第60話 彰人、2度目の登校をする

 ようやく俺にも平穏な日常がやってきた!


 そう思えたのは、ほんの束の間だった……



   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 今日俺はウキウキ気分で学校へ向かった。


 教室に入った途端、俺を見た名前も知らないクラスメート達は、驚いたような顔を俺に向ける。


 そうか! 俺の停学が解けたことを、まだクラスメート達は知らないようだな。


 俺は自分の席―― 教室の一番奥の席へ向かった。


 俺の机が無くなっていた……


「あら? 神月君、あなたまだ停学中じゃなかったかしら? それともやっぱり学校を辞めることにしたから、挨拶に来たの?」


 席がなくて途方に暮れている俺に話しかけてきたのは、茶髪ショートのお節介女『宮坂』だった。


「何故俺が辞める必要がある? それから、停学期間は昨日で終了した―― っていうか俺の席はどこへ消えた?」


「一昨日までは白い百合の花の活けた花瓶が置かれていたけど、担任の斎藤先生の指示で、昨日あなたの席は別の場所へ移動したわ。どうせ辞めると思っていたから、空き机が置いてあるのは邪魔だしね」


 俺がいないことをいいことに、地味に酷いことしてるな。

 これ『いじめ』じゃないのか?


 キンコンカン……


 予鈴のチャイムが鳴り担任がやってきた。


 こいつが担任だったのか!


 それは、俺を停学にした張本人だった。


「全員着席! 今日は皆に報告がある」


 俺は着席できないんで立っていたら担任と目が合った。


「早く着席し……」


 担任は途中で言葉を切り、ばつが悪そうに目をそらした。


「今日から郷山君が暫く休むことになった。まぁ、彼がいつ戻ってきてもいいように、机はそのままにしておく」


 俺とは対応が全然違うようだが……


「それからもう1つ! 転校生を紹介するから、皆注目! 入ってきなさい」


 入ってきたのは、長身で長髪の美女―― 男子から歓声が上がり、女子からは溜息が聞こえる。

 俺は違う意味の溜息を吐く。


「今日、突然転校してきた――」


 担任は黒板に大きく転校生の名前を書いた。


『近衛冬華』と――


…………


「かみつ……『かみづき』と『近衛さん』の席がないな。誰か、あそこへ行って机を運んできてくれないか。

 委員長! お前が指示しろ!」


 それだけ言って担任は教室を出て行った。

 俺は呼び捨てで冬華は『さん』付けとか、分かりやすい野郎だ。


「初めまして、神月君。近衛冬華です。これからよろしくお願いしますね」


 そう言ってウインクする冬華―― 気色悪い!


 それに、何が『初めまして』だ! しかも、女子用のブレザーかよ。


「神月君。誰かに机運ぶの手伝ってもらう?」


 宮坂が声を掛けてきた。まさかコイツが委員長だったとはな。


「心配ない。俺と近衛で机ぐらい運べるから、他はいらない」


「あなたは兎も角、近衛さんの机は男子に運んでもらうわ。誰に頼もうかしら?」


 宮坂の声が聞こえたのかどうか、数人の男子がアップを始める。


「俺達が2人の机を運んでやるよ」


 そう言って立ち上がったのは、意外にも『野蛮2・3・4号』の3人だった。


「あなた達…… 何か企んでるんじゃないでしょうね?」


「何も企んでねぇよ…… 大体俺らが、そいつに勝てるわけねぇし……」


「まぁいいわ。じゃあ、あなた達に運んでもらうから付いてきて!」


…………


「ここに俺達の机があるのか?」


「そうよ。数年前は『漫画研究会』の部室だったみたいだけど、今は物置部屋のようになってるのよ」


「なあ神月!」


 ん? 野蛮…… 何号か忘れたが俺に声を掛けてきた。


「俺達はもうお前にちょっかい掛ける気はないんだ。だから―― 報復するのは止めてくれ! 頼むから許してくれ! 猟ちゃん達みたいにしないでくれ! 神月、お願いだ!」


 そして、野蛮共が俺に土下座して謝ってきた。


「否、別に気にしてないから、そこまでしなくていいし」


 俺は若干引きながら、正直に答えてやった。


「そ、そんなこと言って、俺達を殺す気なんじゃあ?

