第64話 勇者教団

 オオッ!?


 光り輝く魔法陣の中から人が浮かび上がってくる様子を見ていた人々は、一斉に驚きと感嘆の声を上げたのだった。


『召喚の儀』が執り行われた教会の地下講堂では、魔法陣の上で眠っている4人を背にし、1人の男が演説を始めだす。


「王よ、その目でしかと見たであろう! これこそ神の奇跡――『勇者召喚』である! 危機に陥ろうとしている我ら人族をお救いくださるために、神が我らの元に『勇者』を使わしてくださったのだ!」


 演説を行っている人物こそ、『勇者信仰』を掲げた教団を立ち上げた男――『勇者教団』の最高責任者である『教皇』だった。


 彼が『勇者教団』を創設した目的は『獣人族の絶滅』にあった。


 何故、教皇は『獣人族の絶滅』にこだわるのだろうか?


……


 教皇が教団を立ち上げた切っ掛けは、当時彼が毎日のように見た悪夢にあった。

 彼の見た悪夢―― それは人族の国が獣人族に攻めこまれ、人々が無惨に殺され為す術なく国が滅ぼされる、というものだった。

 初めは只の夢と気にしないようにしていた彼だったが、それが10日続いたとき彼の心には、これは『未来を予言した夢』ではないのか? という疑念が生じた。


 彼は次の日も夢を見た。しかし、その日見た夢は今までの悪夢とは違っていた。

 輝く鎧を来た人物が、町を襲う獣人族と戦って獣人族を退治し、町の人々が歓喜している、というものだった。

 彼はその夢を5日続けて見たとき、その夢もまた『未来に起こる出来事』に違いない、という思いを抱いたのだった。


 彼はその翌日もまた夢を見た。その日の夢はそれまでとはまた違っていた。真っ白な何もない空間の中に、彼は1人で立っていた。

 すると、頭の中に何とも心地好い優しい声が聞こえてきたのだった。


「あなたがこれまで見た夢は、全て今後起こりうる事なのです。あなたが行動しなければ、最初に見た夢の結果に終わるでしょう」


 彼はその声の主を『神』だと直感する。そして、今後の自分の行動次第で『人族の未来』が変わることを理解したのだった。


 彼は夢の啓示に従い『勇者教団』という宗教団体を創設したのだった。


……


 教団設立後、教皇は人族の王に『獣人族の危険性』について何度も訴え続けた。


 しかし、王は決して彼の言葉に耳を貸さず、獣人族とはこれまで通り『互いに不可侵』の関係を変えようとはしなかった。


 このままでは、悪夢の結果が待つことになる。


 教皇は王を動かすために『強引な手段』にでることにした。


 それが功を奏し、遂に王と直接対決―― 賭けをすることになったのだった。


 王の前で『神の奇跡』を示す!


 その賭けが失敗すれば『教団の解散』で、成功すれば王の名の下に『獣人族討伐を行う』というものだった。


 教皇は、その賭けを受けた晩に、夢の中で天啓を聞いた。


「明日の夜、教会の地下講堂にて勇者を召喚いたします」


 これ程ハッキリと神の声が聞こえたのは、あのときの「教団を作りなさい」という『お告げ』を聞いて以来のことであった。


 教皇は急いで、王や国の権力者達に『勇者召喚の儀』を執り行うことを連絡したのだった。


……


 召喚の儀は正に『神の奇跡』の連続だった。


 広々とした地下講堂の床一面に突然『魔法陣』が浮かび上がり、その魔法陣から太陽にも匹敵する程の光が溢れたかと思うと、その光は4つの金色の鎧を形造った。


 そして、その後すぐに勇者が召喚されたのだった。


 これで獣人族の魔の手から、我々は救われるのだ!


 王との賭けに勝利した教皇の喜びは、最高潮に達していた。



   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「まさか…… 本当に異世界から人が召喚されようとは……」


 呟いたのは、『勇者召喚の儀』に立ちあった王だった。

 王は教皇を恐れていた。教皇は教団を立ち上げる以前から、人望厚く人々の為に幾度となく善行を行ってきており、『聖人』と呼ばれるほどの人物だった。

 彼の人徳に惹き付けられた多くの民が彼の教団に入信し、今や教団の地位は国家に対抗しうるほどであったのだ。


 決して王は教皇を敵視していたわけではなかった。寧ろ初めは『人々の拠り所』として教団を受け入れていた。

 しかし、教皇はことあるごとに『獣人族の危険性』を唱え、この世界から獣人族を排除するように人々に訴え続けたのだった。


 このままでは、いつか人々を扇動し『獣人族との戦争』を起こすのではないか?


