第6話 彰人、タマに教えてもらう
日がすっかり沈んだ頃、俺達はようやくマルデオの屋敷に到着した。
それにしても、マルデオはマジの『金持ち』だ。
ここは、間違いなくマカラの一等地で、周りは大きな屋敷が建ち並んでいた。その中でも一際大きな建物がマルデオの屋敷だ。
マルデオはマカラの町1番の金持ちで、医師【バレック】と船大工の棟梁【トール】との3人で【マカラ三長老】と呼ばれるマカラの最高権力者の1人でもあるらしい。
そんな偉い人なら町の外に出なければいいのに、マルデオは根っからの商売人で、危険を承知で隣国まで品物の買い付けに出かけていく。
今までも危険な目には何度も合っているが、ダリデッカのスピードのおかげで何とか逃げ延びてきたという。
――――――――
【エシューゼ豆知識】
ダリデッカは1羽で、荷物を積んで総重量1トンの状態の大鳥車を引きながらでも、時速40kmで60分は持続して走れる凄まじい脚力と体力を持っており、時速20kmでなら休憩なしでも3時間は走れる。
6人乗りの小型の大鳥車くらいなら、時速30kmで5時間近い連続走行も可能で、1日の移動距離は300km以上と言われる。
――――――――
流石に、今回の件で懲りたかと思えば、
『ゲルナの疾風団の脅威が去って、これからは安心して買い付けに行ける』
と、懲りた様子もなく大喜びしている。
人がよさそうで臆病そうに見えるが、なかなか胆の据わったおっさんだ。流石は、最高権力者の1人というべきか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
屋敷に到着して直ぐに食事が用意され、食堂に案内された。
20人は座れそうな大テーブルに、屋敷の主マルデオとその妻ネルサと俺のたった3人で席に着く。
ネルサは金髪美女で、マルデオよりも12歳も若い20歳。
しかも、ニコニコした笑顔は作り笑いでなく、性格の柔らかさが滲み出ている。
マルデオ。さすが金持ちで権力者だ! 若い癒し系美女を嫁にするとは、隅に置けない奴―― と俺は中年オヤジのような感想を抱きつつ、料理を眺めている。
そう! 眺めているだけだ!
俺達の後ろには1人ずつ給仕が控え、部屋の隅にはメイドさんも多数控えていて、俺はそれがスゲェ気になって、料理を食べるどころでない。
目の前には、俺の世界でも極上と思われる垂涎ものの料理が、テーブルいっぱいに並んでいるのだが、その横には初めて見るちょっと変わった食器―― 変に曲がったナイフやフォークのようなモノが置かれていた。
俺はナイフやフォークを使った食事などほとんど経験がない。自分の世界のテーブルマナーさえ怪しいのに、この世界のテーブルマナーなど分かるはずもなく、固まったまま手を付けられずにいるのだ。
「アキト殿、どうかなさいましたか? 料理がお気に召しませんでしょうか?」
マルデオは俺を気遣って声を掛けてくる。
「この国の、テーブルマナー、知らない」
俺は正直に打ち明ける。
「ああ、これは失礼いたしました。国が変わればマナーも異なるのは私もよく心得ております。どうかお気遣いなく、ご自由にお召し上がりください」
「そうで御座います。マナーなどという些事はお気になさらず、食事を存分にお楽しみください」
マルデオもネルサも気さくで、権力者特有の傲慢さの欠片もない。
俺はようやく安心して、適当にナイフ(?)やフォーク(?)を使い、料理に手を付けることができた。
食事をしながら、マルデオが話す。
「いやあ、盗賊が刀を抜いたときは、肝を冷やしましたよ。
私が『中の物は全て差し上げますので、ダリデッカと大鳥車だけは残してください』と頼んだら、そしたらいきなり笑い出して、『じゃあ、お前の命はもらってもいいな』なんて言うものですから……」
そんなことを言ってたのか!? 盗賊からすれば、元々全部奪う気だから、その交渉自体意味をなしていないぞ。
「次からは、『ダリデッカと大鳥車と私達の命だけは残してください』と頼むことにします」
たぶん、それでも結果は変わらんと思う―― と、つっこむのもめんどくさい。
「ダリモもなかなか手に入りにくい鳥ですが、ダリデッカに至っては【キガロッチ地方】にしか生息していない貴重種ですから、値段は1羽でダリモ10羽分もします。
しかも、うちの大鳥車は特別仕様ですので、通常の5倍の値が掛かっているのです」
それなら、確かに『ダリデッカと大鳥車を残してくれ』と言いたくなる気持ちは分からんでもないな。
