いったいどれ程のものなんだ?


 俺の予想では『楽勝』という気がしているのだが、前救世主が1対1で負けているだけに慎重に実力を見極めないといけない。


「勇者様! このような人族の裏切り者は我らが成敗致します。どうかこの獲物は我らにお任せください!」


 モブ連中の隊長っぽい男が外道1号に話したそのセリフは、完璧な『かませ』のテンプレだった。


 どうやら外道共の前に、モブ連中から片付けないといけないようだな。

 数が多いザコの相手は面倒だが、上手く乱戦に持ち込めばドサクサで外道共を攻撃できるかもしれない。

 俺はそんな事を考えていたのだが、


「おい、キサマら! 俺の獲物を横取りしようとは、いい度胸だな」


 外道1号はモブ隊長を睨み付けて


「俺の邪魔をする奴は―― 全員まとめて死んじまえ!」


 そう叫ぶと、持っていた鎖を勢いよく振り下ろした。


 !?


 鎖の先端に付いていた野球ボール大だった金属球が、みるみる巨大化して俺に迫ってくる。


 コイツ、敵も味方も関係なしかよ?

 金属球の攻撃は、俺だけじゃなく俺を取り囲んでいるモブ連中も巻き添えにするつもりのようだ。

 俺にとってはそれでも構わないが、それよりも、この金属球を利用すれば外道共を攻撃するチャンスだ!


 カーン! (甲高い金属音)


 俺は棍を取り出して、向かって来た金属球の中心を突いて撥ね返した。

 金属球が向かう先は―― ニヤケながら見物しているアフロ頭の外道2号だ!


 しかし、俺の作戦は外道2号に簡単に見抜かれた。


 ズギューン!


 外道2号が取り出した『銃』から発射された光弾が、金属球を撥ね飛ばしそのまま俺に向かって真っ直ぐ飛んでくる!


 ドーン!!


 俺はその光弾を避けたが、俺の後ろにいたモブ数人が『お星様』になった……

 外道1号だけじゃなく2号も敵味方お構いなしか。この調子じゃ3号・4号も同じだろう。


「ジョニー、気をつけろよ。そのビビリ野郎、せこい手を使ってくるぞ!」


「済まないボビー。ちょっと油断し過ぎたようだ」


 それにしても、哀れなのはモブ共だ。


「ゆ、勇者様? な、何故味方ごと……」


 モブ隊長が外道1号に抗議するように訴えようとしたが


「うるさい! 俺達の獲物を横取りする奴は全員敵だ! 死にたくなかったら引っ込んでろ! 大体、お前らザコ共の代わりなんていくらでもいるんだ。数人減ったくらいで、一々気にしてんじゃねぇ!」


 うわぁ、ドン引きのセリフ…… よくこんな奴らを『勇者』と呼べるな。

 外道どころか、完全な『人間のクズ』じゃないか!


 これが、俺と同じ世界の人間の考えだとは到底信じられない。

 否、もしかするとこの世界に召喚されたショックで正気を保てなくなって、『危ないクスリ』に手を出して倫理観が崩壊してしまったのかもしれない。

 それとも、コイツらを召喚したという『教団』に『クスリ漬け』にされたのか?


 そう考えると、何とも哀れな連中だ…… 元の世界に帰っても、2度と真面まともな生活は送れないだろう。


 外道とは言え、俺と同じ世界の者と戦うのは忍びないと思っていたが、外道4人を倒すことは『コイツ等の為になるんだ』という思いが湧いてくる。

 悪魔クスリに支配され人外の魔物倫理観と化した外道共の魂を救うには、俺が心を鬼にして退治してやるしかないようだ。


 今の外道2人の攻撃を見た限り、そんなに恐れる必要は無さそうだし、他の2人も大きな力量差はないだろう。俺は一気に決着を付けることにした。


「お前らの、魂は、俺が救ってやる。安心して、眠れ」


 俺は外道1号に近付きながら慈悲の言葉を掛ける。


「おい! コイツ変なクスリでもキメてるようだぜ。完全にイカれてやがるぞ」


 外道1号は現実逃避して、俺をイカれていると思いたいようだ。


「そりゃ、恐怖のあまり頭がおかしくなったんだろうよ。ジョニー、可哀想だから一発でブッ殺してやれよ―― ヒャヒャヒャヒャ」


 今度は3号か。笑い方からして人格が崩壊しているのが分かる。


 外道1号は、ボクシングのオーソドックススタイルで構えたが、俺は気にせずそのまま進む。1号の手の届く距離に入ったその瞬間―― 1号の左手が動いた!


 ボッ!


 基本に忠実なしっかりと捻りの効いた左ストレートだが、俺はそれをヘッドスリップで避けると同時に一歩踏み込み、カウンターの肘を叩き込んだ!


「グエッ!?」


 蛙の鳴き声のような声を残して、弾かれるように吹っ飛んだ外道1号。

 後ろにいた3号・4号が1号の身体を受け止めたが、勢いに負けて尻餅をつく。


「キサマ何をした!?」「ジョニー大丈夫か!?」「何が起こったんだ!?」


 3人分のキュウちんの声―― 声が混じって識別不能だ。誰が何を言ったのか全然聞き取れない…… 頼むから話すときは1人ずつにしてくれ。


 それにしても、様子見のつもりで本気じゃない攻撃だったのに、まさか外道1号が簡単に吹っ飛ぶとは思わなかった。


 本当にこの程度の強さであれほどいきがっていたのか? 本当はまだ能力を隠しているんじゃないのか?