 王はそれを恐れていたのだ。


……


 それは、勇者召喚の儀より2ヶ月前――


 人族と獣人族は、今まで接触もなく互いが『不可侵』を貫いてきたのだが、数日前に人族と獣人族の領域の境界近くの村が、獣人族の襲撃に合ったという報せを受けた。


 何かの間違いではないのか?


 そう考えた王は調査隊を送った。その結果、先に少数の人族が獣人族の領域に侵入したということが判明した。発端は人族側の責任とはいえ、問題は襲われた村の状況―― 死者こそ出ていなかったが、多くの負傷者が出ており、被害は想像以上に大きかった。そのため、人族の間では獣人族に対する恐れと憎しみが増していった。


 今までの長い歴史で1度もなかった『獣人族による襲撃』―― それが、あの事件以降、僅か2ヶ月の間に同じような事件が何度も起こっていた。


 王はそれを不審に思い秘密裏に調査を行った。

 調査の結果、勇者教団の信者が『獣人族の領地に侵入している』という情報を得たのだった。信者達を捕まえ尋問したところ、彼らは皆「神のお告げに従い行動した」という。


 王は、その勇者教団の信者達の行動を『国家に対する反逆行為』だと非難したが、教皇はそれを認めず、


「獣人族の蛮行を見逃している王こそ、人々に対する裏切り行為だ」


 逆に王を非難したのだった。

 その言葉に、王は遂に教皇と直接対決することを決意した。


「教皇よ! もしお前の言う通り『神の奇跡』があると言うなら、それを示してもらおう! そして、本当に奇跡が起こったなら、王の名の元に『獣人族討伐』を認めよう。だが、もし奇跡が示されなかった時は、勇者教団には解散してもらう」


 こうして、王と教皇の賭けが成立したのだった。


……


 そしてこの日、王の目の前で奇跡は起こされた! 異世界から4人の勇者が召喚されたのだ。


 彼らが着ている服装は、この世界の物ではない。金色の髪も珍しいが、特に黒髪のモジャモジャした髪型など、当然見たことも聞いたこともない物だった。


 彼らは間違いなく『異世界から来た者』であろう。


 王は認めざるを得なかった。

 そして、教皇との約束通り『獣人族討伐』を命じたのだった。


……


 王都では戦争の準備が着々と進められていた。

 兵士を募集し武器開発を強化し、と嘗てない大勢の人間が集まっていた。

 短期間でこれ程の人が集まったのは、偏に『勇者教団』の呼び掛けによるものだった。


 王は後悔していた。あのような約束をしたために、獣人族との戦争はもう引き返すことが無理な状況に追いやられている。


 確かに『勇者召喚の儀』は奇跡としか思えない出来事だった。

 だが、それを成し遂げたという『神』は、本当に信用できるのであろうか?


 王がそのように考える理由―― それは召喚された4人の『勇者』にあった。


 勇者達には『神が作った』という鎧と武器が1人ずつに与えられた。

 それらは神具と呼ぶに相応しい力を秘めており、勇者の成長に合わせて強力な力を発揮するというが、王にはそれが腑に落ちなかった。


 神は何故、異世界人にその神具を与えて、『この世界の者に与えない』のか?

 その理由が分からない。


『勇者』と呼ばれる彼らは、本気で我らのために戦うつもりなのだろうか?

 確かに、今彼らは大人しく王都親衛隊の下で訓練を受けている。

 しかし、王の目には彼らが『勇者』と呼ぶに相応しい人格を備えているようには見えなかった。時折見せる彼らの本性―― それは冷酷で残忍な性格を感じさせるものだった。


 王の不安は日に日に増していくのだった。



   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ジョニー、ケント、ボビー、マックス―― ベトラクーテに召喚された4人は、最初こそパニックに陥ったが、すぐに状況を理解し自分達の立場を受け入れた。


 とはいえ、彼らは『この国のために働く気』など全くなかった。

 それでも、今は大人しく命令に従って訓練を受けている。


 今はまだ動くときではない。

 動くのは、俺達が最強の状態になってからだ!