自分の命の優先順位より高いのは、どうかと思うが。
「本当に、アキト殿が現れなかったら、どうなっていたことやら」
「アキト様は、私達にとってまさに救世主ですわ」
ネルサも俺を持ち上げる。
「アキト殿なら、私らの娘の婿に迎えたいくらいです」
「まあ、あなた。マイシャはまだ1歳にもなっておりませんよ」
……
楽しい食事も終わり、そろそろ晩餐もお開きになろうというときに、マルデオが声を掛けてくる。
「アキト殿。それでは明日もよろしくお願いします」
俺達は『ゲルナの疾風団』のアジトへ行くことになっている。明日、マルデオの大鳥車で早朝から出発するのだ。
アジトは、マカラから北北西へ約100kmの場所にある。
途中にはミドサウロスの生息地もあり、かなり危険な道中になりそうだ―― ということで、マルデオは俺に同行を頼んできたのだ。
俺もアジトを調べたいと思っていたし、盗賊共をとらえた俺は、奴らのお宝の一部を謝礼として貰えるそうなので、俺としては願ったり叶ったり。2つ返事で同行することにした。
「まかせろ」
俺はそう言って退席した。
……
メイドさんに案内されて、俺は客室に着いた。
客室にはお湯が用意されていて、これで身体の汚れを拭き取るようだ。この世界には風呂はないのだろうか?
「タマ。エシューゼには風呂はないのか?」
《温泉地以外では、なかなか浴場はありません。この辺りでは、お金持ちでもお湯で身体を拭くのが一般的です》
温泉地以外には風呂はないのか……
風呂のない生活はなかなか厳しいが、こればっかりは我慢するしかない。
《そういえば彰人様は、盗賊と戦ったとき本気を出されていないようでしたが、どうしてなのですか?》
珍しくタマが質問してきた。
「貴重な実戦の機会を、無駄にしないためさ」
はっきり言って、俺はあの程度の連中相手なら、ちょっと本気を出せば、戦闘を一瞬で終わらせることは簡単だ。
しかし、それでは折角の実戦が無駄になる。例え大した相手でなかったとしても、対人戦闘は貴重だ。あまりにも簡単に戦闘を終わらせてばかりいると、実戦感覚が鈍り、本当の強敵と戦う時に困ることになる。
だから手を抜いてでも、それなりに時間を掛けて戦うことにした。
『油断している』と思われそうだが、寧ろ逆で、緊張感を持って戦えるわけだ。
《タマにはよく分かりませんが、理由がお有りだったのですね》
「まあな。でもあいつら爆弾まで使うとは、ちょっと意外だった」
《【火炎玉】ですね。まだエシューゼでは珍しいものです。
六大国の1つ【カザナック帝国】で数年前に開発された物ですが、扱いが難しいのと威力がまだまだということで、ほとんど使用されていなかったはずです》
「そんな物を一盗賊団が持っていたってのは、どういうことなんだろうな……
それに、威力がまだまだという割には、あれは人間を戦闘不能にできるだけの威力があったぞ」
現に盗賊共は、あれの爆風で戦闘不能になったからな。
《そうですね。アジトに行けば何か分かるかもしれませんね。
でも、魔王のことも忘れないで下さいよ、彰人様》
分かっているさ。アジトに行けば、盗賊共が盗んだ金品で旅の資金問題が解決できるだろう。その後は、どういうルートで魔王の元へ行くかを考えるだけだ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
部屋には大きな置き時計が置かれている。時刻は9:45。
明日は早朝に出発するといっても、毎日4:30に起きている俺にとっては、普段通りの時間に起きればいいだけだ。寝るまでにはまだ時間もあるし、俺はタマにいろいろと聞いておくことにした。
「タマ、ちょっといいか?」
《なんでしょうか? 彰人様》
「いろいろ知りたいことがあるんだ」
《エシューゼのことでしょうか?》
勿論、エシューゼについても知りたいことは多々あるが、それは旅の合間に少しずつ知ればいいと思っている。それよりも、今更だが、ここに来る前に親父が話していたことが気になっている。
何せ、全く本気にしていなかったから、ほとんど聞き流したもんなぁ……
「『扉の管理者』のことを教えてほしい」
《そっちの情報ですか。そういえば、彰人様は『扉の管理者』ではいらっしゃらないのでしたね。それでは、扉の管理者が『世界』から共有される知識でしたら、不肖このタマがお答えいたします。何なりとお聞きください!》