『スカルギャング』の連中なんて、あの日以来『幼女怖い』とか訳分らないこと言ってブルブル震えてる、って聞いてるんです! お、俺達もあんな風にされるんですか!?」


「あんた達! そこで何遊んでるのよ! さっさと机を運びなさいよ!」


 宮坂…… 俺とコイツらを一緒くたにしないでくれ。俺もコイツ等に絡まれて困ってるんだから!


「いいから、机さっさと運べ」


 俺がそう言うと、野蛮共は大人しく机を運び出そうとする。


「ねえ、神月君。あの3人と何を話してたの?」


 冬華が俺に近付いて話しかけてきた。


「大したことじゃない。それよりも―― お前、何で転校してきた?」


「えっ!? 決まってるじゃないですか。師匠の側で仕えるのが弟子の使命です」


「俺はお前を弟子にした覚えはないが?」


 その時だった!


 突然、部屋の床が光を放ち、床全体に不思議な模様が浮かび出した!


「な、何だよこれは!?」「う、うわーあぁぁぁ!」「ど、どうなってんだ!?」


 突然の出来事に野蛮共がパニックになる。


「ま、魔法陣!?」


 叫んだのは宮坂だ。確かにこれは【六芒星】ってヤツだ!


「か、神月君! これって、ヤバい?」


 冬華の言う通り、確かにこれはヤバそうだ。


 逃げた方がいいんだろうな、多分。

 とか考えてる間もなく、5人が魔法陣に吸い込まれていく。


 俺は―― 霊気を身に纏ってるから、全然影響を受けていない。

 5人以外の、部屋にあった物とかも一切影響を受けずに、そのまま残っている。


 魔法陣が浮かんでから僅か5秒ぐらいか…… 俺だけを残して、5人は奇麗さっぱり消え去ってしまった。


 うーん、困った…… この状況、どう説明すればいいんだ?



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 俺がこの『取調室』に連れて来られてから、かれこれ2時間になる。


「お前が『堀川優、黒田信二、谷村謙祐』の3人とトラブルを起こしていた、という情報を掴んでいるんだ!

 あの3人はお前の報復を恐れていたそうじゃないか! お前があの3人と、他の2人もどうにかしたんだろうが!?」


 壊れたレコーダーのように、同じセリフを吐き続ける目の前の中年刑事。


 俺がここで正直に「魔法陣が浮かんで、5人共吸い込まれました」と言ったところで、この状況が変わるとは思えない。下手すると、もっと悪くなりそうな気がする。


 ここから逃げるのは全く難しいことではないが、そうすると【少年A、取り調べ中に脱走】とかニュースに取り上げられるんだろうな……


 吸い込まれた5人のことも気になるし、何とかこの状況から脱したいが、今のところその方法は全くない。


「黙秘か? 近頃のガキは、こんな知識だけは一丁前に持ってやがるから気に食わん」


 刑事は俺を睨みながら言葉を続けた。


「取り調べはまだまだ続くぞ! 今日は帰れると思うなよ!」


 そう言って、刑事はいったん取調室を出て行った。


…………


 5分程で刑事が戻ってきた。


「今日はもう帰っていいぞ」


 いきなりさっきとは正反対の言葉を掛けられた。


「帰ってもいいんですか?」


「さっさと帰りやがれ!」


 刑事は苦々しそうな表情をしながら、怒鳴り声を上げた。


 助かったことには違いないが、一体何があったんだ?

