第7話 彰人、ゲルナの疾風団アジトへ出発する
早朝――
俺は普段通りの時間(4:30)に起床する。たとえ異世界に行っても、身体に染みついた生活リズムは変えない―― 実際はニホンとここでは、5時間ほどの時差が感じられたから、鬼追村ではまだ23:30くらいだろう。昨日は全然眠たくないのに、無理やり睡眠を取ったが、すぐにこの生活リズムにも慣れるだろう。
俺は昨日『神明流免許皆伝』になった。今後は1人で修行することになるのだ。今までは、じいちゃんの言う通りやっていれば良かったが……
否、じいちゃんとの修行は常に生命の危機を感じさせられて、決して良くはなかった。
とはいえ、これからはどういう風に修行していこうか、悩みどころだ。
俺はとりあえず部屋を出て、屋敷の中庭に向かう。まだ屋敷の住人は、皆寝静まっているようだ。
中庭は家の道場より遥かに広く、これなら気兼ねなく身体を動かせそうだ。
空には満月が出ていて、日の出前にしては随分明るい。
やっぱり、異世界だな……
昨日は気付かなかったが、エシューゼには月が2つあるようだ。1つはほとんど沈みかけだが、もう1つはまだ真上に近い位置にあって煌々と輝いている。
これだけ明るければ、すぐにでもアジトへ向かって出発できそうだが、マルデオ達はまだ寝ているので、俺は朝食の支度が済むまで軽く身体を動かすことにする。
……
暫くすると、屋敷の使用人達が朝食の支度を始めたようだ。
それから更に30分ほど経って
「アキト殿。こちらに居られましたか!」
マルデオがやって来た。
「朝食の支度ができましたので、食堂へお越しください」
使用人でなくわざわざ主人自ら迎えに来るとは、律儀なオッサンだ。
俺は準備運動を止めて、マルデオに挨拶する。
「おはよう。マルデオ」
「お早うございます、アキト殿。それにしても、こんな早朝からあのような激しい運動をなさるとは、流石は戦人ですな」
激しい運動? 否、極軽い準備運動だったけど……
マルデオはあまり運動をしなさそうな体型だから、あの程度でも激しい運動に思えたのだろう。もしマルデオが、俺の修行を見たらどんな反応をするだろうか?
そんなことを考えながら食堂へ向かう。
食堂では、給仕やメイドさん達が並んでいた。何人かは少し眠たそうだったから、普段はこんな時間から朝食を取ることはないのだろう。
テーブルの上には、昨日の夕食ほどではないものの、朝食にしては随分と豪勢な料理が並んでいる。
「アキト殿、今日のルートについてご相談があります」
食事をしながらマルデオが話しかけてくる。
「直接、アジトに、向かう、だろ?」
昨日の話では、すぐにでもアジトへ行きたがっていたようなので、そう言ったら
「いえ、やはり直接向かうのは道中危険すぎると思いましたので、安全を考慮して少し遠回りですが西にある【ウエンク】の町を経由して、ゲルナ湖の西側から迂回するルートを取ることにしようと思うのですが、アキト殿はどう思われますか?」
マルデオは心配そうな表情で俺を見る。隣のネルサも同じような表情をしている。
きっとマルデオはネルサに心配かけないように、安全なルートで行くことにしたのだろう。危機管理がしっかりできることは旅において重要なことだ。俺は当然
「安全は、大事だ。それで、良い」
そう答えた。
「アキト殿も賛成いただけますか! それでは日程的には余計にかかりますが、そのルートで出発しようと思います」
俺に反対されるとでも思っていたのだろうか? マルデオとネルサはお互い顔を見合わせて、ホッとしたようだ。
その後は、ウエンクの町の特産品などの話を聞きながら食事を続けた。
……
朝食を終えるとすぐに出発だ。
出発の準備は既に整えられており、2台の大鳥車が1列に並んで玄関の前に用意されていた。今回はアジトの調査が主な目的で、財宝の回収は後日行う予定なので、大鳥車はどちらも昨日よりも小型の、人を乗せることを目的にした物になっている。
ラークマンと他に2人の兵士もすでに大鳥車の前で待っていた。ラークマンが俺達に近付いて話し掛けてきた。
「マルデオ様、アキト君、お早うございます。従者から伺いましたが、ルートを変更されるそうですね」
いつの間にか、ラークマンは俺のことを『アキト君』とフレンドリーに呼ぶようになっている。確かに年長のマルデオやラークマンに敬称付けされるのは変な感じだ。俺なんて完全呼び捨てだしな。