「お! なんか偉そうだな…… まあいいや。それじゃあ、『管理者』ってどうやって選ばれるんだ?」
《前に申し上げた通り、管理者の条件には
『その世界で生まれ育った人間であること』と
『扉の管理に必要な力を持っていること』があります》
「そうだったな。でも、何故その世界で生まれた者しか管理者に成れないんだ?」
《世界の人間は、生まれた瞬間に世界の『データベース』に、『魂の欠片』が登録されるのです》
「データベース!? そんなものがあるのか?」
《はい。そして、その中に『扉の管理者』や『救世主』に相応しい者がいるかもしれませんので、有力候補を予めピックアップしておくのです》
なるほど。全ての人間を監視するのは大変だから、予め対象を絞っておくのか。
《登録されるのは『人間』だけなのか?》
《はい。人間以外は扉を管理するだけの知能がありませんので、データベースに登録されるのは人間だけなのです》
確かに、いくら強い力を持っていても恐竜には扉の管理はできないわな。
「でも、生まれたときに有力かどうかなんて、分かるものなのか?」
《分かります。強い力を持つ者や、強く成長する者は、生まれたときから『魂』が輝いているのです。そして、世界は魂の輝きの強い者を、定期的に観察しているのです》
「別に観察しなくても、世界は住民の力の強さが分かるんじゃあないのか?」
《その通りでございます。しかし、その者が『扉の管理者』に相応しい人格を持っているかは、観察していないと分からないのです》
なるほど、観察する理由は分かった。だが、
「確か、世界はデータベースに登録されていない『人間以外の生物』の力も分かっているんだよな。なのに、どうして魔王軍のことは分からないんだ?」
《世界で生まれた住民の魂は、その世界特有の波長のエネルギーを出しているのです。そのため魂のエネルギーを識別可能なのですが、異世界の住民の場合、魂の波長を感じることが出来ないため、力の強さも存在も分からないのです》
魂のエネルギーか…… それで異世界の者は分からないのか。
「それじゃあ、魔王軍のことはどうやって知ったんだ?」
《それが…… とても腹立たしいことなのですが、主の元に伝言が届いたのです。
『ごめんね。扉を通って、僕の世界から君の世界に、魔王とその配下の者約2千名が向かったから、後はよろしく』と書かれていたそうです。
それで扉の映像記録を確認したところ、大勢の者達がエシューゼにやってきたことがわかったのです。それで主はブチ切れて、すぐに送信者をブロックしたそうです》
「そ、そうか…… それは災難だったな……」
兎に角、管理者の条件については分かった。
「次は『扉の管理に必要な力』について教えてくれ」
《『扉の管理に必要な力』というのは、『扉を決まった場所に固定する』ことと『扉のネットワークを瞬時にオン/オフする』ことが可能な力のことです。彰人様には簡単に思われるかもしれませんが、これがなかなか大変な力なのです。
そして世界は、管理者として相応しい者に夢の中で接触し、スカウトするのです》
「夢で接触? 夢の中で『扉の管理者』になってください―― とでもいうのか?」
《その通りです!
『貴方は素晴らしい力を持っています。その力を世界のために役立てましょう』という感じでスカウトするのです。それで相手がOKしたなら、契約成立です》
凄まじいほど『胡散臭い』な。
詐欺の臭いしかしないわ! そりゃ、成り手が現れないわけだ。
しかし、『巫女の一族』は昔これでOKしたんだよな。よく引き受けたと感心する。
ん? ちょっと待てよ!
そういえば俺の家は、先祖代々『扉を祀っている』のだったが―― もしかして、じいちゃんか親父が『扉の管理者』なのか?
というか、扉がずっとあの蔵の中にあるってことは、そうに違いない。
「タマ。扉の管理者に『ご褒美』みたいなものはないんだよな?」
《はい。前に申し上げた通り
『長期間に亘り扉を管理する責任』と
『救世主として異世界へ赴く義務』が科せられるだけで、褒美のようなものは一切ございません》
恐らく、神月家の者は先祖代々『管理者』を務めてきたのだろう。当然俺もその内に管理者をやらされることになるのだろう。
タマの話を聞いていると、管理者に何のメリットもないのに、先祖代々よくやるよ。
否、1つだけじいちゃんが喜びそうなことがある。
異世界なら、思い切り『神明流の技が使える』ってことが!