 この程度なら、はっきり言って外道1号よりも『あの変態アサシン』の方がずっと強いと思う。やはりクスリの影響でマトモな判断ができないから、あんな態度を取っているのか……


 突然、外道1号の鎧が強く光った! と思うとほぼ同時に、他の3人の鎧も強く光りだした。


「フフフ―― まさか今の一撃でレベルアップさせられるとはな」


 外道1号が立ち上がって、俺を睨んでいる。


「この感じからして、一気に5は上がったみたいだ」


 何を言ってんだ? レベルアップだと? ゲームでもしてるつもりか?

 ハッ!? そうか…… やっぱり『クスリ』の影響で、現実が分からずゲームをしているつもりになってるんだな。


 やはり、俺にはコイツらを正気に戻すことは不可能だ。せめて、夢見心地のままで葬ってやろう。その後は、コイツらをクスリ漬けにした『教団』をぶっ潰して、仇を取ってやろう。


……


「折角レベルアップしたんだ。俺も戦いに混ぜてもらう」


 これは4号のセリフのようだ。


「マックスがやるなら俺も加わるぜ。ヒャヒャヒャヒャ」


 これは3号だな。笑い声で分かった。


「チッ、ケントもか…… しょうがないな。これじゃあ、楽しむ間もなく殺しちまいそうだ。ボビーはどうする?」


 これが1号で


「お前らは、ソイツと楽しみな。俺は後ろにいる幼女と遊んでいるぜ」


「ヒャヒャヒャ―― ボビーの奴、また病気が出たぜ」


 皆キュウちんの声だから、誰の言葉か本当に分かり辛いが…… 外道2号がアフロでロリコン属性まで持っていることが分かった。

 ラミオンの相手をしてくれるようだから、2号は無視しても大丈夫だろう。


……


 俺を囲っていたモブ連中は、いつの間にか俺から100m以上離れた場所から俺達の様子を伺っている。モブにしては賢明な判断だ。


 外道2号はラミオンに近付いて行ったから、俺の前に立っているのは3人だ。

 3人の様子を観察していると、鎧に付いているアンテナに流れ込むエネルギーが大きくなっていることに気付いた。いつの間にか、鎧がパワーアップしたようだ。

 奴らの鎧は着ている者にエネルギーを与えている―― 3人共強くなったのかもしれない。一応警戒する必要がある。


 外道3号・4号が武器を取り出した。

 外道3号の武器は『鞭』で、4号の武器は…… 確か『ロザリオ』という物で、ネックレスに十字架が付いている。俺は吸血鬼じゃないんだが、どう使うつもりだ?


 最初に動いたのは外道3号―― 一歩前に出ると、いきなり鞭を振った。


 ズバッ!


 地面に亀裂が走り、衝撃波が俺の右を通り過ぎる。達人が振るうと鞭の先端部分は音速を超えるというが、3号の鞭は音速を遥かに超えていた。


「ヒャヒャヒャ―― 流石レベルアップの恩恵だぜ! 軽く振って『これ』だからな」


「ケント。あれは俺の獲物だったんだから、止めは俺に譲れよ」


「ああ、いいぜ! 奴が俺の本気の攻撃で生きていたらジョニーが止めを刺せばいいぜ。生きていたら、な! ヒャヒャヒャヒャ」


「やれやれ…… ケントが本気を出すんじゃ、今回は諦めるしか無さそうだな」


 本気の攻撃―― どれ程の威力なんだ?

 俺も警戒して、棍を構えて臨戦態勢を取る。


 3号は俺から10mの位置まで近付いて止まった。


「お前、俺の鞭で死ねるなんて光栄に思えよ。まずは―― 右腕だ!」


 言葉と同時に鞭が唸る!


 ビュン!! ピシッ……


「左腕!」


 ビュン!! ピシッ……


「み、右足!」


 ビュン!! ピシッ……


「な…… 何で全部防ぎやがる!?」


 当然だが、俺は飛んでくる鞭を軽く棍で払い防いだ。

 3号―― コイツはバカか? こんな攻撃は防げて当然だろ!

 攻撃する前に態々狙いを教えてくれるから―― 何て理由ではない。フェイクの可能性があるから敵の言葉など信用しない。だが、鞭を振るときの手首の角度・目の動きで狙いは全部筒抜けだ。所詮は力任せのド素人の攻撃だった。


 そろそろこっちから攻めるか!


 俺が一歩前へ出ると


「下がれケント! 次は俺がやる」


「マ、マックス…… あ、後は任せたぞ……」 


 逃げるように後ろに下がった3号に代わり4号が前に出て来た。

 ロザリオを右手に握る4号―― どういう攻撃を仕掛けてくるのか全く予想できない相手だけに、俺も気を引き締める。


 俺と4号の間で緊張感が高まってくる。

 4号がロザリオについた十字架を強く握りしめた。


 来るか!?


 俺も棍を握る手に力を入れたその時――


 うぎゃあぁぁぁぁ!?


 上空から叫び声が降って来た!? と思ったら……


 ドゴーン!!


 俺と4号の間に人が墜落し地面に埋まった。俺が呆気に取られていると―― 目の前の4号の鎧が激しく輝きだした!

 1号と3号の鎧、それに地面の中からも強烈な光が溢れている。


「うおぉぉぉぉぉ!?」「な、何だこれは!?」「力が溢れてくる!?」「ぺらぺらぺら……」(注:キュウちんの同時通訳は3人まで)


 まさか…… また鎧がパワーアップしたのか!?

 さっきとは比較にならないエネルギーが、外道共の鎧のアンテナに流れているのが見える。


 地面に埋まっていたアフロ頭が立ち上がり、俺を見て笑った! そして――


 ぎょぺぇぇぇ!?


 意味不明の叫び声を上げたと思ったら、白目をむいて崩れ落ちるように倒れた……

 2号だけでなく他の3人も同時に倒れ、そのまま動かなくなった……


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