「ラークマン隊長、今日はよろしく頼みます。ルートは早さよりも安全を優先することにしました。アキト殿も賛成してくださいました」
「ええ、私もそのルートで賛成です。では、今日の晩はウエンクの例の店ですか?」
「勿論そのつもりですよ」
「おお! それは楽しみです。それでは、すぐに出発しましょう!」
ラークマンはいそいそと後ろの大鳥車に乗り込んでいく。部下2人も彼に続いた。
「例の、店とは?」
「それは、向こうに着いてからのお楽しみということで―― さあ、アキト殿は前の大鳥車にお乗りください」
俺とマルデオと従者1人が前の大鳥車に乗り、ラークマンと部下2名と従者1人が後ろの大鳥車に乗った。大鳥車は6人乗りなので、かなり余裕でくつろげそうだ。
「旦那様。それでは出発いたします」
朝陽が顔を出すと同時に、御者はダリデッカをゆっくりと走りださせた。
ネルサと大勢のメイドさんや使用人達に見送られて、2台の大鳥車は出発する。
目指すは盗賊団のアジトだ!
……
大鳥車が屋敷の門を出てすぐのところで
「〇■※×! ◆〇$※▼~」
遠くから誰かが大声を上げながら駆けてきた。
昨日からタマの設定を解除してないので、タマは15m以内の人の声は俺に全部念話で伝えてくれるが、それ以上離れた声は当然ガン無視だ。
「エレーヌ様ではございませんか! こんな早くから、どうなさったのですか?」
御者は大鳥車を停車して、その人物に声を掛ける。
「エレーヌさん!? 何か急の用事でもありましたか?」
マルデオも驚いた様子で、窓を開けてその人に声を掛けた。
その人は、急いで走ってきたようでかなり息を切らせていた。
肩までの金色の髪と、透き通った青い瞳―― 誰もが美人と評するであろう容姿の女性だ。年齢は俺と同じくらいだろうか。
「誰だ?」
俺はマルデオに尋ねる。
「彼女は、マカラ三長老の1人バレック殿のご令嬢のエレーヌさんです。
そして私の妻、ネルサの妹でもあります」
ネルサの妹―― じゃあ期待できるな。『何を?』と一人つっこみ。
「何とか間に合ったわ! マルデオ様、私もご同行させてくださいな」
そう言いながら、エレーヌは大鳥車の中に入ってきて、マルデオの横に座る。
その時、後ろの大鳥車での何とも不穏な会話が聞こえてきた。
「えっ! エレーヌ様が前の大鳥車に乗られましたよ」
「な、なんだって! 何故、エレーヌ様が!?」
「た、隊長。もしや、エレーヌ様もご同行なさるおつもりでは……」
「なんということだ…… マルデオ様が上手く言い包めてくださるといいのだが……」
まさか、この美人さん―― 要注意人物なのか!?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
それは、昨夜のこと――
夕食も終わり、大広間で家族水入らずで会話を楽しんでいた私達の元に、その知らせが届いたのです。
「旦那様。兵士の方が緊急の知らせを届けに参られました」
『緊急』という言葉とは裏腹に、全く慌てた様子もなく現れた執事のジェラールは、いつも通りの落ち着いた口調でお父様に告げます。
彼の後ろからは兵士が1人、駆け込んできました。
私達全員の目が、一斉にその兵士に向けられます。彼のその慌てた様子に、ただならぬものを感じ緊張が走りました。
「お寛ぎ中、失礼いたします!」
「そんなに慌てて、どうしました?」
お父様がお尋ねになります。
「はっ。マルデオ様の大鳥車が『ゲルナの疾風団』の襲撃に遭いました!」
兵士のその報告を聞いた瞬間、その場にいた全員が凍りついたように固まりました。
ゲルナの疾風団―― 彼らの恐ろしさは、このゲルナンドで生活する者なら誰もが知っています。
今まで多くの犠牲を出し、討伐隊の派遣も全く成果が得られなかった『恐怖の象徴』のような盗賊団の襲撃に遭った…… マルデオ様のご命運を、容易に想像できたのです。
私達は、絶望と哀しみに襲われました。
それは、マルデオ様がマカラ三長老の1人だからというだけでなく、マルデオ様が私達の最愛の家族でもあるからです。
正確には、ネルサお姉様の夫であり、私にとっては『義兄』にあたるのです。この場にいた全員が絶望を感じたのは当然のことでした。
