第59話 彰人、解放される

 郷山ごうやま花梨かりん近衛このえ冬華とうかの襲撃から、翌日の朝を迎えた。


 しかし、未だに俺を狙っているという者の気配は全く感じられない。


 昨日は午後9時になったところで「門限だから」とか言って冬華は帰っていった。

 門限のある『護衛』って役に立つのか?


 一応冬華の代わりに、暑苦しいマッチョ男3人がやって来たが、部屋が狭くなるからやめてほしかった…… どうせなら、綺麗なお姉さん3人に代えてくれないか?


 しかもそのマッチョ共は、俺が寝ている間、一晩中隣の部屋でラミオンと対戦格闘ゲームをしていたらしい。

 元々俺に護衛は必要ないとはいえ、コイツらも絶対に役に立つとは思えない。


「マスター、昨日はラミオンの512勝0敗だった」


 あいつら、ゲームも弱すぎだ…… 俺は昨日ラミオン相手に1勝103敗だったぞ! 俺も十分弱いが、あいつらよりは遥かにマシだな。


 それよりも気になったのは、ラミオンの衣装がまた変わっていたことだ。

 ごく普通の紺色のワンピース姿―― その方がこの世界で生活するには目立たなくていいんだけど、一体どうしたんだ?


「ラミオン、また服が変わったな」


「マスター、よく気づいた。『正義の味方』は普段は目立たなくする必要がある」


 よくわからないが、ラミオンは『正義の味方ゴッコ』にはまっているようだ。これも情報収集の賜物なのかも知れない。


 それにしても平和だな。俺は本当に狙われているのか、甚だ疑問だ。


……


 ピンポーン!


 午前4時45分―― 冬華が俺の部屋に来て、マッチョ共が帰っていった。

 俺は公園でトレーニングするから、冬華も当然付いてくるのかと思っていたら


「寝不足は美容の敵」


 そう言って、布団を勝手に敷きだした。


 コイツ、まさか寝るつもりか!? 護衛はどうなってんだよ!


「心配ない。私は寝ていても怪しい奴の存在に気づけるから」


 絶対にコイツ、やる気ないだろ!

 元々俺には護衛なんて必要ないから、そのまま部屋を出てきたが、ムカムカは収まらない。


 1時間のトレーニングを終えた俺は、冬華の実力を測るため、気配を絶ちながら部屋に戻ることを思い付いた。

 完全に気配を消しては、流石に俺に気付けないだろう。それで俺は、昨日の『変態禿』と同じくらいの穏行を使うことにした。


 あれだけ自信満々なら、これくらいは気付けるだろう―― そう思っていたのだが、俺が部屋に戻ったら冬華は背中を向けて着替え中…… 俺は、その何も着けていない背中に向かって声を掛ける。


「おいっ! 護衛はどうした!」


 いきなり後ろから声を掛けられたせいで、驚いた冬華は反射的に振り返った!

 そして、何も着けていない上半身を俺に晒す!


「み、見たな!」


 鬼の形相で俺を睨む冬華。そして――


「ぶっ殺す!」


 次の瞬間、俺は冬華を蹴り飛ばしていた!



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 1時間後―― 気絶から目を覚ました冬華は、今俺の前で正座している。

 そして俺は、怒りを露にしながら冬華の前で胡座をかいて座っている。


 まさかコイツが『男』だったとは!

 昨日のあの『俺を陥れた演技』をしたのが『男』だったなんて…… 俺は一瞬で怒りが頂点に達したのだった。


 昨日はお前のせいで、『おばさま方』の俺を見る目がどれだけ痛かったと思ってるんだ!


 俺は冬華の尋問を始める。


「おい! その『冬華』って名前は本名なのか?」


「本名です……」


 マジかよ? 女みたいな名前だな。


「で、年齢としは?」


「15歳。高校1年です……」


 俺とタメかよ。


「何で女装していた? その髪は本物か?」


「髪は本物です。女の格好の方が『敵が油断する』から、とアドバイスをもらってからこの格好をするようにしています……」


 なるほどな……『そっちの気』があるのか心配したが『プロ意識』ということか…… 本当だろうな?


「で、昨日のあの演技は誰から教わった?」


「兄の修羅場を見たときに思いつきました……」


 うわーっ。コイツの兄って、かなりヤバい奴なんじゃ?


「わかったと思うが、俺はお前より強い! 護衛は必要ないから、あのお嬢さんにも伝えておけ!」


「それはできません!」


 なんでだよ! どう考えてもお前の護衛なんか必要ないだろ!


「契約書にサインされましたので、『狩猟者ハンター』を捕まえるまでは仕事を続けさせていただきます!」


 契約書を盾にとるとは卑怯な!


 俺が冬華を睨みつけていると


 ピンポーン!


 玄関のベルが鳴った。


 まさか、今度こそ、秘密結社『N●K』の集金人!?

 それとも秘密諜報紙『新聞』の勧誘か!?


 恐る恐るドアスコープを覗くと、そこにいたのは俺の知った顔だった。

 俺はドアを開ける。


「和真か。こんな朝っぱらから何か用か?」


「とりあえず中で話そう。入るぞ」


 どうぞ、という前に和真は入ってくる。

 何故俺を訪問する奴は、皆マナーが成ってないんだよ!