多分ご先祖様達も、そのためだけに管理者を務めてきた可能性が高い。
ていうか、間違いないと断言できる。
「救世主として異世界へ行くのが『管理者の義務』ってどういうことだ?」
《管理者は『扉に浮かぶ文様』が見えましたら、48時間以内に扉を通って異世界に赴く決まりになっております》
「破ったらどうなるんだ?」
《それはもう、世界から一日中、救世主として赴くように言い続けられます》
それは嫌だな……
「俺は管理者ではないのだが、救世主になっても良かったのか?」
《それは問題ございません。『扉の管理者』は、その世界と正式に契約した者にしか務められませんが、『救世主』は文様の見える者なら誰が務めても構わないのです》
「でも、そいつが悪党だったら困るだろ?」
《いえいえ。他の世界の困り事に力を貸してくださる『お人好し』が、悪党なわけはございません》
でも、俺みたいに何にも信じずに扉を通って来ることもあるから、悪党はいないとは言い切れない気がするが……
取り敢えず、管理者については大体わかった。
「ついでに『世界』についても教えてくれないか。世界って俺のイメージでは、『星の意思』みたいな感じなんだが、それで正しいのか?」
《その認識で、ほぼ間違いございません。
星の形状をしていない世界もございますが、どちらにしろ世界には『意思』があって、そこに住む者達―― 特に人間を見守っている存在と言えます》
「人間を見守っている? つまり、神様みたいなものなのか?」
《見守っているといっても、世界が住民に対して干渉することは滅多にありませんし、住民の様子を知ることはできますが、住民に力を貸すことはできません。俗に人が言うところの『神』とは違うものです》
『神じゃあない』か…… そうだよな。神なら他の世界から『救世主』なんてわざわざ呼ぶ必要ないよな。世界は住民を見守るだけのもので、人の願いを叶えたり、人に都合よく力を貸したり―― というような『人の幻想を顕現するものではない』ということか。
「じゃあ、『扉』は何のためにあるんだ? 扉は『いろんな世界を繋ぐネットワーク』と言ってたよな」
《世界が他の世界とネットワークを繋ぐには『扉』が必要なのです。つまり、扉を持たない世界は他の世界と繋がることができません》
「扉のない世界もあるのか?」
《扉を維持するためには、データベースに登録されている魂の欠片が、一定数以上必要なのです。ですので、人間が減り過ぎますと扉は維持できなくなるのです。
そのため『人間の危機は世界の危機』という認識になるのです》
「でも、扉がなくなっても世界がなくなるわけではないのだろ?」
《それはそうですが、意思を持った世界が、たった1人で悠久の時を過ごすのは、ものすごく退屈です。ですから他の世界と繋がっていることは、とても重要なのです》
確かに、永遠に『ぼっち』は辛いよな…… 人間が特別扱いされるわけだ。
「じゃあ、世界同士が『ネットワークを構築する条件』って何かあるのか?」
《はい。ネットワーク構築が可能な世界の条件としましては、『扉を持つこと』は当然でございますが、『人間の生活環境がある程度近いこと』があります。
あまりに違いすぎますと、救世主の召喚に影響が出てしまいますので、そのようになっております》
確かにそうだな。水中の世界とかに召喚されたら、いきなり『終わり』だしな。
《もう1つの条件は、『1日の長さが同じ』であることです。
エシューゼと繋がる世界は必ず1日24時間制となっております》
「そういえば、エシューゼも1日24時間だったな。
でも俺の世界とエシューゼでは、1年の長さが微妙に違うよな」
《1年の長さにつきましては特に決まりはございません。150日くらいの所から千日を超える所まで、様々な世界がございます》
「条件を満たす全ての世界が繋がっているのか?」
《いいえ、そんなことはございません。
世界によりネットワークのキャパシティが決まっており、キャパシティの大きさにより繋がる世界の数が決まっております。
基本的に、世界の『ネットワークへの在籍期間』が長くなるとキャパシティは増えていきます。在籍期間が短い世界は、最初は10か所程の世界としか繋げられないのです。因みに現在のエシューゼは106か所の世界と繋がっております》
「『基本的』ってことは、他にもキャパシティを増やす方法があるんだな?」
《はい。他の世界への貢献度によってもキャパシティは変わります》