私は思わず涙をこぼしました。お母様とお姉様もすすり泣いておられます。お兄様達も悲しみに堪えるように下を向いています。執事のジェラールでさえ、驚いて声も上げることができず、立ち尽くしている様子。
唯一お父様だけが、気丈に兵士に尋ねられました。
「それで…… マルデオ殿は…… ご無事なのか?」
お父様の声は少し震えていました。
「はっ。マルデオ様はご無事でございます。
それどころか、ゲルナの疾風団12名を捕えてお戻りになられました!」
兵士の返答は私達の予想を大きく裏切るものでした。
彼の言葉の意味が一瞬理解できず、その場にいた全員の時が止まったようでした。
「ど、どういうことか?」
少しの間の後、お父様がようやく気を取り直されて、兵士に尋ねました。
「はっ。ゲルナの疾風団12名を捕えまして尋問をしたところ、奴らのアジトの場所が判明いたしました!」
「アジトまで! し、信じられん…… いったいマルデオ殿はどのような魔法を使われたのか?」
「はっ。詳しくは存じ上げませんが、何やらマルデオ様が襲われている最中、ジャルモダの戦人が現れて、盗賊共を退治されたと聞いております」
戦人!
その言葉が聞こえた瞬間、私の意識も覚醒しました。
私の頭の中に、ジャルモダの巫女や戦人のお伽噺に胸を躍らせた幼き頃の記憶が蘇ります。いえ、今も憧れを抱いているのを自覚しています。
私は、お淑やかなお姉様方と違い、世間ではお兄様について剣の稽古をしていることから『女だてらに』と揶揄されていることを知っています。そんな私をお父様は笑っておられますが、お母様からは『お転婆はおやめなさい』とよく注意されます。
でも私はやめません!
いつか、お伽噺のような冒険がしたいのです!
危険と隣り合わせの冒険―― 世界中を旅して、そして燃え上がるような恋を……
「マルデオ殿は、明日の早朝に盗賊のアジトに向かわれるのですか?」
お父様の声に、私は現実に引き戻されます。
「はっ。隊長と戦人他数名と、日の出とともにご出発されると聞いております」
「そうですか…… くれぐれもご用心くださいとお伝えください」
「はっ。了解いたしました! それでは失礼いたします!」
兵士は敬礼した後、部屋を出て行きました。
日の出とともに盗賊のアジトへ向かう――
私は明日の準備をすることを心に決めました。
そして戦人―― そのまだ見ぬ彼に心がときめくのでした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「エレーヌさん。これから私達が行く場所は、道中危険がいっぱいの所ですので、お屋敷にお戻りになられた方が…… バレック殿もきっとご心配なさりますよ」
マルデオがエレーヌを諌めるように話すが、
「マルデオ様。心配無用です!」
マルデオの話をエレーヌは強い口調で遮った。
「あの盗賊共には、お父様も随分と煮え湯を飲まされましたので『奴らのアジトから少しでも取り返せ』と、お父様より申し受けております」
「そうでした。ゲルナの疾風団にバレック殿の荷車が3度も襲われておりましたな」
「ええ! 被害額も莫迦になりませんし、お父様は怒り心頭でございました」
俺が不思議そうな顔をしていると、マルデオが説明してくれた。
「マカラ向けの荷車が奴らに襲われたのは、昨日が7回目でした」
なるほど、昨日を除くと3/6か―― そりゃ大当たりだな。
「ですから、私もマルデオ様達とご同行させていただきます」
後ろの大鳥車の会話から、彼女がトラブルメーカーなのが想像つくだけに、俺としては賛成したくないのだが、
「バレック殿の頼みでは、仕方ないですな……」
どうやら、マルデオはエレーヌの同行を認めるようだ。
エレーヌは『してやったり』というような表情を浮かべたあと、今度は俺の方に視線を向けた。
「ところでマルデオ様。その彼が、噂の『戦人』なのですか?」
俺は今は、マルデオに貰ったマカラの一般的な服を着ている。理由は分からないが、マルデオに道着からその服に着替えるようにと強く勧められた。確かに道着では目立ちすぎるので、俺はその服に着替えたのだ。
それなのにエレーヌは、よく俺が戦人だと見抜けたな。本当は戦人じゃないけど……
「ええ、その通りです。アキト殿はすごく頼りになるお方です」
マルデオは俺のことを褒めるが、エレーヌの目はどこか冷めているような?