「ん? 客がいるのか? それも女か……」


 玄関には女物の靴がある。中にいるのは男だけどな。


「彰人君。忠告しておくが女を甘く見るなよ。恐ろしいことになる場合がある」


 和真は何かを思い出しているような感じで、俺に忠告してきた。


「お客さんですか?」


 顔を出した冬華を見て、和真が驚いている。


「と、冬華!? 何故お前がここに居る?」


「に、兄さん!? 兄さんこそ何で?」


「ひょっとして、お前ら兄弟なのか?」


「ああ、『近衛和真』が俺のフルネームだ」


 まさか和真が冬華の兄だったとは…… 世間は狭い。


…………


「お前が彰人君の護衛? ハハハハ―― どう考えても必要ないだろ?」


 そうだよな! 和真、お前からも『契約破棄』するように言ってくれ。


 だが、冬華は不満そうに唇を尖らせている。


「で、兄さんは何の用事でここへ来たんだよ?」


「ああ、そうだった。彰人君、昨日の話だが『暗殺者アサシン』の雇い主の目星がついたぞ。どうやら『郷山ごうやま剛満たけみつ』は関係なさそうだ。

 剛満の息子の『郷山ごうやま剛彦たけひこ』―― そいつがアサシンの雇い主だと思われる」


「アサシン? 兄さん! 『アサシン』ってあの有名な暗殺者の!?」


「ああ。最近はS市に潜んで『狩猟者ハンター』と名乗っていたようだ」


「そ、そんな……『狩猟者ハンター』があの『暗殺者アサシン』だったなんて…… 神月君…… どうやら僕では君を護れそうにない……」


 否、初めから護衛なんて不要だと言ってるだろ! それに


「冬華。アサシンなら既に彰人君が捕まえているぞ!」


「えっ? アサシンが捕まった? 神月君が捕まえただって???」


 冬華の頭には『?』が飛び回っているようだ。

 あの『変態禿』を捕まえたことが、そんなに驚かれることなのか?


「冬華が驚くのも無理はない。アサシンは世界中の『その手の組織』が躍起になって探していたが、ほとんど手掛かりすら掴めなかった大物だからな。

 3年前に血液を手に入れることに成功したときには、臨時ボーナスが出たほどだった、と間藤さんが言ってたくらいだ」


 あの『変態禿』が大物だといわれても未だにピンとこないが、これで鬱陶しい護衛から解放されるわけだ。めでたしめでたし。


「そうか…… 神月君はそんなに凄い人だったんだね」


 ん? 冬華―― 何だその目は!? お前、何で頬を赤く染めているんだ?


 コイツ、やっぱり『そっち系』か!



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 午後になって花梨が訪ねてきた。


 俺は花梨に、『狩猟者ハンター』が既に捕まっていることを説明した。


「そうでしたか。では、兄と弟のことは父に報告いたしておきます。

 父は、きっと彰人様のご不満のないように事を収めるはずです。この後のことは、どうか私にお任せ頂きますよう、お願いいたします」


 丁寧に頭を下げる花梨。俺は別に実害を被っているわけでもないので、その2人のことはどうでもいい。それよりも――


「花梨さん。そっちはお任せするとして、『あいつ』をどうにかして貰えませんか?」


「『あいつ』とは冬華のことでしょうか? 彼女がどうかしましたか?」


「花梨さんは、冬華が『男』だということはご存知ですか?」


「まあ! 冬華のこと、もうバレてしまいましたか!」


 やっぱり知ってたか。じゃあ、花梨はあいつが『ノンケ』かどうかも知ってるに違いない。


「花梨さん。冬華はもしかして『危ない奴』じゃありませんか?」


「そうですね。冬華は目的のためには手段を選びませんので、そういう意味では『危ない』かも知れませんね。でもとっても『いい子』ですよ。神月様も、必ずお気にいりになられると思います」


 無理無理! 絶対無理!


「とにかく冬華を連れ帰ってください! 頼みます!」


 冬華は「俺の弟子になる」と言い出して、あろうことか「この部屋に住み込む」とまで言ってきた。

 あんな危ない奴と一緒の部屋に居るなんて、想像しただけで寒気がする。


「畏まりました。神月様がそれ程まで拒絶なさるなら、冬華を連れ帰ります」


 よかった。これで安心して寝ることが出来る。


「それから、明日から学校に登校できるようにお手回しいたしておきますので、どうかご安心ください」


 そうか! 学校に行かないことに慣れ過ぎて、停学中であることを忘れていた。


 いかんいかん…… 今度こそ、普通の平和な高校生活が待っているんだ!



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 翌日――


 俺は、普通の平和な高校生活を迎えるはずだったのに……


「で、お前以外の『あそこ』にいた5人は―― 一体、どこへ行ったんだ!?」


 バン!


 まるで刑事ドラマの取調室のような空間で、机を叩き怒鳴り声を上げる中年男。

 ていうか、ここはそのまま取調室だ。


 俺はその中年刑事の正面に、机を挟んで座っている。


「うーん? どこへ行ったんでしょうね?」


 俺の見たことをそのまま伝えたとしても、絶対『嘘』だと思われるだけだし、そう答えるしかないのだが、


「しらばっくれるな! お前があの5人を何処かに連れだしたんだろうが! どこへやった!?」


 あの5人とは―― 郷山の取り巻き3人と、茶髪ショートのヤンチャ系お節介女、そして俺のストーカーだ。


 はあぁぁぁ…… なんで停学明け初日にこんなことになるんだよ!


 俺は『不幸の星の下』に生まれたのか!?

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