 取調室の外にその答えがあった。


「よう! お疲れさん―― って、あんまり疲れてなさそうだな」


 そこにいたのはダンディオヤジ『間藤昴』と『近衛和真』だった。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「で、何が起こったか詳しく聞かせてもらえるか?」


 俺達は、かなり高級そうな料亭の一室にいる。


 ここでもやっぱり取り調べか? さっきまでの殺風景な部屋と違って、目の前のテーブルには豪勢な料理が並んでいるが。


「緊張するな―― って、全く緊張してないな。まあ、飯でも食いながら話そうや」


 そういえば俺は昼飯抜きだった。

 前回は午後の授業前で、今回は1時限目が始まる前に学校から出て行かされた。


 とりあえず、飯を食いながら今朝の出来事を間藤達に話した。


「魔法陣ねぇ…… 和真、どう思う?」


「【転移魔法】でしょうか?」


「転移魔法か…… 使い手の目星は付きそうか?」


「難しいですね。データベースには、5人を1度に転移できるほどの使い手の情報はありません。未知の魔術師―― ということになりそうですね」


「そうか…… しかも、相当な大物だな。もしかすると、あの『首切り』の方にもその魔術師が絡んでいる可能性があるな」


「ところで、俺はなんで解放されたんだ?」


「ああ、そんな事か。俺達『SMCO』が出張った事件は、所轄は手を引くのさ。

 上の上のそのまたずーっと上―― から命令が下りてくるからな」


 へえ。ショボい組織だとばかり思っていたが、意外にも結構な権力を持っているんだな。


「冬華もその魔法陣に吸い込まれたのか…… あいつが一緒なら、他の4人も何とかなるかもしれないが、できるだけ早く救助しないと……」


 この2人は、あいつら5人は『この世界のどこかに転移させられた』と考えているようだが、俺の考えは違う。


 あの魔法陣から感じた力は『異世界』のエネルギーだ。

 俺が『あの扉』を通って、エシューゼに行った時に感じたのと同様の物だった。


 実家に帰れば何か分かるかもしれないな……


「それじゃあ彰人。何でもいいから、思い出した事があったら連絡をくれ」


 俺のスマホに、間藤のLINEアドレスを無理矢理登録させられた。

 俺の記念すべき最初の登録者が、こんなオヤジになるなんて…… 俺はやっぱり不幸の星の元に生まれたようだ。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 マンションに帰って来た。


 部屋には、いつも情報収集に余念のないラミオンの姿が見えない。


 どこかへ出掛けているのか? 珍しいことだな…… って、落ち着いている場合じゃない!

 ラミオンが何かしでかしていないか、堪らなく不安になる。


 都会には『危険な奴ら』が数多く存在することを、この数日の間に嫌というほど思い知らされた。もし、ラミオンを怒らせるような奴がいたら…… 否、考えるのは止そう。そんな事より早くラミオンを探さなければ!


 俺はこれから鬼追村へ帰るつもりだ。

 恐らく異世界に連れ去られたと思われる5人の手掛かりを得るためには、『さぶろう』から情報を教えてもらう必要がある。

 そのためにもラミオンを探さないといけない。ラミオンがいないと鬼追村に帰るのが結構大変だ。鬼追村まで約400kmだから、ラミオンなら6分だが、俺が走って帰るとなると5時間は掛かるからな。


 俺はマンションを出て公園を探してみたが、ラミオンはいない……

 本当にどこに行ったんだ? ラミオンは人間じゃないから気配を感じられない。

 ラミオンが『魔力』を使ってくれると場所が分かるけど、それは寧ろしてほしくないし……


「マスター、こんな所で覗きか?」


 うわっ!? いきなり背後から声を掛けられた。

 ラミオン恐るべし…… 俺に気配を感じさせずにこの距離まで近付けるのは、じいちゃんと親父くらいだ。


「ラミオン、何処へ行ってたんだ?」


「周辺のパトロールだ」


 確かに、この辺りは連日『怪しい連中』が彷徨うろついている。ラミオンがパトロールする気持ちも分かる。

 幼女が1人で歩いていたら、それこそ『怪しい連中』はあっさりと食いつくだろう。そしてラミオンにボコボコにされる訳か。


「それで、怪しい奴はいたのか?」


「安心しろ。怪しい奴はマスター以外いなかった」


 それは良かった! 俺以外に怪しい奴はいなかったか! って、なんでやねん!


「ラミオン、俺は怪しいのか?」


「この時間はまだ学校のはず。こんな所を彷徨いている学生が、怪しくない訳がない」


 ごもっともです…… でも俺、『無期限停学』処分中なんです。

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