「ジャルモダの巫女や戦人の話は私もよく知っておりますが、所詮はお伽噺です。本当にこんな少年が頼りになるのですか?」
「エレーヌさん! それは、アキト殿の力を疑っておられるのですか?」
「私、見たことしか信じない
うん。なかなか正直な考え方だ。間違いなく『めんどくさい女』だ。
「旦那様、そろそろ……」
御者が恐る恐る声を掛けてくる。
「ああ、そうだな。じゃあ出発しておくれ」
マルデオが応えると、御者が大鳥車をゆっくりと走らせる。
エレーヌのせいで少し時間を食ったが、今度こそ出発だ。
「ああ…… やっぱりエレーヌ様も一緒に行かれるようです、隊長……」
「そうだな…… 後は道中大人しくいてくれることを祈るだけだ……」
後ろの大鳥車からは、かなり意気消沈しているのが伝わってくる。普通、これだけの美女が同行するとなれば喜びそうなのに、これほど嫌がられるとは……
この女、相当『ヤバい奴』と考えておく必要がありそうだ。
「マルデオ様。目的地はこの地図のこの『赤い×印』の場所でしょうか?」
エレーヌはマルデオの持つ地図を覗き込んで尋ねる。
「ええ、そうです」
「では、この『赤い線』が目的地までのルートですか? 随分遠回りするのですね」
「ええ。真っ直ぐ向かうと早く着けますが、その分危険が大きいので、少々遠回りになりますが、ウエンクを経由して、ゲルナ湖の西側から迂回するルートを取ることにしたのです」
マルデオは、今朝俺にしたのと同じようにエレーヌに説明する。
「何故そんな必要があるのです? ここには『伝説の戦人』がおられるのではございませんか!」
そう言って、俺を挑発的な目で見るエレーヌ。
もしかして、俺の力を知りたいから、敢えて危険地帯へ向かいたいのか?
しかし、それは『自分も危険にさらされる』ことに気付いているのだろうか?
「真っ直ぐ進めば、アジトまでは昼過ぎまでに着ける距離ですわ。わざわざ遠回りして2日も掛けるなど、時間の無駄ではありませんか?」
マルデオは困惑の目で俺を見る。
そりゃそうだ。例え俺の力を信じていたとしても、この世に『絶対』はない。少しでも危険を減らす努力をするのが、旅をするための基本―― それがこのエレーヌには分からないようだ。否、分かっていながらわざと嫌がらせを言っているような気もする。
尤も、俺は最短ルートでも全然構わない。エレーヌには少し痛い目を見せた方が彼女のためかもしれないな。
「最短ルート、いいと、思う」
「アキト殿!?」「うそっ!?」
何故か、マルデオだけでなくエレーヌまでが驚いた声を上げる。
「ただし、俺と、こいつだけ、行く」
俺はエレーヌを指さした。
「ちょ、ちょっと! 何で私とあなただけで行かなきゃならないのよ!」
「他の人、危険、まきこまない。怖いなら、おとなしく、してろ」
「な…… だ、誰が怖いですって!」
エレーヌは、真っ赤な顔で俺を睨みつける―― 今の一言が相当癪に障ったようだ。
「私は、あなたが御者をできそうにないから、嫌なだけよ! 私は怖がってなどいませんから!」
「心配ない。俺、御者、できる」
俺はこれでも動物の操縦は得意だ。特に馬は『鬼追村』でよく操っていた。
見た感じダリデッカの手綱の扱いは、馬とそれ程違いがなさそうだ。
「わかりましたわ。そこまで言うのでしたら、私とあなただけで行きますわ!