 4人の見解は、そのように一致していた。

 彼らは、自分達に『不思議な力が備わっていること』にすぐ気づいた。


 会話―― ここが異世界であるにも拘らず、普通に会話ができていた。

 神から与えられた魔力により、相手の言葉は自分の使う言葉に、自分の言葉は相手の使う言葉に変換されると説明された。


 金色の鎧―― 神の力が秘められたその鎧は、勇者としてのレベルが上がるごとに力が解放されていくという。


 神武―― 神の力を宿すという武器が4人に与えられた。1人ずつ違う武器だが、どれも使い手の意思で自在に操れるという。


 まだ完璧に力を使いこなせているわけではなかったが、それでも彼らは『この世界を支配できる』だけの力が備わっていることに気付いていた。


 後は、いつ行動を起こすか。


 最初は獣人族とやらを滅ぼすのも面白い。

 そうなれば、この世界の人間共は俺達に感謝するだろう。そして、その後――


 恐怖に顔を歪ませ、絶望する『こいつらの愚かな姿』を拝むのだ!


……


 彼らは初めて戦場に向かうことになった。

 それまでは、訓練と称して動物を相手にしてきたのだった。


 獣人とはいえ、初めて人と呼ばれるものに対して力を振るえる―― 彼らはその事に興奮を覚えていた。


 4人の内、初めに獣人族の領域に足を踏み入れたのは『鋼球使い』のジョニー。


 喜び勇んで『獣人族の町』に向かっていると、猫の顔をした人間? を発見した。


 ジョニーは舌舐めずりする。記念すべき最初の犠牲者が決定したのだ!


 逃げ惑う猫顔の子供を追い詰めたその時―― いきなり横から殴り飛ばされた!?


 ジョニーは何が起こったのか分からなかったが、目の前には2m近くありそうな大柄の『不細工』な男が立っていた。


 ジョニーはその『不細工』と戦った。

 彼は、鋼球を使わずとも楽勝だと踏んでいたが、男の強さは想像を絶していた。攻撃が全く当たらない。


 ジョニーは元の世界ではボクシングをやっていた。それも州の大会で優勝経験のある強豪選手だった。

 そのジョニーのパンチが全て空を切る。不細工男のフットワークに翻弄され、逆に強烈な蹴りを食らった!


 嘗てない程の強烈なダメージを受けたジョニーは、ゆっくりと近付いてくる不細工男に恐怖した。


 られる!?


 ジョニーがそう思った次の瞬間―― 鎧が輝いた! そして、ジョニーのダメージは霧消し、力が流れ込んでくるのを感じた。


 これはレベルアップだ!

 ジョニーは、これまでの訓練の中で同じような感覚を感じたことがあった。

 敵を打ち倒したとき、或いは敵から大きなダメージを受けたとき、鎧が輝き自分が強くなったのを感じることがあったのだ。

 しかし、今回のは今までとは違う。今までがレベル1の上昇とすれば、今の上昇は一気に10…… 否、20は上がった気がした。


――――――――


 これが鎧に備わった能力――

 自分の耐久力を超える攻撃を受けたとき、その1.4倍の強さになるように魔力が流れ込むようにプログラムされているのだ。


 そしてこのレベルアップは、他の勇者達にも共有される。所謂、レベリングの効果まであるのだった。


――――――――


 レベルアップを果たしたジョニーは、立ち上がった。

 不細工男はその瞬間を狙って攻撃をしてきた。先程と同じような強烈なミドルキック!

 しかし、今度はジョニーをダウンさせることができない。不細工男は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに連続で攻撃を仕掛けた。

 左右の連続パンチからローキックと繋いだ攻撃がジョニーを捉えたと思われた瞬間、不細工男の腹には、ジョニーの右ストレートが叩き込まれていた。


 何が起きたのかも認識できないまま、不細工男は息絶えた。


 その戦いの後、ジョニーは猫族の町『ニャコン』を襲い、暴虐の限りを尽くした。


 そして、次のターゲットとなる羆族の町『グリズール』を目指す途中で、遅れていた仲間達と夜営地で合流したのだった。

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