「貢献度?」
《彰人様のように、他の世界の救援要請に応じられた『救世主』の活躍が、世界間の貢献度となります。救世主が救援に成功すれば、派遣元の世界の貢献度が上昇し、ネットワークのキャパシティが増加して、繋がる世界の数を増やせます》
より多く救世主を派遣した世界ほど『立場が強くなる』ってことか。
「じゃあ、逆に繋がる世界の数が減ることもあるのか?」
《勿論あります。
例えば、今回エシューゼがされたような『押し付け』を行った世界は、押し付け先の世界から50万日間繋がりが切られますし、世界の信用度が下がって、キャパシティが減らされます》
他の世界に迷惑かけたら、減らされるのは当然だな。でも50万日って、全然イメージわかないな。
《ですが、キャパシティいっぱいまで他の世界と繋がっていることは、ほとんどございませんので、少々キャパシティが減っても懲りない世界は、何度も押し付けを行います。
実際エシューゼに押し付けを行った【ガピノラード】という世界は、以前にも別の世界に押し付けを行ったことがあるそうです》
「常習犯なのか? それは困った世界だな」
《本当にそうです! もっとペナルティを厳しくすべきです!》
「でも、そのガピノラードは、それだけ『どうしようもできない災いの起こり易い不幸な世界』とも言えるな。当然、救援要請は出しているだろうし、それが無視される形になったと思うと、少し同情するよ」
《た、確かにそう思えなくもないですが、それでも許せません!》
そういや、そのことで1つ気になることがある。
「そういえば、ガピノラードからの救援要請は、俺の世界の扉には届いていなかったみたいなんだけど、何故だか分かるか?」
親父は、扉が光るのを見て『2年ぶり』と言ってた。
《それは、彰人様の世界とガピノラードのネットワークが繋がっていなかったから、ではないでしょうか。
それに、繋がった世界同士でも、いろいろと世界間の『取り決め』があるので、必ず要請が届くわけではないのです。例えばですが、
『同じ世界からの要請は、連続して受けない』とか、
『要請受付中は、別の要請を受けない』とか、
『要請の解決後、一定期間以上空けないと、新たな要請を受けない』とかのルールもございますので、どれかに抵触したのかもしれませんね》
確かに、タマのいうどれかの条件で、救援要請が届かなかった可能性はある。
しかし、もう一つの可能性があることに俺は気付いてしまった。それは――
『俺の力が、ガピノラードの要請基準を下回っていて、文様が見えなかった』
可能性だ。
その場合は正直やばい…… 俺だけでなく、じいちゃんや親父にも『見えなかった』ことを意味するのだ。
「今回エシューゼでは、どういう基準で救援要請を出したんだ?」
《何せ今回は魔王の力が分かっておりませんのと、2千という魔王軍の数を考慮し、過去エシューゼにいた最強の者の力の約1.5倍―― 実に扉の管理者基準の『45倍』に当たる力を条件にして、救援要請を出しました》
「そいつはなかなかの高設定だな」
《そうなのです! 正直、その設定で救世主が見つかるかどうかは『賭け』だったのですが、なんと! 要請を出した僅か5分後に、彰人様が応えてくださったのです!》
「そんなに直ぐだったのか!?」
《はい! もう奇跡と言って良いほどです!》
「もし、その基準で救世主が現れなかったときは、どうするつもりだった?」
《その場合は、1日毎に少しずつ基準を下げて要請することになっておりました》
「下げてもいいのか!?」
《仮に魔王より力が下だったとしても、必ずしも勝てないわけではありません。
勿論逆の場合も、絶対に勝てるという保証はありません。あくまで確率の問題です。
ただ、あまりに力の差が大きすぎる場合は、勝てる確率が低くなりすぎますので、下限は管理者基準の28倍に設定することになっておりました》
確かに『力』というだけでは今一曖昧だ。
攻撃力なのか総合的な戦闘力なのかはっきりしない。恐らくは、魂に内包されているエネルギー量ではないかと想像するが、戦闘技量などが考慮されていないなら、例え力が劣っていたとしても、勝機は十分あるかもしれない。
こればかりは、魔王を直接見て判断するしかないか。
下手したら、俺はエシューゼで一生を終えるかもしれないな……
その時は、温泉地で生活しよう。
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