マルデオ様、よろしいですわね!」
エレーヌはまだ興奮しているようで、赤い顔をしている。
「い、いやいや…… それは流石に危険でございます。お二人共落ち着いてください」
マルデオは慌てて止めに入る。
「私は冷静です! 何の問題もございません!」
どう見ても冷静ではなさそうだが、面白いのでこのまま進めてしまおう。
「マルデオの、屋敷に、小型の、鳥車、あった。それで、行く」
マルデオの屋敷には、ダリデッカ用の大鳥車以外にも、ダリモ数羽で引く小型の鳥車も数台あった。それを使えば、2人で乗るにはちょうど良さそうだ。
昨日、盗賊団から確保したダリモ12羽は俺が貰うことになった。今はマルデオの鳥舎に預けてある。その内の3羽を使って鳥車を引かそう。
……
エレーヌを乗せて大鳥車が動き出してから、わずか3分後――
「おい。前の大鳥車、また止まったぞ」
「まさか? いきなりトラブル発生か?」
「いくらエレーヌ様といえ、早すぎでしょ!」
後ろの大鳥車の連中は、俺達の乗った大鳥車が止まったのはエレーヌが原因であると信じているようだ。なかなか勘のいい連中だ。
マルデオの従者が、後ろの大鳥車に事情を伝えに行く。
「何? 1度マルデオ様の屋敷に引き返すのか?」
「はい。それで、エレーヌ様とアキト様が別の鳥車を使われて、アジトへ直接向かうことになるそうです」
「それは! 大丈夫なのか? マルデオ様はお止めにならなかったのか?」
「いえ、勿論お止めになられたのですが、エレーヌ様が『どうしても』と仰られましたので……」
「あぁ…… やはりこうなってしまったか…… エレーヌ様は兎も角、アキト君はどのような様子だ?」
「アキト様も『問題ない』と仰られましたものですから、マルデオ様も折れてしまわれました…… それで1度屋敷戻ってから再度出発いたしますので、30分ほどお時間をいただくことになります」
「うーん…… エレーヌ様が我々に同行されないのは助かるのだが、何かあった時に責任問題に成りかねないのが……」
ラークマンはまだ悩んでいるみたいだったが、既に俺達の乗る大鳥車はUターンを始めている。
……
出発してすぐに戻って来た大鳥車に、屋敷の者達は『何かトラブルが?』と驚いていたが、エレーヌが下りてくると『あぁ』という表情をして納得した様子だった。
皆が『トラブル=エレーヌ』で納得しているのも衝撃だが、本人は気にした様子もないのもなかなかだ。
マルデオの屋敷に戻って30分後、俺とエレーヌが乗るための鳥車が用意された。
「エレーヌ。お願いですから無茶はしないでくださいね。
この子は言い出したら絶対に折れません。アキト様、どうかエレーヌをよろしくお願い致します」
ネルサは、御者台に乗った俺に声を掛けてきた―― 妹思いの良い姉だな。後ろで不貞腐れている誰かとは、えらい違いだ。
「アキト殿、私からもお願い致します。どうかご無事で」
マルデオも心配している。否、お前は自分の心配をしていろ。
「マルデオも、気をつけろ」
「ええ。それでは、明日の昼過ぎに合流できると思いますので!
エレーヌさんも無茶しないでくださいな」
「マルデオ様! 私は無茶など致したことはございませんわ」
マルデオもネルサも可哀そうなものを見る目でエレーヌを見ている。本人は全く気付いていないようだが……
俺はゆっくりと鳥車を動かし、今度こそアジトへ向けて出発した。
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